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「200字の書評」(315) 2022.3.25



こんにちは。

気が付けば3月も下旬、爛漫の春を謳歌できるはずです。コロナの脅威は衰えず、規制は解除されたとは言え不安で一杯です。ウクライナの戦闘は一般の市民にも脅威となり、子どもを含めて多数が犠牲となっています。他国への避難民は1千万人を超えたとされ、故郷を失い肉親とも離れ離れになって異国で不安な生活を余儀なくされています。ポーランドには200万人を超す避難民が入国して、ボランティアらの支援を受けているそうです。ポーランドは経済力がある国ではありません。私は避難民支援のカンパをポーランド大使館あてに送りました。ささやかな額ですが、少しでも力になりたいとの思いです。ユニセフと国境なき医師団にもこれまで同様、継続的に応援していきます。

開戦以来約1か月、いろいろなことが見えてきました。この戦争はロシアによる隣国への侵略であることは明白です。同時に、冷戦後の国際的な力のせめぎ合いでもありそうです。ソ連崩壊とヨーロッパの政治軍事状況の変化、アメリカの覇権とその衰え、中国の台頭と経済の国際化などの要素が絡み合っているようです。私達には見えにくい国際政治の濃淡は複雑怪奇です。戦争の陰では軍需産業の高笑いが聞こえてきます。日本もアメリカ一辺倒ではない、国家自立の大方針を目指してほしい。虚実取り混ぜた報道の陰で、少しでも真実を見極めていきたいものです。

さて、今回の書評は、火山列島日本について考えてみます。




荒牧重雄「噴火した! 火山の現場で考えたこと」東京大学出版会 2021年

時には灼熱の溶岩の上を歩き、ヘリコプターから噴火口を覗き、噴石や火山弾に追われる。火砕流の名付け親であり、現場主義の研究者が綴る実践的火山学入門書である。ハワイ、アイスランドなどの海外調査も豊富であるが、1986年伊豆大島の噴火体験記は緊迫感に満ちていて、一種の冒険小説の趣もある。計器観測主体の研究者との体質の違いも垣間見える。誠実な研究者は同時に優れた文筆家でもあることは、ここでも証明された。





【弥生雑感】


▼ 16日深夜の地震には驚きました。災害は忘れたころにやってくる、本当にその通りです。眠りについた頃、かなりの揺れに目を覚ました。枕元のラジオを聴こうとしたら、なんと停電。手の届くところに置いてある非常灯と携帯を手に、足元を照らして居間に降りました。居間の非常灯を2個点灯して近所を見ると、真っ暗。携帯ラジオを点け震源と状況を確認する。何とまたしても東北地方が震源とのこと、3.11が過ぎたばかりなのにと心配になる。その後停電は解消し、被害状況が報じられた。被災地の人々の胸中はいかばかりだろう。そして、18,19日は雨。乾燥状態の大地には慈雨だが、被災地にとっては恨みの雨になる。その後東電と東北電管内では電力不足となり、停電の危険があると節電が呼びかけられました。なんだか不思議でした。原発再稼働の必要性を強調しようとする意図があるのではないかと疑いたくなります。


▼ 地震被害で深刻なのは、東北高速道と東北新幹線の不通です。年度末と年度初め、人の行き来が盛んになります。また、物流の大動脈でもあります。東北道は早期に通行を再開した由、物流は確保できそうです。しかし、と元土建屋は首を傾げます。裂けて陥没した表面のアスファルトと床版だけ補修しただけでよいのか?下の下層路盤、さらに基礎の盛土に緩みと不同沈下はないのか。拙速な復旧は禍根を残すのでは、と考えています。東北新幹線の高架橋の被害は深刻です。高架を支える橋脚は座屈現象が見て取れます。補修のレベルではありません。構造物をそっくり作り変えるべきです。強度を保つために、これまた拙速は避けてほしいのです。


▼ 高橋国光さんの死が報じられた。知る人ぞ知る伝説的なレーシングドライバーです。かつてスカイラインGT-Rを駆って華麗なテクニックで「無冠の帝王」と呼ばれていました。日産ワークスのエースでした。それ以前はホンダチームに所属してオートバイ世界GPで活躍、日本人初の優勝者でもありました。私は若いころに友人と富士スピードウェイに通い、彼の走りに胸をときめかしたものでした。ニッサン、マツダ、トヨタが覇を競い、それにプライベートチームが挑んでいました。ご冥福を祈るものです。


▼ 訃報がもう一つ。長身痩躯の二枚目宝田明さんが亡くなりました。あの「ゴジラ」を観たのは小学2年くらいだったでしょうか。怖かったのを覚えています。彼は戦争体験から平和と護憲を訴えていました。芸能界では勇気ある姿勢でした。ご冥福を祈ります。





<今週の本棚>


縄田一男「時代小説の戦後史―柴田錬三郎から隆慶一郎まで」新潮選書 2021年

眠狂四郎の柴田錬三郎、柳生武芸帳の五味康祐、忍法帖の山田風太郎、吉原御免状の隆慶一郎。未だに輝き、一世を風靡した時代小説の手練れたちである。彼らに共通するのは、過酷な戦争体験であった。軍隊勤務の内実、戦地での実戦などが作風に色濃く或いは控えめに反映しているとか。


デイヴィッド・ピース「TOKYO REDUX 下山迷宮」文芸春秋 2021年

戦後占領軍の統治下で起きた一連の不可解な事件。帝銀事件、三鷹事件、松川事件などなど、本書の主題になっているのはその代表格下山事件である。国鉄総裁であった下山定則は出勤途上に失踪し、北千住近くの常磐線で轢断死体で発見される。国鉄職員の人員整理をめぐる組合との不穏な関係、人員整理を強行しようとする政治からの圧力を含め自殺説他殺説が対立し、真相は解明されなかった。作者は当時のGHQの捜査官の視点、昭和末期の私立探偵の調査などいくつかの要素から事件の真相に迫ろうとする。占領軍の諜報機関の暗躍と裏社会の人物など、当時のおどろおどろしい世相が覗ける。




春の訪れを素直に喜ぶには重すぎる空気が漂う昨今です。自然の彩を楽しませてもらいましょう。
現役の皆さんには人事異動と新規採用の季節です。本への敬意と人間の尊厳を大切にして、強い心で生きていきましょう。
ご健康を願っています。  


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