ぼくのスプーンと、はじめてのともだち
これは、長男がスプーンの練習を始めたころの話です。
1歳ごろの幼児の、白玉団子のような手を思い出しながら、絵本風に書いてみます。
◇
はるくんは、もうすぐ1歳になる男の子です。
ごはんを食べるのがだいすき。元気いっぱいに、手づかみでパクパク食べます。小さなおにぎり、野菜のおやき、にんじんのスティック。
スープや納豆は、おかあさんに食べさせてもらいます。手でにぎって食べにくい食べ物だからです。
でも、はるくんは何でも自分で食べたいので、おかあさんのスプーンを運ぶのがゆっくりだと、怒ったり泣いたりします。困ったおかあさんも、泣きそうな顔になります。
ある日、おかあさんは、はるくんにスプーンを買ってくれました。スプーンの端に、ミッキーの手の形がついた、赤くてかわいいスプーンです。
はるくんは、初めての自分のスプーンに大喜び!
「たべたい!たべたい!」
早くスプーンを使ってみたくて、仕方ありません。
まだご飯の用意をしていなかったので、おかあさんは冷蔵庫から、プリンを出してくれました。はるくんの大好きなおやつです。
「はい、どうぞ。じぶんでスプーンでたべてね」
はるくんは、自分のスプーンで、プリンをすくってみました。
…ところが。
あれ?あれれ?
つるん、とスプーンの上からすべり落ちて、テーブルの上にぽとん。もう一度すくってみても、床の上に、つるりん。
何度やっても、お口にたどりつけません。
「うわーーーん!」
はるくんは、とうとう泣き出してしまいました。
大好きなプリンが、じぶんで食べられないのですもの。くやしくて、かなしくて、涙が止まりません。涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになります。
おかあさんは、困ってしまってオロオロ。
あわてて冷蔵庫の中をさがします。
「もう泣かないで。さあ、これならどうかしら?」
おかあさんが、差し出してくれたのはヨーグルト。
小さなカップに入っていて、なんだかプリンに似ています。
はるくんは、すこし泣き止んで、スプーンをカップにつっこみました。すると、ヨーグルトはスプーンにくっついてくれました。ちょっと、こぼれてしまっても、プリンみたいに全て落ちてしまいません。
スプーンはお口まで、無事にたどりつくことができました。
おいしい味が口にひろがって、はるくんは、にっこり。
むちゅうになって、なんども、なんども、ヨーグルトをすくいました。最後に、カップの底に残ったヨーグルトは、おかあさんにお願いします。
「あつまれしてー!」
カップにこびりついたヨーグルトを、おかあさんが上手にスプーンに集めてくれました。きれいに最後まで、ヨーグルトを食べきることができました。
◇
それからはるくんは、色んな物を自分で食べるようになりました。
カレー、シチュー、麻婆豆腐。もちろんプリンだって、上手に食べられるようになったんですよ。
でも、いちばん最初のスプーンのおともだちは、ヨーグルトさん。
いまでも大好きな、おともだちです。
この記事が受賞したコンテスト
手帳と刺繍の楽しみ方について、あれこれ考えてます。楽しい時間をみなさんとシェアできる何かを、作っていきたいです!