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青春とシリアルキラー

"この本は、なんだかわからないうちに人生をしくじった僕と、その周辺について書いたものである(中略)しくじった人生をいかに生きるか。僕が求めているのはそれだけだ"2022年発刊の本書は生きにくい中年男性に贈る限りなく私小説じみたメタフィクション。

個人的に著者の『転生! 太宰治』が面白かったのと、帯にひかれて手にとりました。

さて、そんな本書は1997年に神戸市須磨区で発生、犯人が当時14歳であったことから社会に驚きを与えた『神戸連続児童殺傷事件』を題材に、かって執筆した(本書巻末に収録されている)『ドグマ34』が出版社の判断でお蔵入りになった"小説家"『僕』のもとに『続きを書かないか?』と、当時の担当編集者『阿南さん』から連絡があったところから始まり【結婚して子供が出来、家も買った38歳】一見すると幸せなはずなのに、どこか自分を『社会不適合者』と感じ、自殺すら考えている"小説家"『僕』は結局、続きを書き始めるのですが。

まず、作中の中でも『エッセイやコラムと間違われる』と書かれてますが。本書はあくまで小説であり、フィクションなのですが。語り部たる"小説家"『僕』が、著者自身と【あまりにも同一人物に見えてしまい】なんとも言葉にしにくい不思議な読み心地でした。(太宰治的な作風を狙った?)

一方で、38歳で玉川上水に飛び込んだ太宰治、また35歳で『ぼんやりとした不安』で自殺した芥川龍之介でなくても、本書での小説家『僕』。中年男性が抱える【挫折感、生きづらさ】は世代の近い私には【感覚的に共感できる】のですが。しかし今だと"非正規雇用のコロナ禍での失業、親の介護問題とかでもっと大変な人もいる!甘えるな!"とか、言葉にしてしまったら、おそらくは(外野から)【非難されるだろうこと】を、本書は代弁してくれている感じもして、何だか嬉しかった。

著者と同じく、かっての事件に大きな衝撃を受けた人、また漠然とした不安や挫折を抱える中年男性にオススメ。

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