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うつくしいですね、と言われた話

「うつくしいですね」

そう言われました。仕事の飲み会で、一緒に飲んでいた30代の男性に。

「いやほんと、信じられませんわ。YouTubeとかやったほうがいいですよ、まじで」

わたしは「いやあ、そんな」とヘラヘラと笑いました。

嬉しかったかって?普通、嬉しいですよね、「美しい」って言われたら。いや、そうでもないのかな?みんなはどうなんだろう?わたしはね、嬉しくなかったです。それどころか、とんでもなく気まずくて、バカにされたような気さえしました。

30代までは、「きれいですね」と言われたら結構言葉通りに受け取って二へ二へと喜んでおりました。「何言ってんですか、そんなことないですよーう💛」とか言いながらもいい気になって、よし、明日からは新しいチーク試しちゃおうかな、なんて前向きに捉えていました。40代になってからですかね、いきなり後ろ向きになりました。ぐるんっと。

「きれい」と言われても喜べない。「若く見える」と言われると逆に「若くない」と言われていると受け取って落ち込む。服を選ぶときには「40代 服」で検索しないと不安になる。「40代で着るとイタイファッション」なんて記事を見ようものなら、「どうしよどうしよ、わたし大丈夫かな。この前買ったスカート、やっぱ若作り過ぎ??」とクローゼットをひっくり返したくなる。結果、クローゼットの中はいまや黒と紺と茶色の無難なスーツで埋め尽くされております。

そんな中で「うつくしいですね」と言われて額面通りに受け取れるわけがありません。バカにされた、安く見られている、そんな思いを顔に出さないよう、必死にやり過ごしました。

なんで、ですかね。今、「うつくしいですね」と言われて素直に喜べないのは。

理由は、

40代女性がモテる訳がない、とわたし自身が思ってしまっているから


わたしが、アンジェリーナジョリーだったら。あるいは石田ゆり子だったら。「美しい」と言われて「うふふ、まあ努力してるからね」と胸を張って言えるのかもしれない。でも、一般人、あるいは芸能人であったって、40代になって肌に張りが無くなって二重の幅が狭くなって頬が垂れてきて、それはもう、20代30代と比べたらどうしたって老けてくる。特に、「若い」ということが最高の価値になっている日本において、40代以上は生きづらいな、と思う。

人間の価値は若さだけじゃない。内面の美しさだってあるじゃない。そう思いたいのに、気づけば「若けりゃ若いほどいい」っていう価値観にどっぷり漬かってる。だってテレビを観てみてよ。男性は若者からおっさんまで一通り出てるけど、40代以上の女性なんてせいぜい芸人枠で一握り。後は大御所の女優さんが番宣で出てくるくらい。お笑い番組の観客席は20代30代の女性の嬌声で溢れている。

40代以上の女性は肩身が狭い。

飲み会で褒められて、あそこでわたしが「あらうふふ、ありがとうございます」と言えばきっと周りに「うわあ、このおばさん、社交辞令を真に受けてるよ」ってきっとイタイ人扱いされてたと思う。かといって「いやいやもうおばさんなんで」とか言うと周りに気を遣われて「そんなことないですよ!」「いやいやもう…」「大丈夫ですって、まだ若いですって!」「や、そんなことは…」「まだイケますって!」「いや…」(以下無限ループ)みたいなことになってきっとわたしは耐えきれなくなって泣きながら部屋を飛び出してしまったと思う。

じゃあ、どうすりゃ正解なのさ。

80代まで生きたじいちゃんばあちゃんを持つ身としては、人生あと40年くらい残ってるかもしれない。その40年を、もう若くない、もう若くないと言い続けて下を向いて歩きたくはない。若さだけが人間の価値だなんて、思いたくない。そろそろ若さの呪縛から解き放たれなくては、と思う。そうしないと、この先生きていくのがツライ。

そんなことを言いながらも、結局今日もわたしは化粧をして、ほうれい線を消すために口角を上げるトレーニングをして、一本でも皺を少なくして「キレイ」と言われることを心のどこかで期待している。皺がない方が良いんだという呪縛に囚われている。歳をとったら美しくない、若くないと価値がない、そんな誰のことも幸せにしない価値観に自分が一番縛られている。ほんとバカだ。そういった若さへの執着が自分を追い詰めているって分かっているのに。

それでも最近たまにふと、「あ、今少し若さへのこだわりを捨てられたかも」と思える瞬間が出来てきた。それは主にアメリカの映画とかで自分よりも結構年上の女性がやけにかっこよかったり、あるいはしっかりと人生を楽しんでいたりするのを観たりする時だったりするんだけど。目尻にしわを寄せて高らかに笑い、人生を謳歌している主人公たちを見て、ああ、わたしもあんな風に、と願う。

もう誰もわたしに「うつくしいですね」と言ってくれなくていい。その代わり「尊敬してます」とか、「はるのさんみたいに生きたいです」とか、「はるのさんって楽しそう」とか、あるいは単純に

「はるのさんが好きです」

って言って欲しい。

美魔女(っていう言葉ほんとキライ)として「若さを保つ秘訣」なんてYouTube動画を作るくらいなら、わたしはたくさん本を読んで、ちょこっと書いて、勉強をしたい。そして大きな口をあけて笑ってわたしのことを好きだって言ってくれる人達と一緒に生きていきたい。

そんなことを思って、「うつくしいですね」の彼からの夜ご飯のお誘いのLINEをそっと閉じたのである。



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