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Un Grande Amore! 偉大なる愛だ!! 『エリザベート・ガラ・コンサート』

運命に導かれたとしか、思えないのだ。

もともと、4月24日は千葉・松戸で行われる井上芳雄さんのコンサートに行こうと、チケットを申し込んでいた。芳雄さんコンサートのチケットは落選のお知らせが来て、生で観たかった『エリザベートTAKARAZUKA25周年ガラ・コンサート』のチケットも全敗。

そんな時だ。芳雄さんのコンサートと同じ日に『エリザベートTAKARAZUKA25周年ガラ・コンサート』の配信があると知ったのは。

しかも、その日の配信は「2014年花組フルコスチュームバージョン」。宝塚のやっているエリザベートのガラ・コンサートにはいろいろなパターンがあって、当然出演者も違う。2014年の花組バージョンは、後で書くが大変豪華なメンバーだった。

芳雄さんのコンサートも外れたことだし、せっかくだから配信だけど観ておこう。そう思った私は『エリザベートTAKARAZUKA25周年ガラ・コンサート』の配信チケットを購入した。その週は『モーツアルト!』も『坂本裕二朗読劇』もあって、感情の起伏が忙しい週だったにもかかわらず。

誕生日直前の週末に私の心を持っていったのは、宝塚版『エリザベート』。そしてこの作品は、私の心を掴んでまだ離さない。きっと、一生離さないだろう。その理由は、これから綴ることにする。

『エリザベート』という作品について

『エリザベート』は、オーストリア=ハンガリー帝国最後の皇后、エリザベートの生涯を描いたミュージカルだ。ドイツのオペラ演出家ハリー・クプファーの演出により、ウイーンのアン・デア・ウィーン劇場で初演され、6年のロングランを記録している(Wikipedia調べ)。

ブロードウェイでもウエストエンドでも上演されていないこの作品は、日本では1996年に宝塚版が、2000年に東宝版がはじめて上演された。20年以上にわたって再演が繰り返され、日本人に愛されるミュージカルとなっている。

主な登場人物

エリザベート:オーストリア帝国の皇后。愛称はシシィ(Sissy)。主人公。
トート: 黄泉の帝王。死の抽象概念を擬人化した存在。シシィを愛してしまう。
フランツ・ヨーゼフ1世:オーストリア帝国の皇帝。エリザベートの夫。
ルイジ・ルキーニ:イタリア人無政府主義者。エリザベートの暗殺犯。物語の狂言回し役。
ルドルフ: オーストリア帝国の皇太子。フランツとエリザベートの息子。
ゾフィー: オーストリア帝国の皇太后。フランツの母親。

引用:Wikipediaより

始まりは法廷から

ルイジ・ルキーニは死後100年が経っても、被告としてあの世で裁判にかけられていた。皇后暗殺の動機を裁判官に聞かれ、「皇后自身が望んだんだ」というが裁判官には信じてもらえない。エリザベートと同時代に生きた人々を煉獄から呼び戻し、語ってもらう。また黄泉の帝王トートを呼び出し、裁判官に語り掛けるも、まだ信じてもらえない。

もう一度、動機を詰問されたルキーニは、こう答える。

Un Grande Amore! 偉大なる愛だ!!

「偉大なる愛」がどのように死(トート)とシシィを結びつけたのかが、ここから語られていく。

魅力その1:楽曲

とにかく、楽曲が素晴らしい。心を掴んで離さない曲が目白押しだ。

ミュージカルではよくあることだが、同じメロディの曲が違う場面で歌詞を変えて使われる。例えば、冒頭の法廷の場面でトートが登場した直後に歌うメロディは、後で出てくる「最後のダンス」と同じだ。このメロディは、トートの皇后エリザベートへの愛を示していると言って良いだろう。

この手法が最も印象的に使われるのは、第1幕のフランツとエリザベートが愛を交わす場面で歌われる「嵐も怖くない」と、第2幕の最後のほうで歌われ、2人のすれ違うさまが胸を打つナンバー「夜のボート」が同じメロディだというところだ。かつて愛し合っていた2人が、すれ違うさまを同じメロディで表現する。「夜のボート」はシシィを演じる役者さんも、フランツを演じる役者さんも年月を経たことを感じさせる動きになっていることもあって、切なさが胸に突き刺さる。

上に挙げた「嵐も怖くない」「夜のボート」のほかに私が好きな曲は、シシィの美貌に恋に落ちてしまったトートが歌う「愛と死の輪舞」、トートが自信満々で歌う「最後のダンス」、シシィが自立を決意するところで歌う「私だけに」、ルキーニがノリノリで歌う「キッチュ」、トートが苦悩するルドルフを焚きつける「闇が広がる」、シシィが最期にトートのもとへ向かう時に2人で歌う「愛のテーマ」などがある。

というか、『エリザベート』の楽曲は、程度の差こそあれほとんど好きかもしれない。

魅力その2:現代にも通じる人間同士の関係

姑・ゾフィーが嫁であるシシィにやたらと厳しかったり、厳しすぎると訴えた夫・フランツがマザコン気味だったりと現代の女性から見ても「イラっ」っとする要素が満載だ。

フランツは優しい男で、ちゃんとシシィを愛しているのだけれど、立場上どうしても自由にふるまうことはできない。どうしても、母と妻の間をうまく取り持つことができないのだ。当時の政局が混迷を極めていて多忙だったことも、うまく間を取り持てなかった理由なのではないかと思っている。

また、シシィを愛してしまったトートは、ことあるごとに黄泉の世界へ誘うのだが、トートと一緒に黄泉の世界へ行くことは、「死」を意味するわけで、そう簡単にシシィは応じない。

したがって、トートはフラれまくるのだ。もう本当に、何回もフラれる。最終的に「よかったね。トート閣下」と思ってしまうぐらいフラれる。

人間関係が上手くいかないのは、国が違っても、時代が違っても同じなのだなと思わされる。

魅力その3:終わりゆくハプスブルク帝国との対比

歴史ものとしてみると、600年を超えてヨーロッパで栄華を極めたハプスブルク家の終焉がエリザベートの生涯を通じて見えてくるところも、魅力の一つだと思う。

フランツ・ヨーゼフ1世は見た目も麗しい賢帝だったそうだが、史実では皇太后ゾフィーが取り仕切って自らの夫ではなく、息子を18歳で皇帝に即位させている。これでは、フランツがゾフィーに頭が上がらないのは当然だ。しかも、ゾフィーは性格から見てかなり姑として強烈な人だっただろう。

フランツとゾフィーは、旧態依然としたハプスブルク家を守ろうとするものとして作品中で描かれ、旧体制が崩れ新しい時代を迎えようとしているさまは、自由を愛するエリザベートが皇帝に嫁いだことに、如実に表されているような気がしてならない。

ただ、魅力その5で詳しく書くが東宝版と宝塚版では、歴史ものとしての側面の強さが異なる。宝塚版は、「宝塚で上演する」ということもあって、少女漫画的要素強めの演出になっている。


魅力その4:(宝塚版)2014年花組版とスペシャルバージョン比較

下手すると、ここだけでめちゃくちゃ長くなりそうだが、簡単に比較しておこうと思う。

2021/4/24 2014年花組フルコスチュームバージョン キャスト(敬称略)

エリザベート:花乃まりあ
トート: 明日海りお
フランツ・ヨーゼフ1世:北翔海莉
ルイジ・ルキーニ:望海風斗
ルドルフ: 蒼羽りく/桜舞しおん(少年ルドルフ)
ゾフィー: 純矢ちとせ
2021/5/4 スペシャルバージョン キャスト(敬称略)

エリザベート:夢咲ねね(第一幕)/明日海りお(第二幕)
トート: 望海風斗
フランツ・ヨーゼフ1世:鳳真由
ルイジ・ルキーニ:宇月颯
ルドルフ: 七海ひろき/桜舞しおん(少年ルドルフ)
ゾフィー: 純矢ちとせ

少年ルドルフとゾフィー以外はすべて入れ替わっている。2014年の花組のメンバーは、宝塚ファンでない私は知らなかったものの、調べてみたらすごいメンバーであることがわかってきた。

そしてこの2014年の花組メンバー、演技力やビジュアルも素晴らしい皆様なのだが、歌うまさんが多い。私が心をわしづかみにされたのも、振り返ってみればしょっぱなの法廷の場面での、トートとルキーニの歌に魅了されたからだと思う。

2014年花組バージョンでトートを務めた明日海りおさんは、宝塚退団後は女優としてご活躍中だ。朝ドラ『おちょやん』にも出演している。宝塚時代は長くトップスターとしてご活躍され、トートの他は『ポーの一族』のエドガーなどを演じておられる。

男役としての美しさと演技力・ダンス・歌のうまさの3つがそろった、スター中のスターと呼んで差し支えないだろう。妖しく美しいトート閣下だった(ちょっと美男子過ぎて、黄泉の帝王というより黄泉の貴公子のほうが呼び名としてふさわしいのは、ご愛敬か)。

ルキーニ役の望海風斗さんは、雪組トップスターだったがこの4月に退団したばかり。ルキーニは彼女の当たり役だったそう。それはそうだろうなと思わされるパフォーマンスだった。めちゃくちゃ歌の上手い人だった。

シシィ役の花乃まりあさん、とても可憐でかわいらしかった。ゾフィー役の純矢ちとせさんは、明日海りおさん・望海風斗さんとは宝塚で同期だそうだが、とてもそうは見えない貫禄を醸し出していた。

フランツ・ヨーゼフ役の北翔海莉さん。この人も相当歌がお上手だった。いったい、この時代の宝塚花組はどれだけの豪華メンバーだったのだろうか。当時リアルタイムで観ていなかったことが、悔やまれる。

総じてきらびやかな2014年花組版。対するスペシャルバージョンの目玉はなんといっても、望海風斗さんのトートと明日海りおさんのシシィだろう。

望海風斗さん、花組から雪組に移動してトップスターをやっておられたことの自信が前面に出ていて、トート閣下にふさわしい貫禄を登場からドカンと目の前に出された感じがした。そして、暴力的ともいえる歌の上手さ。彼女の「最後のダンス」は、聞いていると何だかシシィがどんなに嫌がっても、強引に黄泉の国へ連れていかれてしまうんじゃないか?という気がするほどの迫力だった。こういうのをきっと「爆誕」と呼ぶのだろうなと感じた。

CDでもいいから、望海風斗さんがトートの回の円盤を出してもらえないかと切に願う。

そして「みりおシシィ」(「みりお」は明日海りおさんの愛称)である。
宝塚在団時は男役だったみりおさんが、シシィを演じることはあり得なかった。したがって、これはスペシャルバージョンだけでしか見られない特別映像だ。

可憐で凛とした強さを持つシシィがそこにいた。男役時代のキーではありえない高さの音を出す、みりおシシィ。数日前までトート閣下だったとはとても思えなかった。

ラスト。笑顔で望海風斗トートのもとに駆け寄るみりおシシィを抱きとめる、トートの喜びにあふれた表情。シシィが一瞬浮かべた不安げな表情に、「大丈夫だよ。ここでこれから、俺と一緒に暮らそう。黄泉の国はこんなところだよ」と見せてあげるトート。

振り向いてもらえて本当に良かったね、閣下。そう思わず声をかけたくなる。

魅力その5:宝塚版と東宝版の違い

宝塚版が、トートとシシィの愛が成就して黄泉の国で幸せに暮らす、というちょっと少女漫画的な結末なのに対し、東宝版の『エリザベート』はウイーン版に準拠していて、歴史ものとしての側面が強いという。

現時点での知識でもある程度説明は出来るのだが、皇后エリザベートとハプスブルク家の歴史についてはまだ勉強中なので、東宝版の『エリザベート』を鑑賞するまでには一通り予習を終えて、東宝版鑑賞時のレビューで詳しく史実とミュージカルとして描かれた世界との関係について書きたいと思う。チケットが取れると良いのだが。

細かい違いについてもちゃんと理解したうえで、東宝版をきちんと観劇したらまた、この場に綴ることにしたい。

終わりに

『エリザベート』に心を射抜かれてから2週間ぐらい経った。その間、散々Youtubeを検索していろんな人が「闇が広がる」を歌っているのを見た。新妻聖子さんが「私だけに」を歌っているのを見た。井上芳雄さんの配信ライブでは、芳雄トートが「最後のダンス」を歌っていた。はいだしょうこさんと井上芳雄さんのデュエットは「夜のボート」だった(芳雄フランツは初めて見た)。

『エリザベート』というミュージカルは、20年以上にわたってたくさんの人の心を揺さぶり続けているのだなと、実感する。ミュージカルファンにとってポピュラーな曲だからこそ、役者さんがコラボしてテレビで披露する、という流れになるはずだからだ。そして、私もまた心を揺さぶられた者の一人だ。

現時点で、『エリザベート』は私の好きなミュージカル作品第1位に躍り出たと言っていい。『キンキーブーツ』は同率1位だ。

私が観たのは、まだ宝塚版のみ。しかもコンサートバージョンだけだ。ぜひフルで観たい。購入した『エリザベート』の2014年宝塚花組バージョンの円盤が届くのを心待ちにしながら、さてこの順位は『レ・ミゼラブル』を観たらどう変動するだろうとワクワクしている。

追記:東宝さんへお願い

東宝版のトートに望海風斗さんを推したい。いつかやってもらいたい。この目で直接見たい。本当にあのトートがガラ・コンサートのスペシャルバージョンだけなんてもったいなさすぎると思う。

東宝さん、もし声が届くのなら数年後でよいので検討していただけないだろうか。何もこのご時世、トートが男性でなくてもよいのではないだろうか。
声が届くことを信じて、ここに願いを込めておく。

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