青春とシリアルキラー

第16話 日やそのほかのすべての星を動かす愛に|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」【最終回】

第16話 日やそのほかのすべての星を動かす愛に|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」【最終回】

前の話へ / 連載TOPへ /      ※  人生の序盤で道を踏みはずした僕は目を覚ました。  すでに朝食は用意されていた。パン。目玉焼き。ソーセージ。エポワスチーズ。そして牛乳。  僕は牛乳なんて飲み物じゃないとつねづね主張しているのだが、我が家の料理番である母親は、なんど云っても理解してくれなかった。  パンで牛乳を押し込むようにして食べてから、てきとうな服に着替えて外に出た。さて、どうしよう。僕には時間があったけれど、あるのはそれだけで、あとはなにもなかった。と

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第15話 サルでも書けるミステリー教室──隠れて生きろ──ウイルスで幸せになってもいいんだよ|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第15話 サルでも書けるミステリー教室──隠れて生きろ──ウイルスで幸せになってもいいんだよ|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  8月になっても、ステイホームをテーマとしたミステリー小説は書き上がらなかった。  ちなみに9月発売である。  まずいのである。  とはいえ僕が遅筆なのはいつものことだし、まずいまずいと云いながら毎度なんとかなっているので、まあ大丈夫だろう。すでにプロローグ部分は終わらせて、担当編集者に送ってある。あとはラストまで駆け抜ければいい。最初が書ければあとは楽勝。それがミステリー小説だ。  ミステリーは形式美。  お約束によって成り

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第14話 そして伝説へ──小説に書かれていることなんて、だいたいが嘘ですよ──もうちょっとだけつづく|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第14話 そして伝説へ──小説に書かれていることなんて、だいたいが嘘ですよ──もうちょっとだけつづく|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  無観客配信ライブが幕を開けた。  カメラは回り、楽器をかまえた5人を撮影している。  やるしかない。 「はいどーも! みんな、僕たちのライブを見にきてくれてありがとう! リモート配信だけど最後まで楽しんでってね!」  僕はテンションだけで叫んでみたが、そこから先のセリフなんて考えていなかった。  そういえばさっき、キーボード担当がMCをやるとか話していた気がする。  うながすようにそちらを向くと、キーボード担当が自信満々に

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第13話 ライブの詳細──ウイルス禍の下北沢へ──トーク&ライブ!|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第13話 ライブの詳細──ウイルス禍の下北沢へ──トーク&ライブ!|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  そのとき僕は、ギターをかかえて呆然としていた。  まわりではスタッフが駆け回り、照明や機材のセッティングにいそがしそうだ。どうしてこんなことになってしまったのだろう? 「では、準備ができましたので、配信を再開します。このあとの流れはみなさんにおまかせしますので、よろしくおねがいします」 「よろしくおねがいしまーす」  メンバーたちが言った。  緊急事態宣言のせいでここ数ヶ月、まったく音を合わせていないのに、なぜ彼らはこんなに

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第12話 ウイルス騒動が終わって世界がふたたび動き出す──そして語るのはまた自殺の話ばかり──ライブの依頼|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第12話 ウイルス騒動が終わって世界がふたたび動き出す──そして語るのはまた自殺の話ばかり──ライブの依頼|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  東京は、哀しい活気を呈していた、とさいしょの書き出しの一行に書きしるすというような事になるのではあるまいか、と思って東京に舞い戻って来たのに、私の眼には、何の事も無い相変らずの「東京生活」のごとくに映った。  これは太宰治が終戦直後に書いた短編、『メリイクリスマス』の冒頭だが、緊急事態宣言が明けた5月末の東京も、似たようなものだった。れいのウィルスは完全に消えたわけではないというのに、そこにあるのはいつもの日常だった。

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第11話 びっくり、僕が世界の最先端に?──「いつもの生活」が戻ってきたあとでダメになる人たちは放置されるだろう──緊急事態宣言おつかれさまでした|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第11話 びっくり、僕が世界の最先端に?──「いつもの生活」が戻ってきたあとでダメになる人たちは放置されるだろう──緊急事態宣言おつかれさまでした|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  新型ウイルスの出現によって、世界のあり方は一変した。  感染拡大をふせぐために各国は都市封鎖を決断し、日本政府も緊急事態宣言を発出したわけだが、 「変わらん……」  僕にあるのは、あいかわらずの生活である。 ※  4月某日  食器を洗って洗濯機を回して、それから掃除機をかけようと思ったら、息子がべたべたくっついてきた。 「パパ、おなか空いた」 「さっき食べたばかりだろ」 「あのね、オムライスが食べたい」  小学校はとっく

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第10話 擬人化について──擬人化としてのシリアルキラーについて──シリアルキラーとしての新型ウイルスについて|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第10話 擬人化について──擬人化としてのシリアルキラーについて──シリアルキラーとしての新型ウイルスについて|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  家事をしたり、バンド練習をしたり、その練習動画をYouTubeにアップしたりしていたら、なんとびっくり、12月が終わろうとしていた。  のんびりすることにかけてはプロの僕ではあるが、いくらなんでものんびりしすぎな気がしたので、阿南(あなん)さんに実情をそのまま告げた。遅筆作家をごまんとかかえている阿南さんの対応は適切だった。たちまち打ち合わせの日程が組まれ、恵比寿にある高級イタリアンが予約された。  こうして、年内最後の打ち

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第9話 『セロトニン』の効用について──ベアトリーチェの不在──僕が話せることなんて宮本武蔵についてくらい|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第9話 『セロトニン』の効用について──ベアトリーチェの不在──僕が話せることなんて宮本武蔵についてくらい|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※  朝から妻がいないので、家事を終えたあと、録(と)り溜めていたテレビ番組を観ることにした。  それは、『ひとりキャンプで食って寝る』というタイトルで、じつは前からキャンプをやってみたいと、ひそかに思っていた僕にとって、うってつけのドラマだった。  さすがに、「ひとりキャンプ」の場面だけでは物語にならないらしく、ドラマの前半部分は主人公がほかのキャンプ客とコミュニケーションをとっている場面だったのでそこは飛ばして、主人公がテント

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第8話 『ジョーカー』を観に行く──阿南さんによるシリアルキラー講座地獄篇──「僕が励ましてもらいたいですけどね。むしろね」|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第8話 『ジョーカー』を観に行く──阿南さんによるシリアルキラー講座地獄篇──「僕が励ましてもらいたいですけどね。むしろね」|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※   僕は映画館が苦手だ。  映画を鑑賞中に劇場で2時間じっとしていられなくて、スマートフォンをチェックしてしまう人が多いという記事をYahoo!ニュースで読んだが、僕が映画館を忌避している理由はまさにそこだ。自分勝手にスマホをつけたりとか、ひどく酔っていたりとか、おそろしい連中があの暗闇にまぎれこんでいるのではと不安で映画どころではないし、実際にその手の人間に遭遇したら、もう立ち直れない。そんなわけで、僕は映画館に近寄らず、子

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第7話 信頼できない読み手と語り手──阿南さんによる小説講座地獄篇──とりあえずの結論「これは小説だが、本当の話です」|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

第7話 信頼できない読み手と語り手──阿南さんによる小説講座地獄篇──とりあえずの結論「これは小説だが、本当の話です」|佐藤友哉「青春とシリアルキラー」

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ※ 「あーだめだ。意味が全然わかんない。こんなの、だれが読んでも小説でしょう? それともあれですか、作者の実体験が少しでも書いてあったらエッセイなんですか? だったら『火花』も『コンビニ人間』も、みんなエッセイになっちゃいますけど! っていうか、ほとんどの小説がエッセイになっちゃいますけど!」  ごぶさたしております。  僕はこの連載小説……『青春とシリアルキラー』が、読者からエッセイだと思われていたことを知ってからずっと、中華料

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