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君が紡ぐ物語

「ねぇ、おかあさん。め、つぶって?」

ちびがわくわく顔でそう言った。言われるままに目を閉じた数秒後、手のひらに温かいものと冷たいものが同時に触れた。

今日は何が手のひらに載せられているのだろう。
太陽の光を瞼の裏で感じながら、こちらの心もわくわくしている。

「いいよ!」

弾んだ声を合図に目を開く。この瞬間が、私はとても好きだ。


我が家のちびは、外が好きだ。お日さまの光と風を浴びて育ったような子どもで、玄関を開けて外に出るとき、いつも足取りが弾んでいる。カエルのようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら外に飛び出す彼が危なくないように、いつも私は彼より先に靴を履く。

「今日はどこ行く?」

そう尋ねると、その日の気分で思い思いの答えが返ってくる。「公園」と言うときもあれば、「神社」と言うときもある。「近所をお散歩したい」と言うときもあれば、「庭でバスケの練習がしたい」と言うときもある。その日の天気、私の体調、時間配分により交渉が行われることもあるが、なるべく希望に沿うようにしている。行きたい場所に行けると決まったときのちびの台詞が聞きたくて、ついついそうしてしまう。

「おかあさん、だいすき!ちょっとだけ、ぎゅーしてあげるね!」

ちょっとだけと言わず、たくさんしてくれていいんだよ。
そう思いながら、「ありがとう」とハグを受け取る。小さな身体から放出される体温の高さを全身で感じながら、小さな背中に手を回す。まだまだ、小さい。それなのに、その瞬間いつも思う。

ちびは、とてつもなく大きい。


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ある日のちびが選んだのは、近所のお散歩だった。田んぼのあぜ道を歩きながら、トンボやバッタを追いかける。サギを見て「おおきいね」と驚き、ひっくり返って死んでいるセミを見て「なむなむだね」と手を合わせる。雲の形を好きなように描き、道端の石は宝石になる。

毎日見ているものばかりなのに、ちびにはそれが毎日違うものに映るらしい。彼の世界は可能性に溢れていて、そこにはたくさんの空想が散りばめられている。楽しい空想、悲しい空想、そこから生まれる物語。

ちびはよく、物語を生み出す。それを聞くたびに、私の心は踊る。


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