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名優3人+1匹の愉快な入れ替わり譚 リモートドラマ「転・コウ・生」

2020年4月、新型コロナウイルスの流行による非常事態宣言。私たちは、近所に買い物へ行くくらいしか、外出が出来なくなった。仕事はリモートワークが中心になった。子どもたちは、ネット配信授業を受けはじめた。これまでの生活が一変してしまったのだ。

だが非常事態宣言が出る前から、エンタメ業界の受けた打撃は、もっともっと大きなものだった。劇場公演は軒並み中止になり、公開を予定されていた映画は公開を見合わせ、春ドラマの撮影は、一旦中断を余儀なくされた。

そんな状況下で、NHKが制作したのが「今だから、新作ドラマ作ってみました」という全3夜にわたって放送された、テレワークドラマだ。第3夜に放送されたのが、脚本・森下佳子さん、出演・柴咲コウ/ムロツヨシ/高橋一生/のえる(猫)の「転・コウ・生」となっている。

現在放送中の日曜劇場の設定を聞いて、この「転・コウ・生」を思い浮かべた方も居ると思う。このnoteでは、「転・コウ・生」を振り返って、日曜劇場「天国と地獄」の高橋一生さんを楽しむ助けになったら、と思っている。

なお、勝手ながら本文中の俳優陣に対する敬称は略させていただく。

1.柴咲コウとムロツヨシの入れ替わりが秀逸

物語は、柴咲コウが「ムロさん、どうしてるかな」とボンヤリ考えていたら、ムロツヨシと入れ替わるところから始まる。

入れ替わった2人は、
「もしかして、俺、コウちゃんと…」
「私、ムロさんと…」

「入れ替わってる⁉️」

と、新海誠監督の映画「君の名は」ばりに声を揃えて叫ぶのだった。

その後、てんやわんやになりながら、ムロが毎日やっているという配信ライブを、ムロツヨシ(中身は柴咲コウ)がやることになる。このシーン、柴咲コウ(中身はムロツヨシ)の演技が秀逸だ。柴咲コウが本当にムロツヨシに見えてくるから、面白い。言葉遣いも、仕草も、すべてがムロっぽい。

柴咲コウ(中身はムロツヨシ)から、ムロツヨシ(中身は柴咲コウ)に『配信ライブの最後にひとつだけ近所迷惑しますって言って、「あーっ」て叫んで終わり』、と言われて、ムロツヨシ(中身は柴咲コウ)が朗々と歌い上げるところが、何度見てもビックリする。「ムロさん、あんな声出せるんだ!」と感心してしまうのだ。

あれはないんじゃない?と言われたムロツヨシ(中身は柴咲コウ)は、「私、歌は祈りだって思ってるから」と返す。見た目ムロツヨシだけど、確かに、柴咲コウが言いそうなことだ。こちらも、相手をよく観察しているなと思ってしまう。大河ドラマの撮影で、長く一緒にいたからこそできることなのかもしれない。

柴咲コウになったムロツヨシは、「とりあえず着替える」。着替えたことがムロツヨシ(中身は柴咲コウ)にバレて怒られる。

「ごめん、もうやんないから。そんな怒んないでよ」
「仕方ないじゃん。だって俺、ずっと好きだったんだから」

「え・・・?」

「コウちゃんのお洋服」

ムロツヨシが好きだったのは、柴咲コウその人ではなく、柴咲コウのオシャレな洋服だったというオチである。その後、否定しながらも胸元を一生懸命のぞき込もうとする柴咲コウ(中身はムロツヨシ)に、クスリとしてしまう。

2.ネコ一生の登場

入れ替わった二人がわちゃわちゃしているところに、突然高橋一生の声がする。これ以前に、自宅でぎっくり腰になって立ち上がれずにいる高橋一生の映像が、ちょく、ちょく挟まっていたのだ(このnoteではここまで触れずにいたけれど)。

「殿、どうもご無沙汰してます」

その声のするほうに、柴咲コウ(中身はムロツヨシ)が目を向けると、そこにいたのは、のえる(柴咲コウの飼い猫)だった。

高橋一生と猫ののえるが、今度は入れ替わってしまったのである。

柴咲コウ(中身はムロツヨシ)から鏡を見せられた、のえる(中身は高橋一生)は落ち着いた声でこういう。

「猫ですね」

・・・冷静だなおい。

高橋一生(中身はのえる)は、自宅で四つん這いになってスマホを手(前足)でトントン突っつていた。鳴き声まで披露する(中身は猫だから当然だが)。

しばらく、猫の演技をする高橋一生の姿が続く。背中を延ばす姿が猫っぽい。良い俳優は猫の演技までできるのかと、感心してしまう。三浦春馬さんが演技の参考に動物園に行く、と言っていたのも結構本気で参考になる動きを探していたのかもしれないな、と思う。

3.入り乱れ、カオスな状態に

単純な2人、1人と1匹の入れ替わりではなく、その後3人と1匹が入り乱れて頻繁に入れ替わりが起き、3人は混乱する。

柴咲コウは、中身がムロになったり、一生になったりするが、どれもはっきり違う。才能ある女優というのはこういうものなのか。声の出し方を少しだけ、一生の時は変えている。ムロの時はしゃべる時のトーンとスピードを意識的に変えている。

高橋一生は、柴咲コウになっている時、無意識になのか両頬を手で覆う仕草を良くする。これは現在放送中の日曜劇場初回でもそうだった。演出なのだろうか?

ムロと入れ替わった時、高橋一生も柴咲コウも、明るくポジティブで、表情がクルクル変わるようになる。「おんな城主 直虎」の現場でのムロは、きっと明るく楽しい人だったのだろうなと思わされる。

終わりに

混乱のまま1日が終わるタイミングで、柴咲コウ(中身は高橋一生)、高橋一生(中身は柴咲コウ)の2人はリモート飲みを始める。酒の肴は自分の作った料理のようだ。ムロツヨシはのえると入れ替わっている。

そもそもこのNHKのリモートドラマは、カメラの設置から何から、出演者本人が行ったものだという話がある。だとすれば、あのシーンで出てくる酒の肴は、柴咲コウ本人が自宅で作ったものということになりそうだが、どうだったのだろう。

柴咲コウも高橋一生も、料理をする人なので酒の肴がいやにきちんとしていても、まあそうだろうなと違和感を抱かないところが、この二人の凄いところかもしれない。逆にこの二人だからこそリモート飲みのシーンを入れたのだろうか。森下佳子さん、教えてほしい。永遠に聞く機会はなさそうだけれど。

リモート飲みのシーンで語られるのは、もしかしたら「元には戻らないかもしれない、という前提で考えたほうが良い」のではないか、という高橋一生の冷静な意見だ。その日その日で、今自分は誰の人生を生きているのか、分からない状態で生きる。その前提で考えて生きていくしかないのでは、と。

当時の社会情勢を考えると、新型コロナウイルスと共生しながら社会のありようを考えていく(WITHコロナといわれ始めた頃)、というようなところとも共通するような二人のお芝居。脚本をお書きになった森下佳子さんにも、そういう意図があったに違いないと思っている。

もしこれが本当に起きていて、日曜劇場「天国と地獄」で高橋一生の中に入っているのが、柴咲コウだったら複雑で面白い。綾瀬はるかの中に入っているのは、高橋一生の演技をする柴咲コウってことになる。現場で綾瀬はるかと高橋一生が打ち合わせる演技プランの内容も、変わってくるのではないか。そんな妄想が止まらなくなる。

やたらと匂いに敏感な「風紀委員」警官の彩子(綾瀬はるか)とサイコパスの日高(高橋一生)。単純な入れ替わりだけでも楽しいが、妄想がスパイスを加えてくれて、観るのが一層楽しくなりそうだ。




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