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[書評]いい作品はぶっ飛んだ思考と行動から生まれる『文豪どうかしてる逸話集』(進士素丸)

素晴らしい作品を生む人間が必ずしも素晴らしい人間とは限らないし、またそうある必要もない。
読んだらもっと好きになる、文豪たちのかわいくて、おかしくて、“どうかしてる”エピソードを、一挙ご紹介します。

Amazonより

国語の教科書に必ず載っている「文豪」という存在の作品。
もう字面からすごいよね。
「文」に「豪華」の「豪」なんだもの。
「文学」ってどんだけ華やかな世界なんだろうと一時は夢想する。
しかーし、これを読むともう、ほんと文豪ってしょーもない。
しょーもないことで悩み、しょーもないことで喧嘩をし、しょーもない理由で怒る。
つまりまあ、現代を生きる私たちとそこまで変わらない性格だったということがこの本を読むとよくわかるのだ。
じゃあ、私たちと文豪って何がちがうかというと文学の素養と時代だけだよなって思う。

文豪が生きた時代は主に明治、大正、昭和だ。
当然この時代には「戦争」というにっくきものがある。
文豪たちももれなく戦争に翻弄されている。
森鷗外なんて軍医だったし、田山花袋は従軍記者だった。
けれど彼らはそれでも戦争に負けずに文学に励み、後世に偉大な作品を残していってくれたのだ。

あ、なんか真面目な話をしてしまったけれどこの本は「文豪は戦争に翻弄されつつも頑張ったんだよ」という本ではない。
上記の通り、文豪たちのしょーもないエピソードが満載なのである。

例えば大人気の文豪・太宰治は芥川龍之介の大ファンだった。
好きすぎるあまりノートに芥川龍之介の名前をえいえんと書いたり、似顔絵を書いたり(それを後世で公開されちゃうんもんだから、太宰治もたまったもんじゃないよな)。
芥川龍之介が好きなのに、芥川賞を受賞することはできなかった太宰治は、自分が受賞できなかった原因を作った川端康成に「刺す」と訴えたり。
いやはや、過激。

しかし、この本を読んで思うのが……文豪って酒乱、多いな。
詩人・中原中也は酔って太宰治に絡み(太宰治は怯えて布団をかぶってやり過ごそうとした)、さらに檀一雄にも絡んで投げ飛ばされるし。
坂口安吾は酒乱に加えて、睡眠薬を一緒に飲む薬物中毒だし。
酒に溺れないと作品が書けないのか?
酒の溺れないとやってられない時代だったのか?
現代でもお酒での失敗エピソードは事欠かないけれど、それは文豪たちの時代も一緒だとなんだか親しみを覚える。

実はこの本は2度目、再読だった。
改めて読んで、1つだけびっくりしたエピソードがある。
それは川端康成が16歳の頃に既に「ノーベル賞を獲る」と言っていたこと。
志も目標も高いにこしたことはないんだけれど、既に16歳で文学ととも生きていくと決めていたことに驚いた。
おそらく職業の選択肢がなかったわけではないだろうに、彼は文学者を16歳で目指すことを決めた。しかも最高峰を。
川端康成は「借金王」と言われるほど借金に借金を重ねた人だったけれど、彼はひたすら文学の高みを目指していたのかと思うと……借金なんて気にならない?

ぶっ飛んだ思考と行動の末に生まれた作品と同時に、本書をぜひ楽しんでみてほしい!

はるう



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