【さがたび DAY2】晴天と秘密の鍋島焼

天気の子という映画、皆さんは見ましたか?
人は晴れを望んでる、晴れている空にどこか安心し、心を動かされるという描写が印象的な映画だったなあと思います。

さて、二日目に訪れたのは、鍋島藩の秘窯 大川内山(おおかわちやま)です!

鍋島藩のおかかえ窯、鍋島焼について

今回の旅でしっかり知ることになったのですが、伊万里焼と鍋島焼は違うものなんだそうです。
産地としての伊万里焼の中に、製法やジャンルとしての鍋島焼が含まれている感じ。
ざっくり、鍋島焼とは何か書いていきます。

●歴史
江戸時代、大川内山で鍋島藩が焼かせていた。将軍家や幕府の重心、公家、皇室などへの献上品として作られていた。
日本で初めて磁器が焼かれたのは有田だが、平らな土地で人も技術も出入りが激しかったため、良質な陶石や青磁の原石が取れる・周りが山に囲まれている大川内山に優秀な陶工たちを住まわせ、公務員のように給料を与えて生活を補助する代わりに、厳しく物資や技術の漏洩を防いだ。
ここで作られる焼きものは高級品としてありがたがられたため、鍋島藩は外様大名であったにも関わらず政治的な悪影響を受けることはなかったらしい。
廃藩置県後、陶工たちは職を失うことになる。

このエリアに入るには関所を通る必要があって、その跡がこちら↓

ちなみに、超優秀であるがゆえに生意気な陶工がいて、管理しきれないから追放された(鍋島焼はがっちり規格が決まってて自由に作れなかったからという説もあり)んだけど、愛媛の砥部焼の地域に逃げたところ、情報漏えい(と普通に脱藩)で死罪になったそう。

その話は民謡にしてひっそり残されている。
(死罪になったくだりはこの絵のもっと左側)

●種類
鍋島焼は三種類あります!
①鍋島青磁(空色の釉薬一色でつくられたもの)
②色鍋島(染付の線画に決められた4色で色をつけたもの)
③鍋島染付(藍色の顔料のみで絵付けをしたもの)

どれも大川内山で採れた陶石や釉薬の原石をつかって作られています。

以下は、じっくりお話を聞くことができた鍋島青磁について。

長春窯の鍋島ブルー

青磁というと、上の写真より淡い色合いのものを想像しませんか?
それは、扱いやすいように調整した、さらっとした釉薬だったり絵の具で色をつけているから。

鍋島の原石をつかって作るのは、カレーを煮詰めたようなどろどろの釉薬。
さっとかけただけでは素焼きの陶器が吸収できないので、しばらくつけてから引き上げるんだそうです。

色も重たいし、実際持っても重い。
鍋島焼の青を表現するときは、「重厚な」という言い方をします。

上のはルームランプのアップ。焼いたときに釉薬がガラス質になって小さな気泡が生まれるので、内側から光を当てると、しゅわしゅわした粒のようなものが見える。
どろっとした厚い重たい釉薬でも透明感があるのが、最高級品たる理由の一つです。

釉薬の原石は、この深い青とは似ても似つかない色。

中に含まれる鉄が酸化すると、青〜青緑色に変化する。
焼き上がりが透き通るような青になるか、緑に近い青になるか、はたまたグレーっぽくなってしまうか…それは石の中の鉄分の多さに関係するそう。
鉄が多いほど緑っぽくなっていく。

ひとかたまりの石の中にも、鉄が多いところ・少ないところでゆらぎがある。
職人は石を見ただけで、焼き上がりがどんな色になるか分かると聞いて驚いた。

同じ青磁でも、右の天龍寺青磁は緑に近いのが分かる。
日本人は透き通る青を好み、砧(きぬた)青磁と呼んで最上級品とした。
※この呼び方は多分色の出方の話

それから、鍋島青磁は生産量が非常に少ない。
理由のひとつとしては、とにかくつくる手間がかかるから。

大川内山の陶石が取れるところまでは車が入って行けず、ひとつひとつかごに入れたりして運ぶ。
石の発色のいい部分を見極めて、それから、自分の手でトントン砕いて粉にし釉薬をつくる。
釉薬をかけるのも焼くのも冷ますのも、時間がかかる。

市販のものを使わずに、昔からの材料と製法でつくることの価値と、途方もない大変さを教えてもらいました。

晴れた空の美しさ

青磁(砧青磁)を表す表現で、「雨過天青 雲破処(うかてんせいくもやぶれるところ)」という言葉がある。

降っていた雨が止んで、雲が割れ、光が差し込んで、次第に青い空が見えてくる。
すると、晴れ晴れと胸のすく思いがして、うれしくなったり、穏やかな気持ちになる。

そんな空の青さを写し取ったような色、という意味。

最上級の発色をした素晴らしい鍋島青磁に出会ったとき、目の前が明るくなるような、ぐっと惹きつけられる感じがする。
それは、曇り空の隙間に青空を見つけたときの喜びと、つながるんだなと思った。

▲そんな情緒的でなく容赦なく照りつける日でしたがね

家々の間から、ふんわり風に乗ってあがる煙。
薪の燃えるにおい。
のどかな秘窯の散歩は、かけがえのない思い出になった。

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