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「脇道にそれたい」時のための5冊


#買ってよかったもの

私は2019年も懲りずに本を買いまくりました。そのうち部屋が本で埋まります。
今年読んだ本の中で、固まった見方を少しずらしてくれた5冊です。

1.『脇道にそれる <正しさ>を手放すということ』(著:尹雄大 春秋社)

 私は読書をするとき、好きな文や表現を見つけたらノートにメモをしているのですが、そのノートはほとんどこの本からのメモで埋まっています。「著者紹介」によると「政財界人やアスリート、アーティストなど約1000人に取材し、そうした経験と様々な武術を稽古した体験をもとに身体論を展開している」そう。『脇道にそれる』では木彫り職人や二重被爆者、「べてるの家」、ゲストハウスへの取材を通し、「『正しさ』を手放すこと」を突き詰めています。
 著者の紡ぎ出す言葉には、普段蓋をしているものに触れてくるすごみがあります。でも決して威圧的ではありません。かと言ってへり下っているわけでもありません。「正しさ」が欲しいあまり固まって、前しか向けなくなっている人がいるとしたら、その人の頭をそっと横に向けてくれるような言葉です。読書をしているのに、無性に身体を動かしたくなりました。
「脇道にそれる」。「生きにくい」日本でも、脇道から考える手がかりはたくさんあるのだ、ということを知りました(そういえば、これは『クィア・アイ』日本編の2話目を観たときも思いました)。

私は特に木彫り職人の話「真っすぐに曲がった茶杓」と「浦河べてるの家」への取材「問題を解決することから降りる」が好きです。


2. 『男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(著:レイチェル・ギーザ 訳:富田直子 DU BOOKS)

「私たちは男の子のことを恐れるか、心配するかのどちらかなのだ」。

 ジェンダー平等が進む一方でバックラッシュの激しい、まさに変わり目ともいえる今、男の子はどんな影響をうけて育っているのか?という疑問から始まった本書。著者はカナダでジャーナリストとして活動しており、男の子を養子として育てています。
 ギーザはカナダとアメリカの例を中心に取材と調査を重ね、ポップカルチャーや性教育から「マスキュリ二ティ」について考察していきます。赤ちゃんの「ジェンダーお披露目パーティー」に始まり、私たちがいかに「ジェンダー化」されていくか、そして「男らしさ」に高い価値が置かれているかが分かり、絶望したくもなる(日本で言われているほどアメリカの性教育/ジェンダー教育も進んでいるわけではなく、かなり地域差があると思いました)。けれど、それに対抗するべく動いている人がいるのも事実。『脇道にそれる』が「正しさ」からそれるための本なら、本書は画一的な「男らしさ」からそれるための本です。

「人によっては、そういった男らしい男であることが、とても価値のあることなんです。ただ、男の子たちに知っておいてほしいのは、全員が常にそのカテゴリーに入っていることはありえないし、まったく入らない人もいるんだ、ということです」(本文より p.319) 著者が取材したとき、ある男性が言った言葉が印象に残っています。この考えに救われる男の子は多いのではないでしょうか。

より知りたい人には、同じテーマを扱ったドキュメンタリー映画『男らしさという名の仮面』(The Mask You Live in 監督:ジェニファー・シーベル)もおすすめです。


3.『ヒロインズ』(著:ケイト・ザンブレノ 訳:西山敦子 C.I.P. Books)

「彼女は自分の正気を証明するために、煤や血液を使って、あらゆるものの表面に書いた」。


『ワルツは私と』を書いたゼルダ・フィッツジェラルドは、夫のスコット・フィッツジェラルドに精神病院に入れられた。ルチア・ジョイスは「私だって芸術家なの」と叫んだ。やっぱり精神病と診断されていた。

「文学」。評価されてきたのは誰か?評価を決めてきたのは誰か?
文学のなかのジェンダー差に対するふつふとした怒りと女性たちへの共鳴を持って書かれた本書『ヒロインズ』は、著者のブログ『フランシス・ファーマーは私の姉妹』が基になっています。大学院を卒業後も思うような仕事を得られず、葛藤する中で始めたブログ。ネットの交流を通し、著者は同じような葛藤を秘めた女性たちと繋がり始めます。ゼルダ・フィッツジェラルドやシルヴィア・プラスといった作家に関し膨大な資料を持って書かれる批評・ジェンダー論でありながら、著者自身のエッセイでもある、他に類を見ない本。言葉選びの感覚が抜群にかっこいいのに加え、訳はミシェル・ティー『ヴァレンシア・ストリート』の最高にパンクな日本語訳を手掛けた西山敦子さん。こんなにかっこいい日本語訳を知りません。先に紹介した2冊と比べると圧倒的に分厚いですが、二人の言葉にかかったら読むのをやめられません。


4. 『マリー・アントワネットの日記』(著:吉川トリコ  新潮社)

 「貴族だろうと平民だろうと女に生まれた時点で大差なんてない。だとしたら、いまあたしたちを隔てているものはなんなんだろう?『女の敵は女』なんていったいいつ誰が決めたの?」


言わずとしれたマリー・アントワネット。の日記、という形をとった小説です。しかもバリバリの現代語・スラングのオンパレード!これが痛快!マリー・アントワネットの率直で言い得て妙な言葉は世の中の「不条理さ」をガンガン指摘していきます。それが、21世紀の日本とリンクするのです。今の日本は、18世紀のフランスとある意味ではたいして変わらないのかもしれない。妙な慣習や、女性同士を「敵」にしたがる社会とか。この本は今の理不尽さを生きる女性へのエールでもあります。こんなにマリー・アントワネットに魅了され、彼女の言葉に頷く日が来るとは……。


5.『女と仕事』(仕事文脈編集部 タバブックス)

 「ふつうに仕事をしていくのが難しすぎる。小さいけど深くてモヤモヤする、女と仕事の話いろいろ」。

22人の女性が書いた「仕事」。工夫しながら、戦略を立てながら。よくイメージされるような「仕事論」ではなく、自分の選択や考えを「もやもや」も含めて書かれているところがとても好きです。こんな方法もあるんだ、という変化球は、就活情報サイトにはきっと載っていないでしょう。
この本をお守りとして持ち歩いています。将来が不安で眠れない時、この本を開いてて好きなページを読むと、決めつけなくて大丈夫、と思えるのです。こんなに面白い生き方があるのか、というものを見つけると楽しくなります(金子一代さんの「転身、転職、引っ越しの末、開き直りの起業という名のフリーランス」が特に好き)。


こうした、自分の立っている場所をくるっとひっくり返されるような本が好きです。




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