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30年後の人類はパブリックブロックチェーンをどのように使っているか

パブリックブロックチェーンはマネーゲームの先に何を形成できるか

HashHubの平野です。
最近よく考えるトピックに、次の世代にとってブロックチェーンはどういった意味をもつものになるかということを考えます。あるいは、次の世代までいかずとも20年後や30年後の人類にとってのブロックチェーンについてです。

特にパブリックブロックチェーンの世界においてですが、暗号資産やブロックチェーンはマネーゲームの側面も強く、ときに長期的ビジョンを失います。特に、パブリックブロックチェーンはほとんど間違いなく新しい時代の公共として成熟するだろうことが見えているにも関わらず、その進歩を進めるのにもマネーゲームも一部必要であるという構造上のややこしさも存在します。これは例えば、現在のDeFi(分散型金融)が顕著ですが、DeFiは日々金融インフラストラクチャとして成熟に向かっていても、その要素には投機マネーと人々の欲望が不可欠があってこそ、長期的に本当に有望なインフラストラクチャが出来上がります。

私自身、BitcoinやEthereumに過去8年間関わり続けてきましたが、そういった欲も個人として一定持ち続けてきたことは確かです。一方で、そこには富を生み出す機会だけではなく、重要な可能性を確実に感じ続け、その言語化を試み続けてきたことも事実です。また、言語化しなくてはマネーゲームを優先してしまうことへの危機感を持っていた時期があることも正直な内心です。

この言語化に真剣に答えるためには、現在の私たちが事業を展開したり、オープンソース開発をしたり、投資や投機を行った先の未来を想像して、「20年後や30年後の人類はどのようにブロックチェーンを使うか?」と想像するのが一番良いです。因みに、この想像をする人は、多ければ多いほど良いです。30年前に「30年後にインターネットはどのように使用されるだろうか。」ともっと多くの人が考えていれば、現在のインターネットはより良くなっていたかも知れないと考えれば、それは分かりやすいです。

本稿では現時点での私なりの今の時点での考えを纏めてみたいと思います。

ブロックチェーンとは「繋がって協力するための技術」

ブロックチェーンとは何に使われるのか分かりにくい技術だとよく指摘されてきました。
最近、私はブロックチェーンとは「繋がって協力するための技術」であると表現しています。

これまでブロックチェーンを信用コストを削減する技術であるというような表現を使ってきましたが、「信用コストを削減した結果なにができるのか?」と問いをもう一歩進めると、「繋がって協力するための技術」という答えができてて、この表現は最もしっくりきます。

繋がって協力するための技術と捉えると、今、暗号資産やブロックチェーンの周りで行っている様々な事象が説明できます。具体的な事例を見てみましょう。

Bitcoin
Bitcoinは不特定多数の人類が協力して形成するマネーネットワークです。
不特定多数の個人がお金の台帳を管理するという概念でBitcoinとよく似ていると指摘されるのはヤップ島の石貨です。西太平洋上の島であるヤップ島ではフェイという石貨を使っていましたが、フェイはとても重たいため、その場所から動かすこともできない通貨でした。しかし、その重いそれぞれの石貨の持ち主であることを島の皆が認めていれば、石貨の所有者はお金持ちとして認められるという使われ方をしていました。
ヤップ島の石貨を不特定多数の島民が形成するマネーネットワークと捉えれば、少数の人間のみでしかそれをスケールさせることが出来ませんが、Bitcoinはより大きな不特定多数で協力して管理できる台帳です。


DAO
DAO(自立分散組織)はパブリックのブロックチェーンを運営する手法としてデファクトスタンダードになりつつあります。

発行したトークンを媒介に議決権を分散して、プロダクトの方向性を不特定多数の投票によって決定します。プロダクトの収益は直接スマートコントラクトによって記述された基金に保管され、その資金使途をどのようにするかもトークンホルダーの投票によって決定します。これらのDAOでは正社員のような概念は存在せず、「モバイルアプリ版を作るからXXドルの報奨金が欲しい」とコミュニティに提案する人がいれば、その提案を受け入れるべきか否か、ステークホルダーの投票によって決定します。
このようなコミュニティでプロダクトを保有する概念はDeFiやDappsでは一般的で、いずれも不特定多数の個人や小さい組織の集合です。匿名の個人の集合がプロダクトをよりよくするためにアップデート提案をし、それが有機的に機能している事例もあります。これもまた繋がって協力する形態の一つです。

プロトコル同士の疎結合
パブリックブロックチェーンのアプリケーションではプロダクト同士の疎結合が頻繁に起きます。

プロダクトAとプロダクトBを第三者が組み合わせて異なるプロダクトCが生まれ、プロダクトCもまた他の第三者に部品のように利用されて新しいプロダクトが生まれます。これはDeFiの世界ではマネーレゴと表現され、レゴのように集まってプロダクトが生まれると表現されたりします。

これを可能にしているのは、誰もが同じ台帳を正のデータとして最新の状態を共有出来る仕組みがあるからです。同じデータを同一のものと見分ける識別子を検証しながら保持することで、不特定多数が参照しながらも、データ同一性が常に確保されるブロックチェーンの特性の上に成り立っています。このようなプロダクト同士の疎結合も繋がって協力する形態であると言えます。


エンタープライズブロックチェーン
ここまでパブリックブロックチェーン上で不特定多数が協力することによる効用を述べてきましたが、ブロックチェーンを特定多数で共有するいわゆるプライベートブロックチェーンは特定の企業同士が協力するためのインフラストラクチャであると言えます。

最新の状態をリアルタイムで皆が同一に共有できることによって、サイロ化解消してワークフローがシームレスにすることが可能になります。A社がB社から署名を受け取った事実をC社にリアルタイムで共有することや、複数社によるサプライチェーンの全体を俯瞰する台帳などが形成可能です。


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このように捉えると、ブロックチェーンとは「繋がって協力するための技術」と表現すると実態を捉えており、かつ最も伝わりやすい表現ではないかと思います。何が繋がって協力するかの主語は場合によりけりで、不特定多数の個人かもしれないし、企業かもしれないし、政府かもしれないし、システムかもしれません。

30年後の人類にとってのパブリックブロックチェーンの可能性

では、ここで冒頭の問いに戻ります。「20年後や30年後の人類はどのようにブロックチェーンを使うか?」です。「繋がって協力するための技術」は、30年後の人類にとってどのような意味を持つでしょうか。可能性をいくつか検討してみたいです。

地方財政やパブリックグッドのための基金

第一に地方財政やパブリックグッドのための基金です。既にDAOという形態があると紹介したように、匿名のユーザーが主導してインターネット上で生まれたコミュニティがプロダクトをよくするという一つの目的に沿って数億円の基金を不特定多数で運営することが出来ています。

では、それと同じようなことが何故現実のコミュニティで再現できないかと考えた場合、大きな障害はありません。従来の手法より、低いコストでオープンに基金運営をして、コミュニティのために資金を拠出するシステムが構築することが可能かもしれません。条件を満たした人が透明性の高い状態で資金使途を提案して実行のためのプロセスを踏むということも今より行いやすくなり、資金の出し手にも納得感かつ透明性ある仕組みを構築出来えます。

再三になりますが、これらは既に匿名のインターネットコミュニティが実現しつつあることであり、出来ないことではないでしょう。Ethereum上の分散型取引所であるSushiSwapは、既に存在していたUniISwapのコードを流用しかつ巧妙な方法で取引流動性をも奪う形でローンチしたプロジェクトで、当初はビジョンも何も存在していませんでした。しかし、現在は不特定多数の個人で形成されたコミュニティによって凄まじいスピードでプロダクト開発がされています。SushiSwapにできることであれば、それは他の分野でもできるはずです。

未来の民主主義
次に未来の民主主義です。

民主主義は21世紀の主要先進国、あるいは少なくとも欧米的価値観の間では政治の前提となっています。時代を遡って見ると、特に欧州では多くの血を流して民主主義という土台が築かれてきました。多くの苦難を経て現代では、全ての成人が投票に参加できる民主主義が広く支持されていますが、この仕組みにも問題点が見え始めています。
具体的には、SNSを経由してアルゴリズムを用いた情報操作で選挙結果をコントロールすることや、任期が限定された人に焦点に当てた選挙が実施されることで社会の長期的課題に国家が向き合えないことなどが挙げられます。また、高齢化によって保守的な意思決定が中心になり、国家としての競争力に歯止めをかけるという指摘もあります。

このような課題は現在活発に議論されており、より新しい民主主義の仕組みのアイデアもいくつか登場しています。例えば以下のようなものです。

液体民主主義
液体民主主義とは、有権者の票を委任できるような新しい選挙の仕組みです。
例えば、課題ごとに見識のありそうな別の有権者に自分の票を委任して、全体としてより良い結果を期待するなどが行えます。また、有権者が持つ1票を政策ごとに、0.3票、0.7票といった具合に分けて投票するなどのアイデアが存在しています。
液体民主主義は2000年代に入って欧州を中心に議論され、北欧スウェーデンの地域政党やドイツなどの新興政党「海賊党」が党内の意思決定に試験的に採用した事例もあります。

二乗型投票
二乗型投票とは、英語ではquadratic voteと呼ばれる仕組みです。
投票に際して国民一人一人に票を購入できるクレジットを配分し、関心がある政策なら複数票を買って投じることができます。ただし、1票なら1、2票なら4、3票なら9といった具合に票の価格が上がります。自分にとって大切な問題に対してクレジットを多く払うことでより影響力を持てるため、個人の意思の強さを投票に反映できると考えられています。

これらは実験的に小規模な選挙で使われた実績がありますが、いずれも極めて小規模なものです。上記の手法は新しいアイデアのため、社会的に取り入れるハードルが高いことももちろんですが、現在の紙ベースで投票をする選挙システムでは適用しづらいことも実用に至らない背景です。

もし選挙インフラストラクチャーが電子的、あるいはブロックチェーンを採用したものになり、低コストで検証性も高くなった場合、このような実験的な選挙手法も今より導入されやすくなり、自治体レベル、ひいては国家の新しい民主主義を追求できる可能性があります。
これらは今の時点ではなかなか理解されづらい世界観かもしれませんが、電子投票やブロックチェーン基盤の透明性が高い選挙システムが構築された後は現実的な議題として挙げられるのではないかと筆者は予想しています。

なお、実験的な投票システムやガバナンスシステムについては、DeFiやDAppsの文脈でより進化が進んでいるように見えます。プロダクトの方向性に票を投じることができる議決権をユーザーに配ることは一般化しつつあり、委任投票なども広まっています。もっとも現在のDAppsの世界では暗号資産アドレスが現実世界のアイデンティティと結びついておらず、それを補填するには技術的に難易度が高い壁もあるのも事実です。

短期とは言えないですが、DeFiやDappsの世界でこれから10年をかけてテストしたうえで実社会における民主主義にも反映がされる可能性もあるでしょう。

繋がって協力する世界での金融システム

私は以前、パブリックブロックチェーン上の金融システムの凄さは、誰でもアクセスできるステートデータベースに流動性が溜まることであると表現しました。スマートコントラクトに溜まった流動性は誰でもアクセスできながら、元々セットしたルールに従ってしか利用ができない設計になっています。

現在では金融の取引流動性は各個別のシステム内に蓄積されていますが、これがパブリックブロックチェーンに移行します。証券取引所の会員企業しか流動性にアクセスしてサービス提供をできない世界観から、より多くのサードパーティーが金融サービスを開発できる世界観にシフトします。私たちは普段銀行で預金をしているかもしれませんが、預金された資金はブロックチェーンを通して地球の裏側で活用されるかもしれません。この場合、低金利に甘んじている金利はもう少し上昇するかもしれません。

金融とは、お金が必要な人に、その人の信用に基づいて適切な量が融通される水道のようなものです。繋がって協力する世界では、よりお金の巡りがよくなる可能性があります。


SDGsの管理
人類の協力という観点で最も大きいアイデアがあるとすれば、SDGsの枠組みがブロックチェーン上で管理されることです。
SDGsは貧困から環境、労働問題まで人類共通の目標を定めた文書です。我々の生活を満たし将来世代の資産を損なうことのない世界にするために17の目標と169のターゲットによって構成されています。SDGsは、197カ国の国家、または国家だけでない企業が運用と策定に関わっていいて、人類史上で最も多数による合意を得た共通目標です。

SDGsに関しては、私は様々な異なる環境や条件のもとにある国家や企業が共有する目標としてSDGsを制定したことに大きな意味があると思いますが、批判的な視点として、SDGsには具体的なアクションプランがないということや、各国がどれだけ目標に対してコミットしたかを検証することが困難であるというような指摘もあります。各国のコミットではなく、各企業のコミットであればなおさらです。

では、このSDGsの管理が、誰からもアクセス可能なステートデータベース上で行うとしたらどのようなことが可能でしょうか?

もしかしたら各国にSDGsの取り組みを評価する認定機関のようなものが存在し、各行政や企業が主張するコミットを検証するデータベースのようなものが構築可能かもしれません。共通のステートデータベース上で、検証を終えていることが確認できた場合、当該企業が他の国でビジネスをするとき進出しやすくなったり、関税が安くなる枠組みなどが作れるかもしれません。

これを実際に仕組みに落とし込むとするならば、突き詰めれば国民国家のアイデンティティの上にもう一つ地球市民というようなアイデンティティを持つことでもあります。ビル&メリンダ・ゲイツ財団のHassan Damluji氏が唱える既存の国家のうえに、グローバル国家というもう一つのレイヤーが必要と主張する考え方に似ているかもしれません。

現在の世界とは大分離れていますが、そういった未来へ向かえる道具になりえるのがブロックチェーンであると言えます。

結論

ここまで述べた繋がって協力するための技術とその可能性は、ブロックチェーンがもたらす世界観のロングタームビジョンです。もちろんBitcoinのようなノンソブリンマネーシステムもそこに含まれます。30年後の人類はブロックチェーンをどのように使うだろうか?と考えて可能性をいくつか例示しましたが、基本的には世界をよくするために使われると期待しています。

パブリックブロックチェーンという新しい世界は点で見ると、なぜ今これをやるか?どのような世界に向かっているか?という問いで迷いやすく、その意味でもロングタームビジョンは重要であると言えます。それがあることによって、私たちが今なしていることの一部が回り回って、それらの未来を形成する一部になると期待したり、信じたり、努力することができます。また、そうしているうちに本当のビジョンとなり、本当のビジョンが現実になります。

私たちの会社HashHubは「パブリックブロックチェーンの恩恵をより多くの人に」をパーパスに掲げていますが、これは中々抽象的・ハイコンテキストなワードです。これは世界観を表したビジョンであると思っていて、私が本コラムで書いた繋がって協力するための技術とそれが示す可能性はその世界観のうちの一つです。

こういった未来を前提にして少しずつ今できるプロジェクトを立ち上げたいと思っています。ちなみに抽象度が高いパーパスの代わりに、サービスや事業ごとにもう少し具体に落とし込まれたサービスビジョンをつくっています。ですが、5年より先の未来は抽象度が高くて当たり前であり、その抽象度の高さを臆さず語るということがつまりは未来を描くということで、それこそがもっと必要であると最近よく思う次第です。

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HashHubは「パブリックブロックチェーンの恩恵をより多くの人に」をパーパス(存在意義)に掲げるブロックチェーン企業です。
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