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ルバーブトライアングル・イタドリトライアル【イタドリ考日記・春】

3月21日 日曜日 4℃ 曇りのちやや晴れ

刻一刻と変化する天気の一番良い頃合いをみはからって、三時過ぎにサンドヘッド海岸へイタドリの群生の様子を見に行くことにしました。
前回訪れたのは一月の終わり。冬の真っただ中のこの群生地では、イタドリは茶色に立ち枯れ、枝分かれしてた茎を冬の曇天に向け、しっかりと立ったままぎっしりと密集していました。

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今日訪れてみると、前回と少し様子が変わっているよう。
空に向かって立っていたはずのイタドリの立ち枯れは、広範囲に及んで折れたり倒れたりしています。

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どうやら冬の間の嵐で大波が押し寄せてきて、なぎ倒されたようです。
海に面した崖に生えている、シカモアの枝にひっかかった海藻から察すると、大波は相当な高さに及んで、崖の斜面に覆いかぶさったよう。
イタドリのコロニーも波に覆われ倒されたのでしょう。

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この群生の海に面した最前列の足元ををみると、新芽が石の間から頭を出しています。

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イタドリの新芽は、こんなに鮮やかな赤なんだなと、新鮮な驚きを覚えます。なんだかルバーブを彷彿とさせます。

以前、一年間園芸研修していたナショナルトラストのヘリテージガーデンで、テラコッタポットを使ってルバーブの軟化栽培をしたことを思い出しました。イタドリを軟化栽培してみたらどうなるだろうか。

イタドリもルバーブもタデ科に属する多年草で、どちらもアジア原産の植物です。
ルバーブはタデ科のダイオウ(大黄)から改良された種で、今でこそスープ、魚や肉のソース、焼き菓子やジャムに使われますが、もともとダイオウは薬草として13世紀にヨーロッパに持ち帰られ育てられるようになった植物です。
中国ではダイオウ属植物の3種の根茎を使った漢薬「大黄」が紀元前から、胃健、解毒、緩下、血の巡りを良くする薬として使われていました。この大黄は貴重な薬として中世のイギリスでは中国からシルクロードや他のルートを渡って輸入され、16-17世紀にはシナモンやオピウムよりも高価なものとして取引されていたそうです。
イタドリの根茎もまた虎杖根という民間薬として古くから通経、緩下、利尿剤として使われています。

私たちがヘリテージガーデンでルバーブの軟化栽培を行ったのは2月半ばでした。このような専用のポットというものがあり、それを株にかぶせるという手法でした。

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軟化栽培のルバーブは、ポットの断熱作用によって、通常の育成環境より早い時期に、そして太陽光を遮断することによって、柔らかく、淡いピンクの柔らかくて、えぐみのない茎が生えます。
他の収穫物があまりない冬から早春にかけてのイギリスにおいて、軟化栽培ルバーブは貴重な作物になるというわけです。

ルバーブトライアングルという存在をしったのも、ヘリテージガーデンでの研修期間中のこと。同期の研修生のエミリーに教えてもらい、それはヨークシャーあたりにあるのだということを知りました。その時はなんだかちょっとミステリアスなトライアングルゾーンを想像しました。

ルバーブトライアングルとは軟化栽培ルバーブの生産が行われている地域で、北イングランドの西ヨークシャーにあるウェイクフィ-ルド、モーリー、ロスウェルにまたがる4平方マイルに及ぶエリアです。
この地域の寒冷な気候とふんだんな降水量がルバーブの育成にとても有利であること、地元の羊毛業から出た廃毛をチッソを豊富に含んだマルチとしてルバーブ栽培に活用できたことなどが、他の土地の追随を許さず、ルバーブ生産の中心地になった要因です。

ルバーブトライアングルの農家の軟化栽培はポットではなく、専用の小屋で行います。
外で最低2年間栽培された株を温室小屋の中に植え付け、太陽光を遮断した真っ暗がりのなかで育てます。もともとルバーブは寒い地方の植物なので、休眠を破る前にいちど霜にさらす必要があります。
最低2年たった株を使うのは、軟化栽培は植物にとってエネルギーを要し、幼すぎる株だと十分な体力が携わていないためです。
収穫は手作業で、光合成によって葉が緑になることを防ぐため、灯したロウソクの明かりをたよりに行われます。軟化栽培のルバーブはピンクの茎と黄色い葉であることが重要なのです。

ろうそくの火の灯された、暗がりでルバーブを収穫する作業に、儀式のような神聖さと脈々と続く歴史の尊さと儚さを感じます。

1870年代、軟化栽培されたヨークシャールバーブはグースベリーにかわるパイの材料などとして人気を博し、電車でロンドンのコベントガーデンやスピタルフィールドマーケットなどに運ばれていきました。クリスマス前からイースターまでの収穫期間中はアーズリー駅から平日の毎夜、ルバーブ専用夜行列車がロンドンに向け出発していたそうです。
かつてのトライアングルは今よりもっと大きく、1900年代にはその範囲はウェイクフィールド、 リーズ、 ブラッドフォードに及び、世界の90パーセントの生産を担っており、世界に誇るルバーブ生産中心地として確固とした地位を確立していました。
けれども第二次世界大戦後、ルバーブの需要は下降し、現在では10件程度の農家のみになってしまったそうです。

喜ばしいことに、数年ほど前よりルバーブのリバイバルがやってきています、軟化栽培されたルバーブはデリカシーとしてレストランのシェフにも重宝され一目置かれる食材です。
そしてヨークシャーの軟化栽培ルバーブ ‘Yorkshire forced rhubarb’はシェットランドウール、シャンパン、パルマハム同様、PDO(Protected Designation of Origin: 原産地呼称保護)として、その産地内で特定の手法でつくられたものしか名乗ることのできない特産物としてのステータスを得、保護されるようになりました。

食材としてのイタドリはよくルバーブに似ているとたとえられます。
けれども、イタドリの茎を食材として使う場合一般的な下処理として、皮をむいをしてから、さらにシュウ酸を抜く必要があります。

イタドリの促成栽培の仮説を立ててみます。

• ポットをかぶせ太陽光を遮断することでピンク色の新芽が収穫できる。
•  柔らかく、えぐみの少なく、皮むきとあく抜きが不要である。

ちょっと時期は遅いけれどトライアルしてみることにします。ピンク色のやわらかい芽が収穫できることを祈って。

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