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【本紹介】アートとしてのカウンセリング入門②


杉原保史 著

マインドフルネス


カウンセラーに特徴的な聴き方は、マインドフルネスな聴き方である。

マインドフルネスとは

・今この瞬間に、価値判断をすることなしに意図的に注意を向けること
・今すでにそうあるものをただありのままに感じる、努力を伴わない活動
・行為をするモードから、存在をするモードあるいは無為のモードへと移行すること
・次の瞬間に今と違う何かが起こってほしいという気持ちを放棄して、今ここに立ち止まること
・自分の存在の核との親密さを開拓すること

→マインドフルネスは実際に実践してみながら体験的・体感的に理解を深めていくような種類のもの

何もしないことを学ぶ

力を抜こうとする努力は逆効果→まず力を入れ、それを抜けていくのをじっくり感じる(漸進性筋弛緩法)

努力せずに、ただありのままの感じを穏やかに静かに丁寧に感じ取る(自律訓練法)


例えば
「肩の力を抜く」にはまず「肩が凝っているなあ」と自覚することが第一歩


心の行為も同じ
知らず知らずのうちに何かの努力をしてしまっていてそれに自覚がないことが多い
→しかし、その努力をやめようと頑張るのではなく、ただありのままを観察する・感じる

一日数分であっても、何もしない時間を自覚的・意図的に持つことによって、
無自覚の反射的な心の力みへの気づきを高めることができる

自分は今と違った自分であるべきだと焦って何かをすることをやめ、立ち止まって何もせずありのままの自分と世界を感じる

ラディカル・アクセプタンス

現実を受け入れる≠諦める・未来へ向けて変化することを放棄する

そもそも、立ち止まって現実をありのままに認識することができないままで、それを変化させることなどできるのか(いや、できない)

現実の自分と世界をありのままに受け入れる・認めることをラディカル・アクセプタンス(徹底的な受容)と呼ぶ

日常におけるインフォーマルな実践

マインドフルネスを生活の中に持ち込んで実践することができる

食事、歩く、皿洗い、シャワーを浴びることなど
心あらず状態なことが多いのではないか
→マインドフルネスに食べ、マインドフルネスに歩き、マインドフルネスに皿を洗い、マインドフルネスにシャワーを浴びる

イライラした時にお茶を丁寧に淹れる
→お茶の色を目で味わい、口に含んで味を味わう
そのうちにさまざまな考えが湧き起こって来たらそれを自覚して、手放してもう一度お茶を味わう

マインドフルネスに聴く

ロジャーズの自己一致・プレゼンス、フロイトの平等に漂う注意
といったカウンセラーのあり方の規範は、マインドフルネスの考えの一側面を述べたものとして理解できる


「カウンセラーとはこう思うべきだ」「カウンセラーはそんな思いを抱くべきではない」と固く考えているとしたらそれと反する心の動きが脅威となってしまう

カウンセラーが助けてあげたいと気持ちが湧いてこないことをありのままに、何ら防衛的にならずに受け入れることができていると、その事実を援助的に活用することができる。

例えば
Clに対して(あー、またあいつが来たか)と思う気持ちを心の隅に追いやったままになる可能性が高い

しかし、マインドフルネスに自分の思ったことを観察すると
どうしてそう思うのだろう→Clのぶっきらぼうな言動や態度が援助したいという姿勢を削いでいるのかもしれない→このClは日常においてもこの態度のせいでかなりの損をしている可能性が高いだろう
と重要な推察にむすびつく

それをうまくClに伝えると、助けてあげたい気持ちが湧いてくることもある

→カウンセラーが心を自由にして、どんな不快な感情でもただありのままに感じながらClの話を聴くことができるなら、それは色々な次元でカウンセリングを助ける。

カウンセラーとして持つべきでないと思えるような、最悪な部分と感じられる心の動きでさえ、ありのままにそれに気づき、認めていくことで、カウンセリングの目的に奉仕するものとして利用できる。

応答技法について

応答技法

相槌、反射、感情の明瞭化、クライエントの発言内容の要約、非指示的リード、質問、自己開示、リフレーミングなど

→浅い理解に基づいて形式的に用いられると逆効果になりうる

あいづち

Clの話を聴いているというメッセージを伝えクライエントが話すことを励まし支える

×多すぎるあいづち、声が大きすぎるあいづち

「どこであいづちを打つか」=「どこであいづちを打たないか
を考える

例えば
Clの感情が表出されたところ
Clが何か大事なことを思い切っていったところ
Clが不自然な発言をしたところ

意味の乏しいあいづちは価値がないので控える

声のトーンに気を使う

例えば
Clが憂うつそうに話している時→低い声でゆっくりと
Clが早口で焦って話している時→高い声で早めのテンポ

Clの変化に従いながら、時には変化を誘うようにあいづちを打つ
→Clとデュエットを歌うように、あるいはダンスのステップを踏むように

反射

単純な反射
Clの発言をそのまま返す応答
→つい自分の観点から質問したり意見を述べたりしてしまうので、この応答は易しいようで難しい

適切なポイントでするからこそ効果がある
例えば
Clの言葉の中で大事なところ
感情の微妙な体験の綾に触れているところ
重要なキーワードと思われるところ

音楽の合いの手のような感じで反射する

喚起的な反射
Clの言葉を聴いて、カウンセラーがクライエントの感じているものをできるだけリアルに感じ取ろうと努力し感じられたものを自分の言葉で生き生きと表現し伝えようとする

ドラマや映画でいう音楽やカメラワークのように
表現を工夫して伝えることでClがより強く体験に開かれることを促進する

適切な反射はセラピストの生きた反応であり、Clのその特定の体験に固有のニュアンスや味わいに細心の注意を払う反応である(グリーンバーグ)

Clの発言内容の要約

カウンセラーが的を射た要約をすることで、的確に理解してくれているとClは安心し、信頼感を高める

要約は簡潔に
要約はカウンセラーの理解を伝える行為でもあるので、どのように要約するかによってカウンセラーの理解のあり方が如実に表れてしまう

感情の明確化

Clがまだはっきり言葉にはしていないが、伝わってくる感情をカウンセラー側が明瞭にしてFBする応答

例えば職場のエピソードを話すCl
話ぶりから上司への不満を感じていそうな雰囲気があるがそれを言葉にはしない場面で
「上司に対して、『僕だって一生懸命やっているんです。そのことを全然認めてもらえないような感じがして、それがつらいんです』と言いたいような気持ちですか」
と返す。これを感情の明確化という

感情の明確化は、カウンセラーの解釈であるとも言える(推論して伝える)
感情の明確化は、暗示的な誘導の性質も帯びる(微かな感情が増幅され育成され後押しされる)
感情の明確化は教育的・形成的な働きを担う(未分化で潜在的な感情に適応的な形を与える)

非指示的リード

それについてもう少し詳しく話してもらえませんか
もう少し聞かせてください
といったオープンな投げかけ方で話すことを促すカウンセラーの言葉かけのこと

どこで用いるかが重要
△カウンセラーがもっと知りたいなと思ったところ
○クライエントがこういうことを話してもいいものかと躊躇っているように感じるポイント・不安で十分に話せない兆候を見せるポイント

質問

カウンセラーが質問を必死で考え、Clがただぼーっとカウンセラーの質問を待つというのはダメなカウンセリング
→クライエントの心が忙しく仕事をする時間が多いのが良いカウンセリング

質問攻めのカウンセリングでClは説明はしても感情を表出することはない

良質なカウンセリングにおける質問は
Clの注意を方向づける介入
自己探求の姿勢が喚起されること

オープンな質問を通してクライエントの内的な体験を探索する

どんなイメージが湧いてきたのか
どんな考えが脳裏をよぎったのか
どんなふうに振る舞ったのか

→Clが答えられない時は
タンムマシンでその場に戻り、スローモーションで再生するような感じで改めてゆっくりと体験し直してもらう

外的現実について触れる時・・・
「私はその場面にいなかったので、勝手な想像を交えて状況を捉えているかもしれません。できるだけ性格にその場面をあなたと共有したいのです」などと説明して、穏やかな雰囲気で進める


※Clの反応を見ながら臨機応変に進める。例えば不安が強く、自分を露わにすることを極度に恐れているClの場合は、閉じられた質問の方が安心するなど

5W1Hの中で「なぜ」は最も使用頻度が低い
→CLの「なぜ」を解明するのはカウンセラーの仕事!

「なぜ、学校に行きたくないのですか」→「いつ、どんな時に学校に行きたくないと強く感じるのですか」

「なぜ悲しいんですか」→「悲しいと感じている時、心にどんな思いがあるのですか」

「どうしてお母さんがそんなに嫌いなのですか」→「お母さんのことを嫌いだと感じる時、お母さんになんて言いたいような気持ちですか」

指示・教示

カウンセラーがClに指示を与えるのは、通常、十分に話を聞いた上で、何らかの見通しを持った時

よく用いられる指示
内的な体験に触れていくことを求める指示
→「その感じに今しばらくじっくりと止まってみてください」「その気持ちを今改めてじっくり感じてみましょう」「目を閉じて、今、できるだけリアルに思い浮かべてみてください。そしてどんな感じがするか教えてください」

自己開示

カウンセラーが全く自己開示しないのは不可能
Clへの応答などでカウンセラーの意向や思いが伝わってしまうものであることをまずは理解しておく

自己開示をすぐにしたがるカウンセラーは、
カウンセリングはクライエントのための時間であることをよく考える
→自分の自己開示をClがどう受け止めているかをモニタリングする
「自己満足で終わっていないか?」と厳しくチェック!

カウンセラーの自己開示がClの自己探求の妨げになることもある
「私もきっと同じようにしたと思います」「私も同じような経験があります」

Clからの質問に対する応答について
質問に答えることより、その背後にある心の動きを理解する

例えば
「A社とB社どちらに就職した方がいいと先生は思いますか?」
×「A社の方がいいと思います」
○「どちらに就職しいいかということについてあなたは自分の中に感じられるものを信じることが難しいようですね」

「先生は結婚していらっしゃいますか」
○「はい、しています」「それを聞いて今どう思いましたか」

○「答えたいとは思っていますが、その質問に私がはいと答えるのといいえと答えるのであなたの相談に何か違いが生じてきますか?」





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