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映像作品と小説の素敵な「メディアミックス」は続く 『ガリレオ 沈黙のパレード』

映画『沈黙のパレード』が公開中だ。

2022年9月16日に公開された本作は、東野圭吾氏の小説・ガリレオシリーズを原作とする、『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』に続く劇場版第三弾である。福山雅治さん演じる物理学者・湯川学が科学の力で難事件を紐解いていくこのシリーズは、テレビドラマとして放送開始当初から人気を博した。主題歌は福山雅治さんと共演者の柴咲コウさんが組むユニット、KOH+が担当している。

テレビドラマSeason1,2全話に加え、放送されたスペシャルドラマ、映画二作を観ているけれど、ガリレオシリーズについては少々思い入れがある。

東野圭吾氏の小説が、好きなのだ。

作家としてはビッグネームで、コアなファンは大勢いるから私のような人間はファンと呼ぶほどの存在ではないが、出版済のガリレオシリーズはすべて読んだ。『探偵ガリレオ』を最初に読んだ時の興奮は、今も鮮明に覚えている。

『沈黙のパレード』が公開になると聞いたからには、観ないわけにはいかない。原作を再読した後、先だってリリースされたKOH+の新曲「ヒトツボシ」を聴きながら映画館へ向かった。

「にんげん」になる湯川学

映画『沈黙のパレード』の話をする前に、ガリレオシリーズ自体について少し触れておくことにする。

原作シリーズ開始当初の湯川学には、なにかを極めた人のイメージはあったが、「科学にしか興味のないど変人」でしかなかった。『探偵ガリレオ』で描かれた主人公・湯川学は「どうやって犯罪トリックを成立させたか」には興味があっても、「犯人が誰か」や「殺人の動機」には興味を示さなかった。

ところが、である。

テレビドラマで湯川学を演じた福山雅治さんは、湯川学に耳かき一杯ぐらいの「にんげん味」を加えていた。

あからさまな人情派では決してない。動機など関心のないことを友人の刑事・草薙(北村一輝さん)に訊かれれば、「興味が無い」などと率直に口にする。だが福山雅治さんは湯川学に、困っている友人に抱いている感情や、友人の部下である内海薫(柴咲コウさん)への気持ちの変化を、湯川学らしい節度を保ったまま、滲ませていた。

小説の中で描かれる「湯川学」像が変わり始めたことに私が気づいたのは、『容疑者Xの献身』を読んだ時だった。それまでまるでサイボーグのようだった湯川学は、にんげんとして作品の中に存在していた。

今ではガリレオシリーズは、作家と監督と俳優の素敵なマリアージュが作り上げる、極上のコース料理のようにも感じられる。東野圭吾氏は、福山雅治さんのお芝居を受けて、原作の中の湯川学を描く筆致を変える。監督は原作を受けて、「にんげん・湯川学」の映像を撮る。福山雅治さんは、監督の観たい「にんげん・湯川学」を提示する。

こんな幸せなマリアージュがあるだろうか。テレビドラマの原作となる作品を書く作家さんは大勢いるけれど、クリエイター同士がお互いに作用しあって、小説、テレビドラマ、映画がすべて作品としてのパワーを増していくなんて。

東野圭吾氏と西谷弘監督と福山雅治さんが出会って、ともに作品作りをしてくれたことに、感謝したい。

科学と友情が「沈黙」を破る

沈黙により罪を逃れたものが裁かれる時、裁くものもまた沈黙する。
裁くものの沈黙を破ったのは、科学であり、友情だった。

お食事処「なみきや」の看板娘にして歌手修行中だった長女、佐織が3年間行方不明ののち遺体となって発見された事件を軸にストーリーは進む。

犯人として浮上した蓮沼は、23年前にも容疑者となっていた。当時の事件捜査に携わっていた草薙は必死で起訴しようとするが、結局できずに蓮沼は釈放される。蓮沼は身を寄せた元同僚のところで、遺体となって発見される。佐織を取り巻く善良な人々は、事件とどう関わっているのか…ざっとあらすじを述べるなら、こんなところだろう。

蓮沼をきちんと警察官として裁きたいと願う草薙を、友人である湯川学がさりげなくサポートする。湯川と直接やりとりするのは、内海薫。ドラマシリーズ開始当初はほんのり恋を匂わせた湯川と彼女の関係に、今はまったく色香はない。二人の間にあるのはひと同士の「信頼」である。

小説を2回読んで結末を知ってから観ているので、正直に言うと、ストーリー展開はほとんど見ていなかった。小説で内面の描写に多くのページを割かれている登場人物を目で追っていた。まだご覧になっていない方のために、誰を追っていたかについては触れないでおく。監督のちょっとしたアソビゴゴロも、嬉しい。

湯川、草薙、内海の3人のタッグが炙り出す事実、それぞれの胸の中にある真実。エンディングで流れる「ヒトツボシ」にハッとさせられた。曲中の「きみ」は恋人だけではなく、佐織の愛した家族をも指しているように感じられたからだ。

また、劇場で湯川学に会いたくなる。

音楽プロデューサー・福山雅治が冴え渡るユニット  KOH +

ドラマシリーズから主題歌を担当してきたユニット、KOH +は湯川学役の福山雅治さんと内海薫役の柴咲コウさんの2人で構成されている。福山雅治さんが音楽制作とギター、コーラスを担当し、メインヴォーカルを柴咲コウさんが担当している。

KOH+の曲は、聴いていて楽しい。音楽プロデューサー・福山雅治の才能がたっぷり楽しめるからだ。

作品の世界観への理解、歌手・柴咲コウへの信頼、作品における主題歌の位置付けと主題歌に求められているもの。どれが欠けてもいけない、という要素たちを余すところなく詰め込んだ楽曲は、今回も作品のエンドロールと共に聴くのにふさわしい曲だった。

実は、原作を読んでいて気になっていた場面があったのだ。詳細について触れるのは避けるけれども、そのシーンが無いと佐織の決断の背景にあるものが見えないし、かと言って映像化してしまったら妙に説明的になってしまうと思っていた。

まさか、エンディング曲で表現するとは。
事前にダウンロードして聴いていたときには気づかなかった、「きみ」の意味合い。エンディング曲「ヒトツボシ」までも、物語の一部になっていた。
こんなのアリなのか?と思ったが、KOH +だからこそ「アリ」なのだろう。

原作者と監督と俳優だけではなく、音楽プロデューサーまでもが作品を愛し、ひとつのものを作り上げていく。もちろん、俳優でも音楽プロデューサーでもある福山雅治さんでなければ、出来ないことだろう。
ひょっとして私たちは、すごい作品の目撃者なのかもしれない。

終わりに

映画『沈黙のパレード』は、公開3週間ほどで観客動員数150万人を超え、興行収入は20億円を突破したそうだ。先ほど改めて確認したところ、2022年10月15日現在、公開5週にして2022年の日本映画興行収入ランキングの15位に位置している。

大ヒットと言えるのか言えないのか、業界に詳しくないので分からない。けれども、映画館に足を運ぶ人が増えれば、それだけ長く映画館で上演してもらえるし、次の作品も制作してもらえる可能性が高まるのではないか。

才能あるクリエイターが集まって、佳い循環が生まれ続けているこのスパイラルが、どこまで昇っていくのか。ずっとずっと見守っていたい。ぜひ、次も、その次も、ガリレオシリーズの劇場版を公開していただきたいと願う。


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