写真小説

ロマンチック革命の夜に

土曜日の夜だった。私は部屋の明かりを消して、PCでNetflixを見ていた。大して見たい映画があった訳ではないが、こうする他に何もすることがなかった。PCからはバイクのエンジン音が流れていて、それに驚いた私は急いで音量を下げた。

横には酒に侵され眠った女が二人居た。3歳年下の男にフラれて酷く落ち込んだ人間と、同じ学部の男に同棲している部屋で浮気されていたところを目撃した人間だ。

前者は鉄板とい

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雨の日の帰り道

 天然のミストと名付けるには少々控えめすぎる、そんな雨粒が降り注ぐ昼下がり。少しだけ乾き気味だった私の人生に少しでも潤いを与えてくれようとしているのだろうか。神様もずいぶんとお節介なことをしてくれるものだ。

 大学の講義が終わった午後。本日発した言葉、ゼロ。

 大学に入ってからというもの、誰とも話さず一日の講義が終わることが極稀にある。仲の良い友人達と講義の時間帯が合わないこと。そして、そんな

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SUNNINESS (14) 「だから平野遼を評論する」

「ねぇ、パスカルって何で出来ているの?」とエリは尋ねてきた。彼女はところどころ常識のないところがあり、周りに人がいる時には恥ずかしくて聞けない事でも二人の時には平気で尋ねてくることがあった。男性を無抵抗にするほど頭の切れる彼女が、私の前では目にも唇にも素直な気持ちが書かれた様子で一心に耳を傾ける姿は可愛かった。それは優越感ではない。年寄りらしい心境だった。ただ、この時ばかりは私も「え?」だった。パ

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I LOVE YOU!
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SUNNINESS (13) 「だから平野遼を評論する」

そうだ。あの時も辛かった。あれは、Jリーグが開幕した年だった。どんなサッカーをやるのか、ハーフタイムはどんな出し物が見られるのか。いよいよ当日の夜になると選手たちが入場してくる。ボールを手にしてウォーミングアップを始める。この時、気付いたのではあるがラジオではパスの交換を伝えるのですらひどく面倒な作業だ。ただ解説者はこれを簡単にしようとは思わない。くどい。とくに名前の連呼がまずい。ラジオでは今更ど

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SUNNINESS (12) 「だから平野遼を評論する」

しかし、財布の中身を確認しようとして、ポケットから焼き肉屋のマッチを落とした瞬間、二十年もの長い間、頑強に日本放送協会との闘いに耐え続けた母の顔が私の脳裏をよぎった。母は毎日夜遅くまでパートに出ていた。今は私に仕送りをするため焼き肉屋の荷下ろしを手伝っている。鉄の女、タイムセールの女王、安い家電製品のキング、どれもが彼女に与えられた我が家での称号だった。生き馬の目を抜くような世の中にはりめぐらされ

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THANKS!THANKS!
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SUNNINESS (11) 「だから平野遼を評論する」

時計は二時を指していた。コーヒーの後の長い休みは、体も心も食物の消化にとりかかるだけだった。私は少し眠くなってきた。しかし、そろそろ学校に行く支度をしようかと腰を上げた。エリも壁に寄ったなり大きく伸びをした。昼間はまだ太陽がきつく照り付けてはいたが、今は秋の穏やかな光のにこやかさが目の前で波のように動く緑の中に没していた。私はタバコをくわえながら上着を羽織った。大家さん宅の離れからは犬の吠え声が聞

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SUNNINESS (10) 「だから平野遼を評論する」

食事が終わると私はエリにコーヒーをごちそうした。マメの苦みが出ないように短時間で抽出したモカは酸味の強い味を好む彼女のための定番だった。エリは畳の上に両足を延ばして肉の燻製をかじりながら美味しそうに熱いコーヒーをすすった。昼下がりの光線は窓を通して室内に注ぎ、それを受けたテーブルの輪郭や、ニスで塗られた静物画や、内気で引っ込み思案な私や、まだ人間関係への順応力を持った当時のエリや、そんな二人の野心

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I LOVE YOU!
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SUNNINESS (9) 「だから平野遼を評論する」

九月の半ばから学校は始まった。学科も本格的な授業に突入した。自分で自分に刺激をあたえる日々がはじまり、将来のままならぬ集団のなかで追い越し、追い越される、あの生存競争が私の心をかりたてた。うまく描けない不安は消え、行動しなければならない緊張がせまった。それは肌に直接迫る圧迫だった。過酷な日々だったが、私はひたすら前進した。そして苦しい前進のはてに蓄えられた英気が、ようやく自分の生活態度を変えた、と

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SUNNINESS (8) 「だから平野遼を評論する」

すると「あなたの評論は…」と彼女が私の背中に声をかけてきた。私は足を止めた。そのとき私と彼女の視線が重なった。私は自分に魅力がないことにはわかっていたので、じろじろ相手を見ることは避けねばならないと感じながらも、視線を女性に向けずにはいられなかった。私は返事をせず、というより返事を忘れて彼女を見つめた。その一瞬で彼女は何かを悟った。眼の中の動揺に気付いたようだった。しかし彼女はその心の色を痛いほど

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THANKS!THANKS!
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SUNNINESS (7) 「だから平野遼を評論する」

振り向くと、その人はこちらを見て立っていた。それは上着とズボンがつながった黄色い作業着を身に着けた女性だった。遠くへ去っていく車の音を聞きながら私はその女性を見つめた。胸をぐっとそらしながら細おもての顔をこっちへ向けている。絵具で汚れた繋ぎには北窓をとおして入ってくる光がやわらかい影を落としている。行きずりの人と目が合っても、さして動揺はしないが、あまりに無防備な状況での美しい女性との出会いに私の

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I AM HAPPY!
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