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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2021年6月の記事一覧

【劇評226】イキウメの新作『外の道』は、あまたの視線によって歪む現実を映していた。

【劇評226】イキウメの新作『外の道』は、あまたの視線によって歪む現実を映していた。

 私たちは、人々の視線にさらされている。

 イキウメ一年半ぶりの新作『外の道』(作・演出 前川知大)は、衆人環視のもとで生きることになった私たちの現実を映している。

 まるで幽界のようなしつらえのカフェからはじまる。下手からは、西日が深くさしこんでいる。九人の男女がそれぞれこの部屋に入り込んできて、椅子に座る。

かつて同級生だった宅配便運転手寺泊満(安井順平)と司法書士補助の山鳥芽衣(池谷

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【劇評227】仁左衛門、玉三郎、エロティシズムの根源。『桜姫東文章』の秘法。

【劇評227】仁左衛門、玉三郎、エロティシズムの根源。『桜姫東文章』の秘法。

 四月の歌舞伎座を満席にした『桜姫東文章』(四世鶴屋南北作 郡司正勝補綴)の下の巻が、六月の第二部に出た。

 上の巻は、前世の因縁と清玄と桜姫の墜落を描いた。下の巻は、ふたりの流転と、仁左衛門二役の釣鐘権助の荒廃ぶりに焦点が合う。

 序幕は、岩淵庵室の間から。歌六の残月と吉弥の長浦は、上の巻にも増して、嫉妬と憎悪に貫かれている。美男美女と対になる醜悪な悪党ぶりで、場内を沸かせる。歌六、吉弥、仁

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【劇評229】井上ひさし作、小川絵梨子演出の『キネマの天地』は、スタアの神秘性を剥ぎ取る。六枚。

【劇評229】井上ひさし作、小川絵梨子演出の『キネマの天地』は、スタアの神秘性を剥ぎ取る。六枚。

 スタアの神秘性を剥ぎ取る。
 井上ひさしの『キネマの天地』は、小川絵梨子の演出によって、新たな視点が導かれている。

 昭和十年、第二次世界大戦までまだ、間がある。自由の風は、当時、絶頂であった映画界を吹き抜けていた。

 松竹キネマ蒲田撮影所の四人の女優、大御所から若手花形まで。娘役の田中小春(趣里)、野性味あふれる人気の滝沢菊枝(鈴木杏)、母親役で当たりを取る徳川駒子(那須佐代子)、トップス

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【劇評230】博多座の菊之助二題。『与話情浮名横櫛』と『身替座禅』の出来やいかに。八枚。

【劇評230】博多座の菊之助二題。『与話情浮名横櫛』と『身替座禅』の出来やいかに。八枚。

 博多へと旅立つ 六月博多座大歌舞伎、緊急事態宣言下の博多を訪ねた。

 飛行機を予約するときから、現在が「緊急事態」であると知れた。羽田、福岡は、幹線だと思うが、大半の便がのきなみ欠航となっている。そのため、登場した便は、空席などなく、満員御礼の三密状態で、航空会社が極限まで追い詰められているとわかった。

 ホテルにつくと、カフエテリア以外のすべてのレストランが閉鎖されている。オールデイと名の

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