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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2021年7月の記事一覧

【劇評233】海老蔵の「北山櫻」。超特急なれど、実質あり。

【劇評233】海老蔵の「北山櫻」。超特急なれど、実質あり。

 海老蔵の行方が気になっている。

 團十郎襲名が、コロナウィルスの脅威によって延期になり、まだ予定も発表になっていない。歌舞伎座出演から遠ざかって、二年。海老蔵が第三部に用意したのは、『通し狂言雷神不動北山櫻』である。
 筋書によれば、昭和四十二年一月、二代目松緑による復活では、五時間二十一分。平成八年一月、十二代目團十郎による通しでも、五時間一分。現行にもっとも近い平成二十一年一月の海老蔵によ

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【劇評232】歌舞伎座第二部、七月は白鸚の『身替座禅』の内省。菊之助の『鈴ヶ森』の気迫。

【劇評232】歌舞伎座第二部、七月は白鸚の『身替座禅』の内省。菊之助の『鈴ヶ森』の気迫。

一年のうち、もう半分が過ぎたのか。
 終息の気配が見えないコロナウィルスの脅威のなか、懸命の興行が続く。
 歌舞伎座の七月大歌舞伎、第二部は、白鸚、芝翫の『身替座禅』に、菊之助、錦之助の『御存知鈴ヶ森』が並んだ。

 まずは、『身替座禅』。白鸚の山蔭右京が初役とは驚いた。年表を見ると十七代目勘三郎を相手に、初代白鸚(八代目幸四郎)は、玉の井を昭和二十六年に立て続けに勤めている。
 ともあれ、白鸚の

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『フェイクスピア』を演じた役者たち。白石加代子、橋爪功、野田秀樹、高橋一生、前田敦子らの演技について考える。九枚。

『フェイクスピア』を演じた役者たち。白石加代子、橋爪功、野田秀樹、高橋一生、前田敦子らの演技について考える。九枚。

 声が空間に屹立している。

 野田秀樹作・演出の『フェイクスピア』も、ようよう七月に入って、大阪での大千穐楽も射程に入ってきた。
 すでにこのnoteに二度に渡って書いたが、劇の後半、航空機事故とヴォイスレコーダーが要にあるために、劇評を書くにもためらいがあった。戯曲も初期の野田作品を思わせる難解さだったので、その解読に紙幅を使っていた。

 そのために、出演の俳優論に筆が及ばないきらいがあって

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