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人身事故【小説】

※この小説はショックの強い表現が使われているシーンがあります。苦手な方や心臓の弱い方・パニック障害を発症した方などは閲覧をお控えください。

プロローグ

機械的な音を鳴らしながら電車が近づいてくる。この場所に来るように言われたけど、どういうことだろう。何故このホームで待ち合わせなのだろう。駅前にある潰れかけの喫茶店でも良いではないか。指定された時刻に言われた通りに来てみた。ホームに立っている人はまばらで、ざっと30人くらいか。反対側のホームも同じような人数が居る。スーツ姿の男性や制服姿の女子高生。普段着の若者。夕方の時間帯だからか、学校終わりの学生が多い。それぞれの表情は冴えない。大なり小なり、いろいろな悩みを抱えているのだろう。自分自身もそうなのだから、手に取るように分かる。

僕が生きてきた30年の人生の中で、良いことなど無かった。いや、あったのかもしれないけど、悪い事の方が印象に残るのたがら、悩み続ける。それによってストレスが蓄積する。どうして、僕だけ責められるのだろう。会社の話だ。部長はチームプレイが大切だと言いながら、個人責任だからクビだと言う。あまりにも酷くはないか。そもそも、後輩のミスだ。後輩が僕にミスを押し付けてきたのだ。社会の理不尽さに耐えながら、働いている。そんな僕は何の為に生まれてきたのだろうか?生きている意味とは?

いっそ、死んでしまった方がいいのではないか?そんなことを考える日々が続いた。毎日が同じ繰り返し。同じ場所を行ったり来たり。会社で実績を上げても殆ど給料が上がらない。ただ闇曇に仕事だけをしている。僕は社会にとって必要なのだろうか。僕みたいな平社員は会社の小さな歯車に過ぎなくて、居なくても回るのではないか。

それにしても、待ち合わせ場所に来たものの、約束をした人は現れない。もうすぐ約束した時間になる。約束した人が来ていないか、周りを見渡す。ホームの反対側に、約束した人は居た。たしか、こちら側のホームの約束だったはすだが、変わったのだろうか?その人は僕の憧れであり、絶対的な人だ。その人に逆らうことは出来ない。僕は、その人に少しでも近づきたい。なんだか頭がボーとする。

今すぐ、そちらに向かいます。僕は、正面を向いて、のそのそと歩いた。視界が真下に落ちると同時に、体がストンと落ちる。その瞬間、誰かの甲高い悲鳴を聞いた。顔を右に向けると電車が僕の目の前に来ていた。

傍観者の話

今日は久しぶりの休日だ。食品会社で働いている平凡な仕事生活を休める日。友永真也はアパートのベットで寝転んでいた。独身の俺は彼女も居ないし、人に言えるほどの趣味なんてないから、SNSをチェックする。最高の時間潰しだ。スマホ画面を開いて、いつも使っているアカウントを起動する。働いている会社の職種にちなんで『食品マスター』というアカウント名だ。まあ、アカウント名にこだわっているわけじゃないのだけど。

SNSで事故動画を見るのが好きだ。交通事故の瞬間を見ると、恐怖よりもワクワクする。どんな事故になるのだろうか、周りの人の反応が気になる。もちろん、巻き込まれるのも、巻き込むのも嫌だが、傍観者になって楽しんでいる。俺自身が編み出したストレス発散方法だ。死亡事故は規制が掛かるので見れないのがもどかしい。グロデスク系も好きだ。

検索で事故情報と入力する。一気に様々な情報が出てきた。交通事故や人身事故情報などがおすすめに出る。中には映像や画像がある。最新の順に上スクロールする。ある呟きにスライドしている手を止めた。

クラッシュ預言者@Krash_YGEN「9月☓日17:00に○△□駅で人身事故が発生します」

なんだこれ?『人身事故が起きました』じゃなくて、『発生します』だと?予言か?ツイート時刻は今日の16:00だ。この駅は、最寄りの駅名だ。よく使っている。ここから徒歩10分で行ける。時計の針を見る。16:40。バカバカしいと思いながらも、好奇心からズボンを履いて、家を出発する準備を始めた。

16:53 ホームに着いた。線路に向かってスマホを構える。インスタのアプリを開いて、いつでもインスタライブが開始出来るようにしている。事故の瞬間をライブ配信するのだ。このライブを見れる人は学生時代の友人限定にしている。もし、事故の瞬間を撮れたら友人の中で人気者になれるかもしれない。

スマホの時計を見る。16:55。数人の人がホームに居る。自分と同じようにカメラを構えている人は居ない。あのツイートは拡散されていなかったから目に止める人は少ないのだろう。目に止まったとしても、この駅では利用する人は多くないから誰かに先を越される心配も無さそうだ。

16:59 カメラを回す。電車が来た。機械的な音がホームに響き渡る。その時、30代くらいの男がホームに、ふらふらと向かって行き、線路に落ちた。カメラを線路に落ちた男にズームインする。近くにいた女子高生が悲鳴を上げた。悲鳴を聞いた瞬間に、その男と電車が衝突した。俺の顔に少量の血と肉片が飛び散った。目を瞑りながらも構わず、カメラを回す。事故の瞬間撮ったぞ!俺は有名人になれる。 

正義者の話

長野裕二は会社のデスクで、ネットサーフィンをしている。白色のダボダボの服をオシャレに着こなして、仕事をする。好きなタバコを我慢して、デスクワークをする。仕事の合間にパソコンでSNSを見る。仕事柄ネット情報を見ることが必要なのだ。

赤の他人が面白い情報や為になる情報を発信している。ネットには楽しさもあるし、怖さもある。かわいい犬の動画を上げる人や不満を撒き散らす人。いろいろな人がネット社会にいる。現実世界では平凡な人でも、ネットの世界では仮面を被ることが出来る。自分が強くなった気がするのだ。ネットで不満を書いてる人など、現実世界では物静かな人もいる。多少のブズでも美少女になれるし、おじさんでも20歳の青少年になれる。ネットを使っている人の殆どの人が嘘で固められらた仮面を被っているのだ。

その仮面を剥ぎ取ろうとする者は居ない。なぜなら、剥ぎ取ろうとする人自身も仮面を被っているからだ。仮面を取ろうとする人の正義面は、いつ自分に回ってくるか分からない。だから、恐れて、ほとんどの人は仮面を剥ぎ取ろうとしない。そういう風にネット社会は動いている。

トレンドに『人身事故』と表記されていたので、カーソルをクリックする。また、どこかで人身事故が起きたようだ。毎日のようにある。そのたびに暗い思いをする。どうやら○△□駅で人身事故が起こったらしい。最新の順にして、人々のツイートを見る。

ハルナ@haruna1021『待って。さっき人身事故あったんだけど。びっくして悲鳴上げちゃた。(*ノω・*)テヘ。変な男がスマホで動画撮ってた!』

社畜サラリーマン@syatiku_sra『やばい、男が飛び込んだ。人身事故だ。早く家に帰って休みたいのに。○ぬなら一人で○ねよ』

食品マスター@sykuhin12MS『俺、凄いの撮っちゃた。予言的中!有名人になれるかも!#○△□駅#人身事故』

まると@maruto『電車乗ってたら、すごい音が鳴った!急ブレーキがかかって倒れそうになった。人身事故?』

それぞれ言いたいことを言っている。特に気になったのは『社畜サラリーマン』というアカウントだ。こういう奴が社会を駄目にしているのではないか。他の人に迷惑なのは、分かるとして、一人で○ねはないだろう。こいつのツイートは間接的な殺人になるかもしれないのだぞ。本人の前で言えないことを堂々と言えるのがネットの怖いところだ。

この人がなぜ自殺を選んだか分からないが、本当に本人が全て悪いのか?こういう冷たい社会も人を追い込んでいるのではないだろうか。世間は自殺した人を逃げたと言う。いや、彼もしくは彼女は逃げられなかったのだ。ネット社会なら不満でも愚痴でも自殺誘導でもなんとでも言える。もし、この『一人で○ぬなら…』のツイートを見て、自殺者が出たらどうするのか。このツイートが自殺を誘導するのではないか。いろいろな考えが交差して議論するのはいい。しかし、このツイートは誰を幸せにするのか?このユーザーがネットに不満を書いて鬱憤晴らししたら、このユーザーは幸せになれるのか?

さらにスクロールする。アカウント名に目が留まる。『クラッシュ預言者』と名乗るツイートを見る。

「9月☓☓日12:00に△○駅で人身事故が発生します」

ツイートされた日付は今日の日付だ。ツイート時刻は11:00になっている。現在時刻は11:32。予言?たちの悪いイタズラじゃないか?どんなアカウントかプロフィールを見に行く。

クラッシュ予言者
@Krash_YGEN

人身事故を予言します。関東周辺です。

13フォロー/59フォロワー

ツイートは2件しかない。もう一つのツイートを見て目を張る。さっき見た○△□駅の人身事故を予言していた。これも人身事故があった時刻の1時間前にツイートしている。あの『食品マスター』はこれを見たのではないか?予言ツイートを真に受けて、カメラを回していたのではないか?もしかしたら、この予言は本当かもしれない。△○駅は会社の近くの駅だ。歩いて15分で行ける。よし、行こう。タバコとカバンを持って会社を出た。

ホームは昼頃だと言うのに沢山の人がいた。中にはスマホを構えている人もいる。予言ツイートを見たのではないか。比較的、都会な駅だから、予言ツイートを見た人が1時間以内に集まってきたのではないか。ここは動物園じゃない。そう思っていると電車が来る音が聞こえてきた。

その時だった。一人の女性がふらふらと線路に行くのが見えた。沢山のカメラが彼女に向けられる。やばい。止めなければ。思わず、長野裕二は彼女の左腕を掴んでいた。彼女がこちらを振り向く。

「死んだら駄目ですよ」

「え?」

40代前半くらいだろうか?彼女は虚ろな目をしていた。周りの目など気にせず、人波みをかき分けて彼女を駅員室まで連れて行った。彼女は駅長室まで一言も話さなかった。痩せて身長の高い駅員に事情を説明した。後は警察が対応してくれるだろう。それにしても、周りから残念のオーラを感じたことに恐怖を覚えた。学校で起きる虐めの傍観者と同じ雰囲気を感じる。関わるのは嫌だけど辞めて欲しいとも思わない。無関心。自分さえよければ何も行動しない。予言ツイートを見たのなら、俺以外で自殺する人を止める人は居ないのか。俺が止めなければ誰も止めていなかっただろう。

助けの手を差し伸べることが出来ないのか?スマホを構える手を人の助けに使えないのか。自分には関係ないと思っているだろう。例えば、友人や家族、好きな人が悩んでいて、自殺しようとしても助けないのか?赤の他人だから関係ないじゃない。お互い助け合いの精神で良い社会にしていくべきではないのか?余計なお世話?人の命は重いんだよ。誰もが自分が自殺したいと思う時があるかもしれない。そんなことは一生無いと言う人が居る。そいつは強い人間なんかじゃない。無理して強がっている臆病な人間なんだ。いつ何が起こるか分からない。

鉄道運転士の話

木田はいつものように電車を運転している。運転士になってから15年が経った。小学生に入った息子のためにも稼いで養っていかなければならない。家庭を持つというのは大変なことだ。無責任ではいられない。

時刻は16:59。もうすぐ○△□駅に到着する。停車は時間通りに行きそうだ。前方に駅が見えてきた。いつものようにブレーキハンドルを引いてユニットブレーキを作動させる。どんどんと電車が減速していく。

その時だった。人が線路に落ちた。反射的に非常ブレーキを作動させる。警笛を鳴らして、電車が急ブレーキを始めたが、電車と相手の距離は数センチに迫っていた。ドンという音ともに人を跳ねた。その瞬間に沢山の血が飛び散った。前面ガラスの下側に血が付いている。少し電車が浮く。車輪が人を粉々にしているのだ。大きなブレーキ音を立てて電車が急停車した。人身事故だ。乗客にアナウンスしなければ。震える手で車内マイクを取った。

「列車がお客様と接触しました」

恐怖で声が震える。ホームを見ると、ホームで撮影している若者が居た。

「撮らないでください!」

運転席の左窓から顔を出して、注意した。若者はスマホをポケットにしまいながら、逃げるように階段を降りていった。その後ろ姿を眺めながら本部に連絡をとる。

「人身事故が発生しました。応援お願いします」

それから、救急隊員や警察が来た。警察による現場検証。ヘルメットを被った救急隊員が青色ビニールシートを張る。あたりがせわしなく動き始める。野次馬も集まってきた。警察官から事情聴取を受けた。接触した時の状況を話しているうちに気分が悪くなってきた。少し、吐き気がする。初めて人身事故を起こしてしまった。生々しい瞬間を見てしまった。気分が悪くなったので、有給を使って休むことにした。

2日後・・・

今でも、あの時のことが脳内に焼き付いていて、フラッシュバックする。そのせいで、なかなか寝れない。精神的に疲れてしまって、15年間勤めた鉄道会社を退職した。

刑事の話

佐岡刑事は、自分のデスクで貧乏ゆすりをしていた。千葉市内で起こった殺人事件の捜査をしているのだが、犯人像が浮上してこない。時間が経つにつれて、目撃者の記憶も薄れてくるので、捜査は難航している。焦りは禁物なのは分かっているのだが、焦らずにはいられない。

「佐岡さん、これ見てもらえます?」

横のデスクに座っている後輩刑事はノートパソコンの画面を、こちら側に向けた。そこには『クラッシュ予言者』というSNSのアカウントが映っていた。

「なんだこれは?」

「このツイートを見てほしいんです」

後輩刑事が人差し指で指したツイートを見る。そこには、人身事故の予言のようなものが投稿されていた。

「これは?予言?」

どちらも最近起こった人身事故のことが書かれている。

「そうなんです。2ツイートしかないのですが、どちらも1時間前に投稿されています」

「2件とも予言的中しているな。時刻までピッタリだ」

「いや、1件は助けた人が居たそうです」

「△○駅の奴か。どっかの男性が助けたんだったな。世の中捨てたものではないな」

「この発信者は、どうして予言出来るのでしょうか?」

目撃者の情報を調べると、どちらも後ろから突き落とされた形跡は無い。事件性は無さそうだ。自殺と自殺未遂だろう。ではなぜ、この発信者は予言出来るのか?一度気になったら止められない性格なのだ。

「よし、△○駅に行くぞ」

後輩刑事に声を掛けた。駅に行って防犯カメラの映像を確認するのだ。覆面パトカーの助手席に乗って、△○駅に向かった。そこは、ここら比較的近い位置にある駅だ。

駅に着いた。駅員に事情を話して、駅長に捜査の協力をお願いした。

警備室に案内された。警備室は沢山のモニターで囲まれていた。年老いた警備員が、例の自殺未遂があった日付と時刻に映像を巻き戻した。ホームを横から映している。画面の奥から電車が来るという方向だ。カメラを構えている人が多い。その中から、一人の女性がおぼつかない足取りで線路に近づいてきた。その時、一人の男性が手を掴んで止めた。

ひと通り映像を見たが、これは自殺未遂だろう。誰かに押された形跡やホームに怪しい人物を目を凝らして探したが、見当たらなかった。

「この人、反対側のホームに向かっているような気がしますね」

「反対側のホーム?そら、反対側のホーム側に向かっているように見えるだろう」

「まあ、一応確認するか」

警備員に反対側のホームの防犯カメラ映像を見せてもらった。特に不審な人物は写っていない。念の為に11:30〜12:30までの防犯カメラの録画映像のデータを借りた。

「○△□駅に行こう。ホームの反対側を見て、同じ人物が居ないか探すんだ」

○△□駅はここから遠い。車で1時間ほど掛かる。運転は後輩刑事に任せて、体力温存の為に少し、眠りについた。

○△□駅に着いた。駅長に協力を要請する。警備室に入る。警備員に映像を見せてもらう。事故の瞬間の映像は生々しかった。後輩刑事は吐きそうになっていた。佐岡刑事は仕事柄、遺体を何体も見ているが、生身の人間が遺体になる瞬間は見たことがないので、佐岡も目を反らしそうになった。

反対側のホームの映像を見る。△○駅と、この駅の二つの映像を見比べる。同じ人物がひとり居た。男は40代くらいか。どちらも同じ赤色の服を着ている。胡散臭そうな顔をしている。この男が『クラッシュ預言者』の可能性がある。距離の離れている駅に同じ人物が居るのが引っ掛かる。

「この男の情報を調べよう」

そして、後輩刑事と共に男の情報を調べることになった。今の時代、情報に溢れているから、簡単に調べられる。その分、複雑な情報社会になって、ネット事件が多発しているのだが。

数日の調査によって、その男は宗教団体の教祖をしていることが分かった。その宗教団体の名前は『クラッシュワールド』と言う団体名だということも分かった。

首謀者の話

人は、多かれ少なかれ悩みを抱えている。悩みは影だ。希望を持つためには暗い影を断ち切らなければならい。悩みは人を不幸にする。この不平不満の社会を変えるために私は宗教団体を立ち上げだ。最初の頃は信者が集まらなかった。宣伝方法を変えてみて、悩み相談支援所に名前を変えてみた。メールで悩み相談を送ってくる人や実際に出向いてくれる人まで出てきた。赤の他人だからこそ言える悩みを抱えている人も多い。私はカウンセラーという立場で、『クラッシュワールド』という宗教団体に入会を勧めた。最初は戸惑う人が多かったが、巧妙な会話術で人々をマインドコントロールしていった。大学で心理学を専攻していた経歴がある。特に悩みを抱えている人は他のことにも頭が回りにくい。数ヶ月もしないうちに信者は50人を超えた。私の指示は絶対的に従うように洗脳していった。

それでも思っていたより少ない。なかなか増えない信者をどう増やそうか考える。宣伝には話題が大切だ。瞑想していると広告費がかからない宣伝方法が稲妻が走るように思いついた。

SNSを使うのだ。SNSを使っている人はリア充だけではない。目立たないだけで、悩みを抱えている人が沢山存在するのではないか。ネットに予言ツイートを投稿する。それを実現させるのだ。それが起こる日付や時間は正確ではなければならない。

故意的に起きる予言では意味がない。誰がどう見ても他人が手を下したと思われるのでは予言を実現させたのだとすぐに分かる。SNSで話題になりそうなものを検索する。トレンドに『人身事故』が上がっていた。人身事故を予言するのはどうだろう?人身事故なら殆どが自殺だ。しかし、押して殺すのなら殺人だ。予言者が実行したと思われる。直接手を下したとなると殺人罪に問われる。あきらかに自殺に見せる方法を考える。数分後、いい方法が思いついた。

私が殺したい信者に指定された日付と時刻にホームで待ち合わせるように口約束する。信者が居るホームに電車が来たときに反対側のホームに私は立つ。マインドコントロールされた信者は私に近づこうとする。私に早く近づきたいと洗脳しておく。線路に落ちる。そして、電車に轢かれる。

実行する1時間くらい前に予告ツイートをすれば、予言になる。最初は宗教を感じさせないように、アカウント名を『クラッシュ預言者』にする。何度か成功して、フォロワー数が増えてきたら、そのアカウントで宗教団体の宣伝を始めよう。

一週間後・・・

1回目は見事に成功したのだが、2回目は失敗に終わった。邪魔が入ったのだ。次の信者は誰にしようか迷っているとドアホンが鳴った。誰だこんな時に。宗教施設は山奥に立ている。ここに来るのは限られた信者だけだ。ドアスコープを覗く。灰色スーツを着た二人の男が立っていた。部屋の電気を付けているのに気づいた。居留守は使えないな。ゆっくりとドアを開ける。

「すいません。千葉県警のものなんですが、朝堂敏夫さんですか?」

若くて背の高い方が話しだした。警察だ。焦りが顔に出ないようにする。

「ええ」

「少し、話したいことがあるんですが、警察署まで来てもらえます?」

「ここじゃ駄目ですか?」

「少し、込み入った話になりますので」

二人の刑事に挟まれるようにパトカーに乗せられて、署に向った。若くて背の高い方と一緒に来ていた佐岡という刑事に取り調べをされた。年齢は30代後半くらいか。話を聞くうちに、警察は『クラッシュ預言者』というアカウントが私のものだと分かったのだ。何故、分かったのか?SNSの開示請求をしたのか?いや、これくらいの予言で開示されるわけがない。どうして、分かったか警察は教えてくれない。イライラしながら赤色の服をさすった。

プロローグ

「今回は『クラッシュワールド』の元信者である女性に話を聞くことが出来ました」

最近入社した女性レポーターが神妙な面持ちで話しだした。番組の中ではモザイクがかかった女性が写っている。かなりやつれていて、年齢は40代くらいか。インタビューの前に番組が、この女性について解説していた。『クラッシュワールド』の元信者で、最近、教祖が逮捕されたことで、洗脳が解けたらしい。あの世間を騒がした人身事故予言で、2件の内、1件予言が的中して死亡し、もう1件は止めに入った男性に助けられたという。助けられた女性がインタビューに答えている。インタビューが始まる。

「まず、なぜ入信しようと思ったのですか?」

「仕事に疲れていて、悩み相談をしてもらおうと行ったら、宗教の勧誘をされて、無理矢理に入らされたんです」

「それは悪質ですね。○△□駅の人身事故で亡くなった人も同じ団体の信者だったとか。接点はありましたか?」

「接点は無いんですけど、同じ悩みを抱えている人が集まっていたから、その人も同じ悩みを抱えていたんじゃないんですかね」

「そうですか。次の質問なのですが…」

インタビューは15分くらい続いた。番組は現代社会が生み出す社会問題が新興宗教団体が出来る原因だと述べていた。人身事故を亡くすことは出来ないが、ホームドアの設置を増やすことによって衝動的な自殺を減らすことが出来ると解説していた。

僕も信者の一人だった。もしかしたら殺されていたのかもしれない。こんな悪質な教祖に殺されるくらいなら生きていた方がマシだ。生きる希望を求めて進んでいこう。

【あとがき】〜作者からのメッセージ〜
人身事故というテーマで物語を書いた。この物語は○○の話というテーマで進んでいく。それぞれの視点が微妙に交差して物語の全貌が見えてくる。人身事故とネット社会の現状を交差させて書いてみた。現代社会の闇とネット社会の怖さを作者の思いも込めて執筆しました。前回の作品、『原因』に登場した長野と刑事が出てきます。同じ千葉県を舞台にしたので、何かしら交差させようと思いました。一部、グロデスクなシーンを書くのに躊躇したが、今回はリアリティを追求した。これは作者の意見になるのだが、ホームドアの設置についてだが、設置はもちろんのこと、ホームドアの高さが低いと思う。せめて、ホームの3分の2くらいの高さにするべきじゃないか。設備費が掛かるのは分かる。しかし、命はお金より大切なのではないか。この小説はフィクションです。人物名、駅名、アカウント名及びユーザー名など全てフィクションです。特定の鉄道会社及び宗教団体を中傷するものではありません。

植田晴人
ペンネーム。今回は少し、冒険してみました。

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