[書評]物理トリックに愛を込めて『月灯館殺人事件』(北山猛邦)
本格ミステリであり、本格ミステリ作家たちが殺人事件に巻き込まれる物語。
テイストとしては、「そして誰もいなくなった」(アガサ・クリスティー)×「十角館の殺人」(綾辻行人)×「硝子の塔の殺人」(知念実希人)という感じだ。
そして、北山猛邦が物理トリックの申し子なので、凄まじい物理トリックの嵐が吹き荒れる!
私は本格ミステリを読むときにロジックを重視しがちなのでだけど、本書を読むと「物理トリックをもっと本格ミステリで重要視してもいいのにな」と思えてしまう(え?実はされてる?)。
物理トリックを読むときに大事なのは、「そのトリックが現実で可能か?」ではなくて、「いかに舞台に合ったトリックになっているか?」だと思うのだ。
横溝正史の「本陣殺人事件」も大掛かりな物理トリックが用いられているけれど、読んでみるとぴったりと戦前戦後の暗い雰囲気の時代や舞台に合っている。
本書では「月灯館」という、本格ミステリ作家たちが集う奇妙な館が舞台なので、現実的な物理トリックをあまり考える必要がない。
「月灯館」という、現実では存在することのない館が舞台なわけだから、ある意味どんな物理トリックでも可能なわけである。
そこがかなり楽しく読める部分だ。
もちろん本格ミステリの肝である「謎」の部分も大事されている。
食事会の際に糾弾されたミステリ作家たちの罪とはなんなのか?
月灯館でミステリを執筆し、世に出て行った作家たちは館のことについてなぜ口を閉ざすのか?
そして、彼らはなぜ次々と惨殺されていくのか?
ラスト1行でひっくり返されるたった一言は、「十角館の殺人」なみの破壊力があり、読了後には満足感にあふれたため息をつくはずである。
はるう
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?