短編小説:メイド・フォー・ユー

 八谷は、自他共に認める冴えない男子。

 とにかくおっちょこちょい。
 水彩画を描こうものなら、筆洗い用のバケツを三十分に一回のペースで倒す。少しは足元を見ろ。

 とにかく不器用。
 針に糸を通すだけで時計の針が何周もする。なお、糸通しは着手早々に壊すのがお決まり。

 とにかく要領が悪い。
 断るのが下手でいつも面倒な委員会を押しつけられる。おかげで朝の挨拶運動が大変不評な生活委員を中学三年間勤め上げた。

 とにかく頼りない。
 年中貧血を起こすし、いじめっ子にもすぐに目をつけられる。私が守ってあげたことも数知れず。

 と、そんな八谷とは小学校時代からの腐れ縁。そして中三のとき、こんな風に告られた。

『同じ高校に進学できたら付き合ってください!』

 ……正直、絶対無理だと思った。
 私の成績は常に学年で十位以内、対する八谷は下から数えた方が早いくらいだったのだ。小学生の頃はもっとデキる子だったのに。

 ということもあり、いいよって軽く返事をしたら、なんの奇跡が起こったのか八谷は私と同じ高校に無事進学、彼氏の座もゲットしたのだった。

 そうして高校生活も数ヶ月が過ぎたある日の学校帰り。二人で寄り道したファストフード店でポテトを摘まみつつ、私はクラ友のミキから今朝聞いた話を思い出した。

「八谷って、○○駅近くの執事喫茶でバイトしてる?」

 直後、八谷はポテトで派手にむせた。

「そそそんなバイト、僕にで、できるわけ……!」

「わかってるって。八谷に似てる超イケメンがいたって笑い話だよ」

 咳き込み涙目の八谷に林檎ジュースのカップを差し出す。
 八谷はあいかわらず冴えない。
 けど、なんだかんだこんな八谷が最近はかわいくて仕方ない。そもそも悪いヤツじゃないし。

 こういう彼氏も悪くないかも、なんてほだされてる私なのだった。

  ***

 ……超ビビった。心臓止まりかけた。

 ゲホゲホやりつつ、僕の背中を優しくさする結ちゃんの横顔を盗み見る。

 結ちゃんの男の趣味の悪さに気づいたのは、小六の頃。
 当時結ちゃんが夢中だったのは、小六のくせに三股もかけてた浮気野郎。その後、恋多き結ちゃんは、黒い噂の絶えない不良、病弱なひねくれ男子、面倒な高慢チキ等々に惚れていく。

 しっかり者の結ちゃんは、どうやら放っておけない系男子が好きらしい。ということに気づき、結ちゃんに釣り合う男となるべく日々人知れず努力してきた僕は完全に打ちのめされた。

 だから。

「あ、ありがとう……」

 大げさなくらい咳き込んでから礼を言うと、結ちゃんがにっこりしてくれる。尊い。この世の奇跡。

 バイトは今月末で辞めよう。結ちゃんの誕生日プレゼントを買うにはもう十分だし。

 君のためなら、僕はどんな僕だって作れる。


End.

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