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スマートトングシステムを設計/試算してみた

Tongar:ゴミ回収トング

奈良先端科学技術大学が開発したIoTトング。
奈良の鹿が大量のゴミを食べてしまい、この問題を解決するために街に落ちているゴミを解析しようと開発した機器である。

仕組み

仕組みはシンプルで、スマートフォン用の内視鏡カメラをトングに固定し、カメラで掴んだものを解析して10パターンほどに分類するというものだ。
ゴミの種類と位置を特定するためにスマートフォンのGPS情報を利用しているものと思われる。
ここからは推測になるが、大学の実験で使われた機器ということも考えると、情報はクラウドに送られず検証も学生がほとんど手動で行った可能性もある仕組み的に面白いので製品化しても良いと感じる…

大学で行った実験の目的は?

実際にゴミ拾いを行い、システムの問題点を検証したものと思われる。
主に下記の部分が主たる検証対象だったようだ。

 1. どの程度の誤検知が発生するか?
   - 拾ったモノの誤検知
   - 何も拾っていない状態での誤検知
 2. GPSの制度検証

あくまでも技術的な検証がメインだったようだが、実際にゴミ拾い活動についての注目度は高い。
そこに技術的な特徴を付与する事で、別の価値を提供するビジネスは無いことは無いと思われる…

ゴミ拾いSNS:ピリカ

例えばゴミ拾いSNS「ピリカ」である。
SNSに参加し、ゴミを拾った情報を共有し一体感を持ってゴミ拾いを行うことができる。また、企業や自治体もゴミ拾い問わかりやすい慈善事業を推進している団体には資金や支援を行いやすい。
実際に多くの団体が、ピリカに協賛を行っている

人が集まればお金が集まる。更に人を集めるためにはプラスαの技術などを利用した広報を行って拡充する。
そのような広報ツールとして「IoTトング」はかなり優秀なように感じた。

システム化してみる

実際にIoTトングを商品と開発する場合はどのような形が理想的であろうか?
少し想像をしてみる。

要件:コンセプト

要件は今回の仕組みで最も大事なことである。コンセプトと言ってもいい、できる限り短い文章で誰でも分かる文章が望ましい。

今回は下記のようなコンセプトでシステム設計を行う。

「誰でも簡単に参加できるゴミ調査」

重要なのは「誰でも」「簡単に」の部分である。

仕様定義:トングの仕組み

現在の仕組みでは色々と大変な部分があるため、仕組みを改善して販売可能なレベルまで落とし込む、最初に仕組みの部分である。
現状はトング先端にカメラを設置し、連続した画像を解析してデータを回収するようにできている。これだと常に画像解析が動くため電池消費が激しい上に、スマートフォンのような高速処理が可能な機材が必要となってしまう。
仕組みを単純化するために、機械的なスイッチにより写真を撮影し、撮影された写真のみを解析するような仕組みに変換するのが簡単である。

重たい処理を常に行う必要があり、販売には向かない点がいくつかある

トング内側に物理スイッチを作成し、トングがしまった場合(力が入った場合)にカメラがゴミを撮影する仕組みに変更する。
そうすることで、すべての画像に対して処理を行う必要がなく、誤検知も減るものと思われる。

物理スイッチをトング内に設置して、開閉を感知して写真を撮影する

仕様定義:接続は無線か?有線か?

次に、スマートフォンに接続し、撮影された画像を解析したりクラウドに送信する必要があるが、これはリアルタイムに行う必要があるのだろうか?
というのも、カメラとスマートフォンとの接続に課題がある。

優先とした場合にiPhoneとAndroidの両方に対応する必要があるし、その場合、最大で3種類の接続に対応する必要がある。

・ライトニングケーブル
・USB-C
・USB-Micro B

これは面倒である。(技術者が面倒というのは「大量に開発時間がかかるのでめちゃくちゃコストアップする」という意味です。)

では、物理ではなくブルートゥースなどの無線通信はどうだろうか?
今回の仕組みでは町中での運用を主としているため、常に断線の可能性がある 町中で無線イヤホンが途切れる経験がある方は多いだろうが、それである。これを考慮すると、結局トング側に記憶領域を持っておき、同期する仕組みを作っておいたほうが良い。
つまり、トングだけで仕組みは完結させておき スマートフォンで情報を吸い出し、提供するような形である。

データは記憶領域から非同期でスマートフォンに同期する。

この仕組みであれば、SIMを入れられるようにして、クラウドに同期させるのも有りである。そのほうが仕組みが簡略になり開発するものも減る。

SIMを入れた場合にスマホアプリが不要となるため、コストダウンとなる。

仕様定義:トングの機能

トングで取得するのは実は画像だけでは不味い。
「時刻」「位置」の2種類は確実に取得する必要がある。
そのため、この2つを取得できる仕組みをトング側に追加しておく、具体的には「RTC」「GPS」である。(GPSがあればRTCは不要な気もするが…)
更にこれらを動かすためのバッテリーも必須であろう。


GPS、RTC、バッテリーも必須である。

なかなかゴツいトングになってきたが、実際に重量があるのはバッテリーのみなので、頑張って設計すればスマートトングになると信じている。

仕様定義:拾ったのは誰か?

拾った人を認識しておき、管理する仕組みは必要かどうか?
仕組み的に言えば必須ではない…しかし、人の気持ち的に「私がこれくらいやりました!」というのは必要であろうと考える。
今回の仕組みではスマートフォン不要でLTEによる直接通信によりデータが蓄積される設計である。この場合、ユーザとトングとの紐付けが難しい用に感じる。

今回はトングにQRコードを貼っておき、そこを撮影しユーザ登録をする仕組みを実装する。こうすることで駅や公共施設内で自動レンタルを行うことも可能になりそうである。

仕様定義:利用

利用者は下記のような流れでスマートトングを利用する。

1.トングに付属しているQRコードからURLに移動
2.URLにて個人情報を登録
3.トングを利用し、ゴミ拾いを行う

トングはLTEが内蔵されており、ゴミの画像をクラウドへ転送する。
ゴミの画像は1つに付き一枚〜数枚であるため、クラウド側で大きくない負荷で解析を行うことができる。利用者はゴミ拾いを行いボランティアに参加でき、ゴミの情報は自治体や企業に共有され、活用される。

トング貸出機のイメージ

ビジネス的には下記のような感じでお金が回ってくれば良い。

お金と情報の動き

開発費を試算してみる

一体、このゴミ拾いの仕組みにどれくらいお金がかかるのだろう。
超大概算で試算してみよう。

開発費:デザイン/UI

下記は機能単位での画面推移図である。1つの機能では1〜3ページほどの画面を作成する必要がある。9個機能があるため、最大で27ページ作成する必要がある。

画面推移図

単純にデザインだけ設計するだけでも1ページ当たり5万円程度なので、単純に1ページ10万円程度で270万程度をWebページ開発では見積もっておこう。

開発費:内部機能

内部の機能についても当然ながらお金がかかってくる。

中の機能

超ざっくりでも10この機能とデータベースが必要なイメージで作成してみた。1つの機能開発に100万程度と試算して1000万円程度を内部の開発/検証費用として見積もっておこう。

開発費:ハードウェア

ハードウェアの開発は通常は初期のロット数やプラスチックの金型の有無などで大きく価格が変わってくる。
イメージ的には金型を作成する場合は500〜1000万円程はプラスになるイメージで1つ当り5000円程度であれば、2000個を開発依頼をした場合 多めに2000万円ほど見積もっておけば問題ないだろう。(超概算なので、実際は見積もりもらって、今回は基板開発なども必要な場合もあるため、かなりややこしい話になると思われる。)
また、バッテリーを利用するため何らかの規格(PSE規格)を取得する必要があるし、電波法に関する規格も取得必要がある。
この部分にも100万円ほど費用がかかってくる。

開発費:合計

頂戴概算で3370万 ほどで開発ができると推測される。
この概算には2000個分の費用も入っているため、1個当り1.7万円ほどの利益が出せればビジネス的には成り立ってくる…

デザイン/UI:270万
ソフトウェア開発:1000万
ハードウェア開発:2000万
規格取得:100万

見返すと、もう少しソフトウェア開発費用を大きくしないと不味い気がしてくる…(超ざっくり試算しすぎた感じがする。)

まぁ、しかしこんな感じで想定ができれば、どうやって売上を上げていくかを考えて、不明確なところをなくしていけば、いつかビジネスとして成り立つのかもしれない。

結論

不明確な部分も多いが、明確である部分を明らかにしてビジネスを設計していけばミスも減ってくると思うので、こうやって遊びで試算してみるのも面白かった。
営業面と利益の上げ方については言及してはいないが、そのあたりも推論でもいいので、ロジカルに組み立てると問題や可能性がもっと見えてくるのかもしれない。

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