祖母の気まぐれで一瞬だけ猫のいる幸せを体験できた話
家に帰ると白い仔猫がいた。
真っ白の体に薄い青い目。うっすらと桃色の耳・鼻・口。小学生女子が夢中にならないはずはない。
「足にまとわりついて離れないんだよう」
祖母が植木の手入れをしていると近づいてきたそうだ。ふわふわの毛玉に懐かれたら祖母も嫌な気持ちはしない。そのまま家にあげてしまったのだ。
学校から帰ると白い仔猫が家にいる。ペットが欲しいと毎日訴えていた姉妹にとって最高のプレゼントである。
「可愛いぃ!可愛いようぅ!名前なんにしようか?」
「小さいからチビ?」
「普通すぎない?めちゃくちゃ可愛いよ?」
「じゃあ、カッコよくチェビィ」
「いいね!チェビィ!」
なにがカッコいいのかわからないが、あっという間に白い仔猫はチェビィと名付けられた。
ふわふわの綿毛のような仔猫はなにをしても可愛い。頼りなげに
「にゃ~…」
と小さく啼く声に保護欲をかき立てられる。
華奢な口元が開く様は愛らしさMAX。と・に・か・く可愛いのだ。カワイイがそこに存在している。
「チェビィィ💕」
全ての所作が愛らしいチェビィから片時も離れなくなった。
祖母も孫が喜ぶ姿を見て、大いに満足した。
しかし。
祖母は猫を飼う気など全くなかった😨
じゃあ、なぜ家に入れたのか?
可愛い毛玉を孫に見せようと家に入れただけなのである。
飼う気がないのに酷い、と思う人がいても仕方がない。しかし昭和は、そういう空気の漂う時代だった😨
大人の身勝手な考えで振り回され酷いと泣き叫んでも子どもだからで済まされた。それが当然で、いつの間にか忘れるのが子どもなりの心の守り方でもあったと思う。
私達姉妹が高い鈍感力の持ち主だったので恨まずに済んだともいえる💦
妹とも「結構、酷かったよねー」と笑いながら、たまに話す。noteネタとしては最高なのだが。
さて、チェビィの話に戻ろう。
一定の時間、孫が喜ぶ姿を見て満足しきった祖母は、チェビィを外に出そうとしたが孫は飼う気満々。抱いて離さない。
飼い主が探していると言えば、首輪がないと孫は主張し、
爪とぎをするから家具が傷むと言えば、私達がしつけると言い返す。
怒った祖母はとうとう、
「猫はね!魔物だからね!可愛いのは仔猫のうちだけだよ!」
と喚き散らした。
この騒動の原因を作ったのは自分なのに、チェビィとワガママな孫が悪いとばかりに怒り出したのだ。
祖母は怒ると怖い。思わず手がゆるんだ瞬間、チェビィはスルっと抜けて玄関へと走り出した。
ワーワーギュウギュウとされ辛かったのだと思う。
祖母は素早かった。
チェビィと共に玄関へ移動しドアをほんの少し開けたのだ。
「あ!」
我が家の「猫のいるしあわせ」はあっという間に幕を閉じた。
ドアを開けたことを妹が激しくなじったが、祖母は平気の平左。
「自分で出て行ったんだョ!」
妹と私は泣いて抗議をするしかなかった。
後日、妹が近くの猫屋敷でチェビィらしき白猫を発見した、と悔しそうに教えてくれた。
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