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【本】法律は誰しもの権利を守るためにあるー刑事弁護人

亀石さんは、大阪のNOONというクラブが風営法で摘発されたとき、弁護人として裁判を闘ったことをきっかけに知った。
NOONは大学時代にもよく遊びに行っていたし、クラブ摘発が関西で色々と問題になったとき、京都のクラブメトロなんかも大変だと噂を聞いていて、一体どうなってしまうのかと思っていた。(結果無罪)
その後も、タトゥー裁判など、とても興味深い裁判を担当していて、インタビュー記事を読んだりしていると、亀石さん自身も面白い人なんだな、と思って興味が湧いてきた。

当時このインタビュー記事を読んで、法曹業界で好きな服を着て、当たり前を当たり前だと諦めないで疑問に思う姿勢がとてもかっこいいと感じた。

まさか選挙に出馬されるとは思ってなかったけど、
そんなこんなで、選挙前のタイミングで出版された、刑事弁護人を読んだ。


表紙が本人の写真ドアップで、亀石さんをプロモーションする(選挙前だったからかも)ような装丁だったので、本人の考えや生い立ちなど、人物像がメインの本かと思いきや、
主にGPS裁判の経緯をノンフィクションで、序盤の、事件から裁判の争点までの部分で、「この本は、2時間ドラマのようなハードボイルド法廷サスペンスにしたいのだろうか、、、」と読むのをやめてしまうところだったけど(目次が推理小説みたいでよくない)裁判が始まるにつれ、この本で伝えたいことが明確になってきて面白くなってきた。

窃盗事件で、被疑者は自ら告訴事実は認めているが、捜査段階で警察から車にGPSをつけられ、行動を監視されていたことに疑問をもち、弁護人としてもGPS捜査がプライバシーの侵害に当たるかどうかを争点に裁判に挑む、という内容。

刑事弁護とは、犯罪を犯したかもしれない被疑者に対して、不利益のないように弁護する役割があるけれど、その弁護は、被疑者個人に対してのみ行われるものではなく、法律ですべての個人の権利をどう守っていくか、ということを定義していく役割もあるのだということがよくわかった。

犯罪者を罰するために法律がある、という認識で刑事弁護なんて犯罪者を擁護するんでしょ、という人もいるが、本来は逆で、あらゆる人が被害者にも加害者にも(冤罪被疑者にも)なりうる中で、個人の権利を守るために法律がある。その法律を、どのように行使しているのかをチェックする役割でもある。
刑事事件なんて縁遠いと思うかもしれないけれど、一つの事件をきっかけにして、誰しもに関わる私達の大切な権利が、制限されたり管理されたりしないために、戦っている人たちがいるのだ。

弁護士、という名前に弁がついているのには、法律の知識だけでなく、人の心を動かしたり、説得するための弁論の技術も必要なんだと思った。
本では最高裁判所での弁論は、事実を確認するだけでなく、争点が以下に重要でこの判決で今後の扱いどうなるのか、裁判官や一般の傍聴人にも伝わる話し方について弁護団で何度も打ち合わせをする場面が出てくる。
論理的なだけでなく、感情にも訴えかける話し方ができる弁護士ってすごい。

法律ってなんだろう、権利ってなんだろう、1つの事例を通して、たくさん学ぶことのある本だった。(表紙を普通の新書のものにしたほうが、意図は伝わりそうだけど)

個人的に気なったのは、亀石さんが選挙に立候補しているときにしきりに語っていた、#自由に生きちゃだめですか?というキャッチコピーとともに、多様性や古い価値観からの脱却を訴えていたにも関わらず、
・本文で、被疑者の「男気に」亀石も「男気で答えた」というような表現があったこと
・筆者プロフィールに、「女性弁護士ならではの視点ときめ細かさを活かし、離婚や男女トラブルも数多く手掛ける」との記載をしていること
には本人の意図かどうかはわからないけれど、性差表現のステレオタイプから脱却していなくて、少しがっかりした。

ただ、政治家になった亀石さんが、立法府でどういう仕事をされるのかも楽しみだっただけに、落選は残念。

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