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光源氏の住処

彫刻制作のための汚れ作業のできる小さなスペースを借りていたのだが、やむなく手放さなければならなくなり、決して広くはない自宅アパートのリビングルームの一角を作業スペースとして使うことにした。

片付けをし始めると、デッサンを勉強し始めた頃に描いた鉛筆画や、A+の採点をもらったパース画など懐かしい作品たちが出てきた。そして、今日出てきた作品は、建築の勉強をしていた頃に、一度だけ応募した設計デザインのコンペティションに提出した図面とコンセプトシートだった。

コンペティションのテーマは、「光源氏の住処」。
源氏物語の主人公である光源氏が須磨に流れ落ちた件を選び、そこでの隠宅を設計デザインしたもの。


光源氏の住処 ー 胎児の宿る母体 

記憶を辿る。かすかに感じる安堵感。「守られている」ー 母体に宿る胎児のように。


光源氏26歳、官位そして頼みとする拠り所の全てを失い、京を後に自ら流れ落ちた須磨が舞台。

光源氏のマザコン性は、単純に、女性遍歴においてのみ解釈されるべきものではない。また、そのマザコン性は、理想の女性、母の面影の実像を追い求めているものでもなく、「守られている」という安堵感を無意識のうちに追い求めているところにある。

その安堵感は、胎児が母体の中で体感し、得た記憶であり、全てを失った光源氏にとって須磨における隠宅は母体として、今一番必要であろうその「安堵感」という記憶を呼び起こさせてくれる。

設計の特徴として、円の中心を京の方角にとった緩やかな円弧と、内部空間を仕切る曖昧な仕切り(高さ2500mmのL字型の壁と格子状の可動式壁)との組み合わせよって空間構成にやわらかな層を作り出す。
一日、そして四季を通じて変化する周辺環境の色調を反映、空間内部に取り込むことによって大地との一体化を生み出す。 


視覚的表現能力のお粗末さには笑えたが、コンセプトを読むと、こんな風に解釈したのかと、当時の自分に我ながら驚いた。それにしても、物事を創造する過程って、実に面白いものだ。




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