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「大丈夫です」という人が、みんな”大丈夫”なわけじゃない。

「大丈夫です」

そう言って力なく笑う彼女の顔が、昔の自分と重なった。その言葉の裏側が透けて見えたとき、私を襲った感情は、大きな怒りと悲しみだった。

発した言葉が、真実ではないときがある。言わないのではなく、”言えない”人がいる。その口を塞いでいるものの正体が分かっているのに、ひといきに取り除いてあげることも出来ない。無力感に苛まれながらも、今この手を離してはいけないと思った。

あのときの彼女の青白い肌を、今でも覚えている。


社会人になってだいぶ年数が経った頃、私はとある飲食店でバイトをしていた。そのバイト先には、大学生も数多く在籍していた。就活真っ只中の4年生もいて、上手くいっている子もいればなかなか内定をもらえず四苦八苦している子もいた。
そのなかに人一倍頑張り屋で、真面目で、素直な女の子がいた。その子は快活で仕事のできる子だったから、誰よりも早く内定がもらえるものだとみんなが思っていた。でも、そうはならなかった。決して頑張っていないわけではなかった。むしろ凄く頑張っていた。それでも、その努力がなかなか結果に結びつかない。日に日にその子の顔は曇っていった。笑顔が減り、あからさまに痩せ始めた。

ある日、心配になり思いきって声をかけた。するとその子は目を真っ赤にして、胸の内を話し始めた。

「もう、分からないんです」

途方に暮れた顔で泣きながらそう言う彼女の背中を、そっと撫でた。他にできることが、何もなかった。私は中卒で大学受験すらしたことがない。大学生が行うような新卒採用に適した就活のアドバイスなど、できるはずもなかった。ただ隣に座って彼女の話を聴く。それだけが、私にできる唯一のことだった。

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