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第九幕:試練の秋2 ミュージカル研究会の頃-汗と涙の青春ストーリー-

僕は不平をいうよりも、春公演で熱心に取り組まなかったことの反省を口にして、美也子さんはそれを静かに聞いていた。
僕は美也子さんとほとんど話したことがなかったのだが、彼女は思慮深く、芯が強い印象を受けた。加えてもともとは物静かなのだ。我と主張が強い中人たちの中でこういう物静かなタイプの人は、珍しかった。

しかし、個性と癖があふれる40人の演出は相当大変なようで、やつれていたし、疲れや暗さを感じさせる表情になっていた。脚本を選ばれた時や、合宿でみんなの中心となり「Rentをみんなで歌おう!」と自信に満ち溢れ、明るく振舞っていた頃のはつらつさは、失われていたのだ。

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美也子さんは動物では象が好きで、作家では宮澤賢治のことをとても好きな人だった。
彼女の書いた本公演のこの作品は、その宮澤賢治のメンタリティーも強く反映されていた。菜食主義だった宮沢賢治の食物連鎖のことや、仏教の輪廻の概念なども登場する。

そんな美也子さんは極端にいえば1対40になるわけだから、本当に大変だったと思う。これは脚本・演出家をやらないとわからないことなのだが、孤独と向き合わねばならないのだ。というのも、脚本家は1人だけ、キャストを自由に選び、公演までの時間を費やしてもらい、自分の世界観を舞台で表現できるという権利を手にする。しかし、完全に脚本を理解しているのは自分だけだ。
もちろん、メインキャストを中心に彼女を支えていたメンバーもいないわけではなかった。新人で作曲家の冴子は、一番の彼女の理解者で、作品の中心になる素晴らしい曲をいくつか書いて、作品に欠かすことのできない曲を生み出していた。

一方で主要なキャストになれず、でも実力がある……なんていう中人はとてもつらかったと思う。この舞台を終えたら引退…という人もいたから、なおさらだった。
それが、不満や怒りとなって美也子さんに向かうのだが、メンタル的にとても大変だったと思う。

僕が面接した時、それは夜8時くらいで、練習の合間だったが、暗がりにいる美也子さんは悲しげで、心で泣いているような印象だった。
美也子さんは僕の意見にも、静かに耳を傾けてくれていた。

つづく…(続きを見たい方は、ハルカナル屋根裏部屋へ!)

第一幕:未知なる舞台へ!
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/第一幕:未知なる舞台へ!

第二幕:衝撃! 初役はみんなが大嫌いなあれ!?
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act2

第三幕:最初の公演
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act3

第四幕:夏の発表会
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act4

第五幕:脚本会議、夏の陣
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act5

第六幕:夏休みも大変!? 音響スタッフで出陣!
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act6

第七幕:夏合宿
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act7

第八幕:猫たちが大騒ぎ!?
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act8

第九幕:試練の秋
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act9

第十幕:冬の本公演
https://rekishi-tanbo.com/musical-story/act10

登場人物

-新人-
僕:元帰宅部。歌、ダンス、芝居、3拍子そろわない珍しい新人。しかも、入部したのが2年生の時だったため、振り返るとかなり浮いた存在だった。
岩尾…親友。2浪しているフリーターながら、ミュージカル研究会に入る。
鉄郎:某都内に通う高校時代、伝説となった男。野性的で、繊細で、躍動的で、とても頭がよく、次元の違う存在感を放っていた。どこを行くのも裸足で歩いていた。
冴子(NEW)…高校時代は声楽をやっており、作曲ができた。才能にあふれており、同期で最初に頭角を現した存在だった。彼女の作る曲は作品にしっかり寄り添いながらも、さらに作品を高めるような、素晴らしい曲が多かった。のちにNHKのみんなの歌に曲を提供した。
優有:歌と芝居が大好きで他の女子大学からミュー研に通っている。穏やかで性格が良く、みんなから好かれており、脚本家の坂上さん、美也子さんらに気に入られ、たびたび彼らの作品に主役で出演することになる。
芽衣…大阪出身でのりやよく、ダンスが好きだった。若くして亡くなってしまい、この作品を書くきっかけになった存在の1人。

-中人(2年目)-
美也子さん:容姿は少しボーイッシュで、性格は物静かで控えめ。宮沢賢治を愛しており、彼女が生み出す脚本は、独特で素晴らしい世界観だった。
江夏さん:新人の時はぺけをつけられていた僕や岩尾とかなり距離があり、あまり話す機会はなかった。坂上さんとおなじ愛知出身で、師匠と弟子のような間柄だった。普段はちゃらんぽらん、三枚目だが、ミュー研への思い入れが人一倍強く、男子では歌、ダンス、芝居が一番うまかった。とても個性があり、 後に百萬男 – フジテレビに出演した。
時子さん: 歌・ダンス・芝居、すべてのレベルがトップクラスの先輩だが、怒ると鬼より怖く、男子全員に恐れられていた。
松田さん:初対面の時に「俺、次の舞台で主役とっちゃうよ!」と言ってのけた自信家。実際は繊細で神経質な一面もある。一方でできの悪い後輩を気にかけ、面倒見の良い一面もあった。
夕実さん:松田さんの彼女。小柄でかわいらしく、親切な先輩。

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