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短編小説:ネガティブが止まらない

ぐるぐる考えちゃうことあるよねという話。約2000字。

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 塾のクラスが一つ落ちた。

 先月の月例テスト、解けなかった問題が多かったし、自分でもこれはちょっとマズいかもって思ってはいたけど。

 いざ先生に呼び出されて、AクラスからBクラスに下がるって言われると、やっぱりそりゃさすがにヘコむ。

 これまで同じクラスだった子たちと顔を合わせるの、とっても気まずい。正面からバカにしてくる子なんてもちろんいないだろうし、友だちは友だちのままだろうけど、それでも「アサちゃん成績落ちちゃったんだ」って思われるのを考えると、ものすごく恥ずかしい。穴があったら入りたい、って言葉を今こそ使うときだ。

 普段からちゃんと勉強しておかないからだって言われそうだけど、でも別に勉強をサボってたわけじゃない。サボってたわけじゃないのに落ちたから余計にずーんとくる。

 おまけに塾で仲よしのミキには「すぐにAクラスに戻れるよ」なんてなぐさめられちゃって。

 超焦る。

 そんな風になぐさめてもらったのに戻れなかったらどうしようって考えただけで目の前がまっ暗っていうか、気持ちが沈みすぎて足が地面にメリメリめりこむ。

 そもそも私は要領ってヤツが悪いのだ。何をやっても時間ばかりかかる。Sクラスのイツキくんなんか、「中間テストの前はちょろっと勉強しただけ」みたいな余裕シャクシャクなことをシャクシャク言ってて、どうしてそんな人が私と同じ世界にいるんだかまったく理解できないんだけど、とにかくイツキくんは学年で三位の成績で、何十時間も勉強した私は四十位。普段の積み重ねが違う、って誰かが言ってたけど、その積み重ねの要領も悪い私はどうしたらいいの?

 積み重ねって言えば勉強だけじゃなくて、部活でもそう。

 私は吹奏楽部で、平日の放課後、塾に行く前は毎日トランペットの練習をしてる。楽器も日々の基礎練の積み重ねが大事だって先生も先パイも言ってたけど、入部して二年目、中学二年になったっていうのに私のトランペットからは「パーン」っていうカッコいい音はいまだになかなか鳴らず、「ペェェ」っと絞り出したような音ばかりが出る。力みすぎだって言われてもなかなかうまく直せない。

 おまけに今年入部した一年生のエナちゃんは、小学生の頃からトランペットをやってたっていう経験者。私よりもずっと上手に「パーン」って気持ちのいい音を飛ばす。私の先パイとしての存在価値はもはやまったく見つからない状態なわけで。

 超焦る。

 そもそも、先パイどころか私には姉としての威厳すらあるのかわからない。

 うちの妹は私が持っていない色んなものを持っている。絵の才能とか、作文の才能とか、人にかわいがられる才能とか。何かと優秀な妹は昔から私の倍以上の賞状をもらってて、そして引っ込み思案で心配される私とは正反対、友だちもたくさんいて親にも先生にもかわいがられるタイプだ。うらやましくない、わけじゃないけど、それよりも私はどうしてこんなんなんだろうって気持ちの方がいつも大きい。

 色んな才能があって未来がキラキラしている妹に比べ、塾のクラスは落ちるし部活でもパッとしないしでいいところが何もない私のお先まっ暗感ってばハンパない。

 超焦る。

 がんばってないわけじゃないのに、なんとなくうまくいかない。

 物事がうまくいくためのセンスがないってことなのか。

 運がないってことなのか。

 考えてもしょうがないけど、それでも頭はぐるぐるしてしょうがない。

 努力は人を裏切らない、って大人は子どもに言うけど、そんなのキレイごとじゃない? って中学生にもなればうっすらわかってくる。人には向き不向きとか、生まれついての見た目とか、努力だけじゃどうしょうもないものがあるって十三年も生きてればイヤでもわかる。努力して裏切られないかどうか、実はそれも運次第だったりするんじゃない? って大人に訊いてみたい。努力してなんとかなるなら、世の中もっとみんなハッピーでしょ?

 いやでも、もしかしたら私が知らないだけで、私が思ってるよりもみんなハッピーなのかもしれない。それならそれでいい。っていうか、こういうこと考えてると「食べるものも住むところもあるお前も十分幸せだ」とか言ってくる訳知り顔のおじさんとかに怒られそうな気がしてくる。そりゃそうかもしれないけどさ、それでも落ち込むものは落ち込むし。

 なんでこんなにダメなのか。

 なんでこんなにうまくいかないのか。

 なんでこんなに運がないのか。

 焦る、焦る、焦る。

 考えてもしょうがないけど、やれることをやるしかないけど、それでもなんで自分だけって考えちゃうのしょうがなくない?

 ――なんて考えながら一人で歩いていた学校からの帰り道。国道の横断歩道に差しかかったところで、思わず「あ」と声をもらした。

 歩行者信号が青に変わった。

 足を止めることなく、セーラー服の肩で風を切りながらサクサク横断歩道を歩いてく。

 一秒も待たずに渡れたなんて、ちょっとラッキーかもしれないなんて思いながら。

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口語体で好きに書いたら楽しかったです。たまにはこれくらい蛇行しながら地の文書きたい。
ネガティブスイッチ入ることもあるけど、「ラッキー」だと思えることを積み重ねていって自分でメンタル持ち直せるといいよなぁと思います。

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