クリエイティブリーダーシップ特論:第10回 白水高広氏

この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコースの授業である、クリエイティブリーダシップ特論の内容をまとめたものです。
 第10回(2020年7月20日)では、白水 高広さんから「地域文化商社」についてお話を伺いました。

白水高広氏について

 白水高広さんは、うなぎの寝床代表取締役である。1985年佐賀県小城市生まれ、大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業後、個人事業としてデザインの仕事をはじめる。その後、厚生労働省の雇用創出事業「九州ちくご元気計画」に関わり、福岡県南部・筑後地域の商品開発やブランディングを行なうプロジェクトの主任推進員として経験を積む。同事業では2011年グッドデザイン賞商工会議所会頭賞を受賞している。任期を終え、2012年7月、うなぎの寝床を立ち上げる。店舗運営にとどまらず、メーカー機能、商品開発、企画・デザイン、他地域との交流・交易等の幅広い活動を展開している。例えば、久留米絣のもんぺMONPEは、年間15000本以上を生産販売している。表面的なデザインだけではなく、地域の中で原反を仕入れ、加工、卸、販売するシステムを構築することで全体システムをデザインしている。地域に足りない要素や機能を考え、実装する地域文化商社を目指して活動している。

地域文化商社とは…

 白水さんによると、地域文化商社とは以下のような業態である。地域文化を「もの」と「ひと」を介して解釈し、現代での活用を探り、さらに経済価値も担保する。そして、その在り方を思考し、行動し続けるエコシステムをつくる。それを行政ではなく、民間企業として担う、とのことである。つまり、地域文化を紐解き、循環経済を生み出す組織である。うなぎの寝床では、「もの」と「ひと」を介した本質的な地域文化の継承と収束を目指しているとのことである。
 なお、白水さんにおける「地域文化」とは、「ある一定地域における土地と人、人と人が関わりあい生まれる現象の総体」とのことである。
※「地域文化商社」の活動のイメージ
④還元   ←   ③運用・循環
 ↓         ↑
地域文化      商社    
 ↓         ↑
①解釈   →   ②経済活用

①地域文化の解釈
 地域文化を解釈し、その現代活用の方法を探る
②経済活用
 文化を続けていく意思があれば、活用方法を一緒に考える
③運用・循環
 地域文化の魅力を現代社会へ変改し、連続的な経済循環を生み出す
④還元
 地域経済に利益をきちんと還元する仕組みを考え、実践する

地域文化商社のミッションとは...

 地域文化商社の主な実施事項は以下の5つとのことである。特定の地域でこれらをフローで回しモデルをつくり、今後、様々な地域で応用していきたい、とのことである。
①地域文化の探求・研究:地域資源を発掘調査する
②地域文化の経済循環:地域資源を現代社会に適応させ流通させる
③地域文化支援顧客の創造:時代に合わせてネットワークを広げる
④地域文化のアーカイブ:流通にのらない資源を速やかに保存・記録する
⑤地域文化間の交易の促進:他の地域のことを学び積極的に行動する

地域文化商社が取り扱う「もの」とは...

 地域文化商社(以下、事例としてうなぎの寝床のケースについて言及)が取り扱う「もの」には基準がある。そもそも、「もの」には2つの役割があり、「文化を担保すること」と「経済を循環させること」である。うなぎの寝床では、文化、経済の順に捉えている。そして、うなぎの寝床では、以下三つの基準のいずれかをみたすものを選定している、とのことである。
①土地特性を伝える
 ↕ 土地特性と作り手の間に文化がある
②作り手の現状と特徴を伝える
 ↕ 作り手は経済が担保されることで生活ができる
③地域経済を担保することができる
 ↕ 経済が担保されることで、土地特性が担保される
①土地特性を伝える

今後の展開は...

 白水さんとして、うなぎの寝床を主として、以下の事業の展開を進めているとのことである。
・過去の産業や土地性の文脈を解釈:「うなぎの寝床」
・つくりてのなまものを紹介:「NATIVESCAPE STORE」
・技術やつくりての未来の方向性を提示:「UNA PRODUCTS」
・今までになかった視点や方向性を感性として提示:「OHAKO」

授業にて特に印象深いことは...

 私として、地域文化に係る経済循環のモデル化に興味があり、非常に面白い授業であった。白水さんが現状にたどり着くまでの過程として、「具体的な数値目標ではなく、地域で必要と感じたことや課題に取り組んできた」とのことである。私は、どことなく、白水さんの地域との程よい距離感を感じた。「地域文化の探求・研究」にて、地域文化に近づきつつ、その良さを他者へ伝えて経済循環を生み出すために、一定程度の程よい距離を保ち地域や作り手と伴走している、と感じたのである。試行錯誤によりたどり着いたのかもしれないが、この距離感が白水さんやうなぎの寝床の強みではないかと思った。また、今後の展望にある、「今までになかった視点や方向性を感性として提示」という文言も気になった。作り手の無形資産を「もの」として扱えるようになったら面白いと感じた。今後も、白水さんの活動に注目しつつ、私自身も同じような活動ができるようになりたいと思った。

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