佐藤健が魅せる「緋村剣心」の進化 『るろうに剣心 最終章 The Final』
ずいぶん、待たされた。
思わず頭に浮かんだのは、漫画『SLAM DUNK』のメガネくんのセリフ、
「2年間も、待たせやがって」。
実際に私が待ったのは10か月。メガネくんほど待ってはいないがこの日を待ちわびていた。4月23日、『るろうに剣心最終章 The Final』公開。あいにくのコロナ禍が10か月経った今も続いているせいで、映画館がいつ営業を停止すると言いだすか分からないと思った私は、4月24日土曜日、自転車を飛ばして近所の映画館へ駆け込んだ。
その日そのあとに配信で観た、『エリザベート TAKARAZUKA25周年ガラ・コンサート』の2014年花組バージョンに心を奪われてしまって、書く気力が起きなかった。緊急事態宣言のことがなければ、ゆっくり予定を立てて別な日に観に行ったものを。
よりによって、明日海りおさんが演じる、宝塚でも歴代最も美しく妖しいと言われるトートを拝めるのと同じ日に、観に行ってしまうなんて。コロナが恨めしい。ようやく「エリザベート脳」も落ち着いてきて、剣心についての再復習も一通り済んだので、ネタバレしない程度に書いておこうと思う。
るろうに剣心についてちょっとだけ説明
『るろうに剣心』は週刊少年ジャンプで連載されていた漫画だ。幕末の京都で暗躍していた「人斬り抜刀斎」が「緋村剣心」と名乗り、明治の世で仲間や大切な人と出会い、人斬りとして背負った運命に翻弄されながら、強く優しく生きていく物語である。本編は28巻まででいったん終了する。連載開始は1994年。30年近く前の漫画だが、時代物だけに古さは感じさせない。
私が漫画『るろうに剣心』を好きなポイントの一つに、もちろんフィクションなのだけど、ある程度歴史的背景をしっかり押さえてあることがある。いかにもあり得そうなのだ。人斬り抜刀斎が働いていたのが長州藩のためという設定も、明治新政府とのつながりがある、というところを描く上で納得感があって良い。
映画『るろうに剣心』シリーズについて
第1作『るろうに剣心』は、2012年8月に公開され、2014年に第2作『京都大火編』と第3作『伝説の最期編』が続けて公開された。シリーズ全作、大友啓史監督がメガホンを取っている。
今回公開となった、『るろうに剣心最終章 The Final』は、最強の敵・雪代縁との対決を描く物語である。漫画で言えば18巻以降に当たる。
前回の京都大火編・伝説の最期編での敵である志々雄真実(藤原竜也さん)も相当強かったが、雪代縁は個人的に強い恨みを剣心に抱いている分、余計に強く感じる。
なお、この『The Final』は、6月公開の『The Beginning』と対になっている。
映画『るろうに剣心』シリーズの見どころを簡単に紹介
ざっくりと『るろうに剣心』シリーズの魅力を、誰にでもわかる言葉で説明しておく。
【アクション】
ワイヤーアクションを含む、華やかな殺陣が魅力の一つだ。それも、第1作より第2作、第2作より今回・・・と、どんどんハードルが上がっている。
【大がかりなセットと、豪快なぶっこわし】
どれだけお金がかかっているのか分からないけれど、とにかくセットが大掛かりで、戦闘シーンではそれを惜しげもなくぶっ壊す豪快さ。ちょっとハリウッドっぽい、「ドーン、バーン、ゴーン」という感じは、日本映画にはなかなか見られない。
【キャラクター】
巧みな日本の俳優による、巧みなお芝居。日本を代表する俳優ばかりが目白押しだ。第1作なんて、まだあどけない永野芽衣が出ている。主要キャラクターだけでも、佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優。敵役で香川照之に吉川晃司、藤原竜也に神木隆之介、新田真剣祐。名優の大渋滞が起きている。
The Final見どころ:佐藤健さんの「剣心」の進化
【アクション】
佐藤健さんの剣心が披露するアクションが、この映画の大きな見どころの一つとなっている。機会あって第1作を観なおした。また、本作を観に行く前に『京都大火編』を観なおした。
そのうえで言う。
『The Final』の殺陣は、あれはいったい何なのだ?観たこともないほど早く動き、さらに普通の殺陣なら右に一太刀、左に一太刀ぐらいで終わりのところを、パンパンパンパン、と左、右、左、右に太刀を浴びせる。
原作の人斬り抜刀斎、もとい、剣心の特徴は確かに動きが途轍もなく早いということにあるのだけど、普通の人間があんなに早く動けるものだろうか。
いや、普通の人間じゃないのか。普通の人間じゃない人だとお芝居で見せるために、佐藤健さんは普通の人間じゃいられなかったのか。それは俳優さんとして、もの凄いことなんじゃないかと思う。
【声】
第1作でも第2作でも、想像の範囲内で佐藤健さんは声を微妙に変えていた。
だが『The Final』では、声の使い方に著しい進化が見られたように思った。俳優として真摯に表現に向き合いつづけ、俳優として必要なスキルを磨いて、より素晴らしい剣心を見せようとしてくれたのだろう。表現者としてまっとうであろうとするその姿は、尊敬に値する。
佐藤健さんは、その声と佇まいで剣心を作り出している。佇まいを作り出すものは、姿勢や足の運び方と言った、「この人物ならこうするだろう」という動きの再現だ。細かく身体をコントロールする必要がある。誰にでも出来ることではない。
The Final見どころ:最強の敵・雪代縁
義弟で剣心の最大の敵となる雪代縁を演じたのは、新田真剣祐さん。最初の登場シーンから、縁そのものだったのは言うに及ばない。少し剣心より大きな体は、原作のビジュアルに寄せているせいだろう。アクションも、千葉真一氏の息子さんだし、期待値通りというか、そこまで特筆すべきとも感じられなかった。
もっとも、人によっては「ハードル上げすぎ」と言う人もいるかもしれないと思う。確かにアクションは素晴らしいものだった。
だが、大友組に張り切って参加した「千葉真一の息子」である。新田真剣佑さんは、激しいアクションをこなす役が回ってきたら、必ず「千葉真一の息子」という枕詞がつくと分かっていて、この役を受けたに違いない。だから、敬意を込めて、あえて言わない。ただ、「千葉真一の息子」という枕詞に負けぬ働きをしてくださって、ありがとう、とは伝えたい。
私が注目したのは、姉を強く思う弟・縁の表現だ。映画『るろうに剣心』シリーズは、原作へのリスペクトを感じる展開になっているので、おそらく設定はそのまま。だとすると、縁にとって巴はただの姉ではなく、早くに亡くなった母親の代わりなのだ。
新田真剣佑さんは、縁としての佇まいとセリフからそれを感じさせてくれたし、お芝居を受けた佐藤健さんも、縁の姉への思いを感じ取り、きちんとお芝居を返していた。
2人の戦闘シーンは、アクションも見事だったが、戦闘シーンで2人の魅せてくれたお芝居もまた、心に響くものだった。
The Final見どころ:第1作とのリンク
今は緊急事態宣言下だ。映画館に行きたくても行けない人がいる状況で詳しく書くのは、ネタバレが過ぎる。だから、ここでは具体的には書かずにおく。だが、ぜひ第1作を観なおしてから映画館に行くことをお勧めしたい。随所にリンクする場面があるため、観なおしてから映画館へ行ったほうが、映画『るろうに剣心』ファンは胸が熱くなることと思う。
第1作を制作した時点で、最終章まで頭に描いていたのだろうか。だとしたら、本当にすごいと思う。壮大な物語を10年にわたって紡いでくれたことに感謝したい。
戦いの終わり 「さようなら」に込めた剣心の思い
薫とともに、巴の墓参りに行く剣心。
このシーンは漫画にもあって、セリフもほぼ漫画と同じなのだが、剣心が「さようなら」という言葉を口にするまでの間、言葉のトーン、薫への眼差し。どれをとっても、剣心の巴と薫に対する今の気持ちがはっきり伝わってきて、泣きそうになった。
剣心と薫には、心から幸せになって欲しい。
終わりに
2011年の撮影開始から10年にわたって、緋村剣心は佐藤健さんの中にいたのではないだろうか。
もちろん、他のお仕事もされているわけだから、ずっとというわけではないだろうけれど、第1作より第2作、第2作より最終章の剣心がだんだん「緋村剣心」らしくなっていくように感じるのだ。剣心がもともと持っている強さと優しさを、佐藤健さんはずっと表現してくださっているのだけど、回が進むごとに優しさが強くこちらに伝わってくるように思えたのだ。
原作ファンには誤解を招いてしまうかもしれないが、佐藤健さんのお芝居は要所要所で、表現力という意味で原作を超えていたように思っている。
追伸 佐藤健さんへの感謝状
佐藤健さん、剣心を演じてくださって本当にありがとうございました。健さんの剣心は、私の心に伝わってくるものがいっぱいいっぱいあった、という意味で原作を超えています。これからも素敵なお芝居、見せて下さい。
『The Beginning』も楽しみにしています。
って、こんなところに書いても届かないか。
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