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本棚から適当に三冊選ぶ。

本って面白いですよね!小説であれば登場人物の人生、評論・エッセイであれば筆者の価値観考え方、実用書・専門書であれば体系化された知識ややり方。他人が一生懸命うまくまとめてくれたものをコーヒーを飲みながらでも追体験できるなんて、人間は便利な発明をしたものである。最近はスマートフォンやpcで膨大なネット上の情報をいつでもどこでも閲覧できるが、私は本にしかない価値がありそれはこれからも変わらないと信じる者の1人である。例えば、「晴耕雨読」の言葉にあるように本は読みたいときに読めばいい。ひっきりなしに通知が来たり、広告に追跡されたりするような媒体ではなかなかこうはいかない。あと、本は取っておきやすい。読み込み期限切れなんてものもないし、OSが変わるなんてこともない。最後に、本には充電がいらない。当たり前のように思われるかもしれないが、このご時世大事な事のような気がする。ブックオフで買った¥108円(税込)の文庫本も、このような視点で眺めてみるとなんだか不思議な感動があるではないか。ホッコリ。そこで私はおもむろに本棚の前で「ど・れ・に・し・よ・う・か・な…」とつぶやきながら、今回紹介する3冊を手に取ったのである…。

1.「それから」夏目漱石

言わずと知れた漱石の「三四郎」「門」を繋ぐ三部作の二作目である。主人公は、定職につかず悠々自適の生活を送る「代助」。代助の元に届いた、旧友の「平岡」からの手紙から物語は始まる。代助には平岡の妻「三千代」をかつて愛しながらも彼に譲った過去があった。再会を経て、2人は結末が幸せとは程遠いと知りながらも運命に向かっていかなければならない恋愛に直面する…。三四郎は素朴な学生の淡い恋を描いた作品だったが一変して不倫の話である、「それから」とはそういうコトか〜と読みつつ感じた。自分で状況を切り開いていかなければいけないときというのは往往にしてあるが、本能に突き動かされる様を作中を通して緻密に描き出していると思う。代助が知識人であったというところにも、大胆な行動に有無を言わさぬ恋愛の熾烈な本質をみることができる気がする。終わりかたもお気に入り…。

2.「鉄コン筋クリート(3巻)」松本大洋

善/悪、進歩/ノスタルジー、つながり/孤独。「シロ」と「クロ」を取り巻く街や人間の変化と彼ら自身の変化を通し、それらを多層的に描いた松本大洋の名作。全3巻のうちの3巻、シロを奪われたクロの変化と物語の結末の巻である。起承転結のうちで言えば結であるが、内容としてはかなり示唆に富んでいる。松本大洋の線はいつ見てもクリティカル…、デフォルメでありデフォルメでない…作風に引き込まれてしまう。言葉の置き方も絶妙で、1コマに登場人物それぞれの人間性が滲み出ているようである。哀愁漂う街がどうなってしまうのか、シロとクロの運命は…。何度でも読み返したい一冊。

3.「五分後の世界」村上龍

日本が原爆投下後もなおアメリカをはじめとする連合国との大戦を続けている並行世界での活劇である。いやにシーンの描写が細かく、人によっては少々グロテスクに感じる人もいるかも。五感に訴えてくる文章である。主人公は現実世界からいきなり戦いの世界に投げ込まれるが、それを追体験している感覚。また「連合国の価値観の奴隷にならずに日本人としての誇りを世界に示す」ことを並行世界の住人は矜持としているが、ここにも作者の現代日本への痛烈なメッセージが現れている。村上龍の作品においてディストピア的世界はしばしば描かれるが、並行世界の住人の視点では我々の世界の方がディストピアであるのかも…と思ったり。おすすめ!

本棚から3冊適当に選んでみました。こうして文章にしてみることで、久しぶりに手に取った本の内容を思い出したり物語を客観的に眺めることができたりすると感じた。常に新書を入荷していきたいものだ。みんなのおすすめ本も教えて欲しいな〜。

2019/6/9 春

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