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投資不動産の営業 第1話

自分の社会人キャリアの大半は、投資用不動産の営業マン(今のご時世“営業パーソン”と言わないといかんようですが)としてのキャリアでもあります。

今でこそCPM(公認不動産経営管理士という米国由来の不動産コンサルタント資格です)を取得して、全国津々浦々問題物件のテコ入れ等に携わらせて頂いていますが。ご相談お寄せ頂いているみなさま、ありがとうございます。

さて20代のキャリアの始まりは、どぶ板営業、電話営業の嵐というところからでした。自分の回顧録でもありつつ、この特殊極まりない『投資不動産の販売営業』という世界を知って欲しくて、悲哀と自戒を込めて記事にしてみることにしました。

投資用不動産(ワンルーム)営業とは

最初から身も蓋もないことを言いますが、黙っていても売れるのなら、わざわざ高額歩合を出してまで営業マンを使う必要はありません(極論)。

黙っていたら売れないので、営業マンを使って人海戦術で販売をするのが、俗にいう『投資用ワンルーム』の営業です。

知らない方もおられるかもしれないので、簡単に『投資用ワンルーム』について書いておきます。分譲タイプのワンルームマンションをローンで購入、入ってくる家賃収入で毎月のローンを支払っていき、完済のあかつきには不動産が自分のものになるよ、と。完済後は当然ローンがないので、入ってくる家賃がそのまま将来の収入になるよ、と。

仕組みとしてはそれ以上でも、それ以下でもありません。良い悪いという話ではないのですが、論理的に考えると相当無理のある仕組みなわけです。「完済後は毎月のローン返済がなくなるので、家賃収入が入ってきます」にウソはないものの、完済が35年後。収入を得られる期間より償還期間の方が圧倒的に長い。

さらに、その35年間の間に起きるであろう「家賃の下落」や「維持コストの上昇」「物価変動」は視野に入れられていません。それでいて、毎月の家賃収入-ローン返済額はマイナス。かつて販売の最前線にいた身でありながら何ですが…ツッコミどころ多過ぎます。

ある程度の識者には一発で仕組みの欠陥を見破られます。だからこそ「高額歩合に釣られた営業マン」の登場です。仕組みの穴を見破れないお客さんを拾うべく、ひたすらマンパワーで探し続けます。

すでに不動産投資を検討している層は勉強してしまっている可能性が高い。その人たちには正直言って売れないわけですね。論破されることはあっても、論破できる材料はありませんから(ゆえに、恫喝的な営業も後を絶たない)。

そして行き着くのは、購入を考えたこともない+プッシュに弱い+断れない性格+ローンが通る、という超セグメントされた条件の方々に当たるまでパンチを出し続けるという手段です。


兵隊育成プログラム

平日はリストを元にご勤務先へ電話営業。土日は自宅へ電話営業。20代中盤というと狂ったように電話をしていた風景ばかりを思い出します。

土日にご自宅へ電話をかけて「葬儀中です」と怒られても、食い下がったこともありました。今考えると申し訳ない気持ちでいっぱいです…本当に。

今の販売会社がどういうムードなのか、そうした会社を離れて久しいので、ハセガワは存じ上げませんが…。私らが20代の頃は分かりやすく「兵隊」です。自らで考えることもやめて、上司に怒られないようせっせと成績を上げることのみを考える。自分の考えなんて要りません。

そうした世界を離れて10年以上が経ちますが、今振り返ると本当によくできた【兵隊育成プログラム】だったと感心します。

成績上がらなければとことん追い詰められます。トイレ行っても怒られる。昼食とっても怒られる。朝は規定の出社時間よりも1時間早く来て当たり前。給与明細は全社員の前で破いて棄てられる。定休で休んでも怒られる。とにかく、結果がなければ全否定です。これが続くと人間勝手に思考が止まり始めます。成績を上げること以外考えなくなり、洗脳も無事終わって立派な兵士のできあがりです。


そして、残るモノ

こうして、投資ビギナーの方々を見つけるためだけに強化された営業マン。不動産の知識ほぼありません。仲介業者であれば、売買契約書も自分で作るので、みなさんが思うような一般的不動産知識も身に付きます。対して「投資用ワンルーム」の営業は知識の強化は求められません。とにかく「売ってくる力」だけをひたすら強化されているだけです。不動産運用についてのナレッジは皆無に等しい。当時は「人間力で売ってこい」とよく言われたものです。

そして、何とか頑張って自分が管理職になったとき、結局自分がされてきたように、部下にも同じことをしているわけです。今思えばその時の部下には大変申し訳ないとしか言えません。

で、三十路に入る頃にあのリーマンショックがやってきます。それなりの人数の課を率いていた自分も、その会社自体がなくなれば「ただの人」。

そこでお恥ずかしながらようやく気付きます。「あれ、自分何もないじゃん」と。資格取得に励んできたわけでもない。キャリアを真剣に考えてきたわけでもない。ただ、数年間人一倍電話をし続け「販売する」ことだけをやってきた…ものの。単なるお山の大将とになって、威張っていただけだった、と。

とりあえず、今回はここまで。第2話では、そこからどう「ビジネスマン」に近付いていくか、のお話をしてみたいと思います。


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