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フラットな感覚


前回の記事のピートの湿地を歩き終わって、New Luce村の入口に戻った時のこと。

老齢のご夫婦らしき二人の乗った車が向こうからゆっくりと近づいてきました。車を運転する男性が手を振りながら私の横で車を止めました。

「地元の人?」

不意に聞かれたその瞬間頭に浮かんだのは、前回のロックダウンの時に、このあたりの村々では、レジャー目的などの外からの訪問者お断りのバナーが入り口に張られていたこと。
最近また新型コロナの感染者数が増え続けていて、規制もまたいろいろ厳しくなってきたので、「外からの人はご遠慮願います。」というようなことを言われるのかと思い、反射的にちょっと身構えてしまいました。

「○○の行き方分かりますか?」

普通に道を尋ねられたので、ちょっと拍子抜けしながら、

「あ、地元の人じゃないんです。ごめんなさいちょっとわかりません。」

と返事をすると、

「ああ、それじゃ、あそこで犬の散歩してるひとに聞いてみるね、サンキュー、マイディア! 」

とにこやかな笑顔で去っていきました。

ロンドンではあるまいし、田舎のこんなに小さな村で明らかにアジア人の歩行者を見て、「地元の人?」と自然に先入観なく道を聞くことにおどろきました。そして同時に、この紳士のフラットな感覚をとても素敵だなと感じました。

新型コロナが世界中に広がりつつある頃に頻繁にSNSなどで目にしたアジア人に対しての差別の話は、実際そういった経験をしていなくても、私もやはり心のどこかで気になっていました。買い物は仕事帰りに、職場の植物園のロゴの入ったユニフォームを着たままするようにしたりなど、なんとなく自分をプロテクトしてみたり。

この小さな会話は、そんな具合にそれ以降ずっと、潜在的にちょっと神経質に、ちょっと臆病になっていた自分の気持ちに気づき、「無駄に構えるのはやめよう。」と私の気持ちをほぐしてくれました。
あの老紳士の先入観のない振る舞いは、構えることの意味のなさ、構える気持ちと先入観をもつ気持ちは紙一重なんじゃないかという思いに至らせてくれました。

前日の雨で一段と湿地化していた、誰もいない褐色のNo man’s landから村に戻って、最初に交わしたあの紳士との会話がとても印象的だった今回のウォーキング。
あいかわらず新型コロナは猛威を奮っていますが、ちょっと温かな気持ちで日常のルーティンに戻りました。





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