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[書評]拝啓、鳥類学者さまへ『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』(川上和人)

鳥類学者、それは神に選ばれし存在である。スマートな頭脳に加え、過酷なフィールドにいつでも出張できる体力が必要なのだから。かわいいメグロからの採血。噴火する孤島への上陸。ある日は吸血カラスの存在に驚き、ある夜は蛾の襲来に震え……。美女たちよ、わたしに近づくな。やけどするぜ。生き物を愛する人にも、そうでもない人にも、絶対に楽しめる、汗と笑いの自然科学エッセイ。

Amazonより

長年、鳥類を研究してきた著者による鳥類学と鳥類学者の実態を綴ったエッセイ。
研究職を在り方やどんなことを研究しているかが学べる1冊にもなっている。

ところであなたは鳥は好きだろうか?
私は正直、どちらでもない。母は鳥が好きでよく鳥類図鑑を眺めていたり、庭に来る鳥の種類を当てたりしているけれど。

私の住む地域は一歩行けば田んぼがり、でも大きな駅が近かったりとど田舎ではないけれど都会でもない微妙な場所。
そんなところだからか、野鳥は割と見る。
でも今までさほど興味の対象にならなかったのは、その存在が当たり前だったからかもしれない。

本書を読むと、著者が研究している小笠原諸島など住む鳥たちを始めいかに環境に順応しつつ熾烈な生存バトルに勝って鳥が存在しているかがよく分かる。
人間という愚かな生き物のせいで生息地域が限られてしまったり、外来種に喰われてしまったりしているものの本当にたくましく生きているのだな、と。
どんな生物もそうだけれど、捕食者の手からいかにたくさんの数が逃げ延びて子孫を残せるかは重要な課題だよなぁ。

著者は難しい用語を一切使わずに解説をしてくれているのでこちらも肩を張らずに気軽に鳥の生態に加えて、鳥類学者そのものの実態も知ることができる。
将来、研究職を目指す人もこちらを一読するといいかと思う。
どれだけ地味な仕事が続き、報道される学会などの華やかな一面はほんの一部分だということがよく分かると思うのだ…。
フィールドワークの描写が多い本書だけれど、ラストに明かされる研究者としての本当の仕事は至極地味なものだった(でも私はその仕事の風景の描写がなんともいえず好きだ。研究ってこういうもんだよな!って思う)。

で、この本を読めば鳥が好きになるか?と言えばそんなことはない、と思いう。
でも、今叫ばれている「SDGs」なるものに感心を向ける機会になるかもしれない。
「SDGs」の目標である「陸の豊かさを守ろう」はひいては鳥たちの生態や住む環境を守ることにも繋がるはずだ。
鳥たちは「ここは私たちの住処だから人間はダメ!」とは言えない。
意見を発することができない生物たちのことを守るためにも、まずは本書で身近な「鳥」について学ぶことが大事なのかな、と。

ところで、本書には度々「バイオハザード」のことについて触れられているのだけど……川上さん、お好きなんですね、きっと。
クスっとくるユーモアあふれる文体の中に、「バイオハザード」が度々出てきてそのたび大爆笑したのは秘密だ。

はるう

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