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短編小説「蟹鍋」

短編小説「蟹鍋」

部屋の中央には無印良品の小さな折り畳みテーブルがある。卓上にはカセットコンロが置いてあり鍋を温めている。ぐつぐつと沸騰しだしたので弱火にした。
鍋の中には、大きな蟹が丸ごと入っている。鍋から足がはみ出し、道楽的な見た目になっていた。
テーブルを挟んで対面に座っている彼女は呆然としていた。今日は鶏肉でちゃんこ鍋を作るはずだった。しかし、目の前の鍋には大きな蟹が入浴中だ。呆然になるのは仕方がない。

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短編小説「真っ赤な本当」

短編小説「真っ赤な本当」

「あの岸壁の隙間に挟まっているのがガザンビだ」

子供の頃に、伊豆のじいちゃんの家に行った時に海岸で岸壁を指差し、じいちゃんが言った。気がする。はっきりとは覚えていない。ガザンビが何なのか質問したかどうかも定かではない。だけど、岸壁の隙間に挟まっていた真っ赤なけむくじゃらのなにかは鮮明に覚えている。

私は現在32歳。妻との新婚旅行で伊豆に来ていた。私はハワイとかがいいのではないかと言ったのだが、

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