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土曜の夜のためにやり過ごす1週間があってもいいかな


間接照明を買った。
オレンジ色で、床に置いて膝下くらいまである少し大きめサイズ。前から欲しいと思いつつ動いていなかったのだけど、先週の土曜日に半ば衝動的にポチッと購入ボタンを押した。

noteを始めて1年と10ヶ月。ようやく気付いたのは「帰省の前後で書くペースが狂う」ということだ。帰省中は予定があるから仕方ないとして、それだけでなく、戻ってきて以降も何となくペースが掴めなくなる。書きたいことはたくさんある。書きたくないわけではない。それでもなぜか、エディタを開かずぼーっとしてしまう。帰省後は少し調子も崩れるみたいで、体調が万全じゃなくなることも多い。

こうして書くと帰省が苦痛のように見えてしまうな。そんなわけではないのだよ。友達と会える年に数回の機会だし、妹たちのマシンガントークを浴びながら買い物する時間も悪くない。なんだろう、こちらで一人で過ごす時間より良くも悪くも刺激が多い分、疲れてしまうのだと思う。
そんなわけで最近うまく眠れない。また明日がキツくなる……と思いながら布団の上でぐるぐる姿勢を変えハァ〜っとため息をつく夜を、もう何度も過ごしている。


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土曜の夜が好き。特にこの季節の、窓を開けた状態が最も心地よい温度になる、涼しい静かな夜が好きだ。いつ寝てもいい。何をしてもいい。また明日がキツく……ならない。だっていつまで寝てたっていいのだから。そのゆるやかさが好き。

先週の土曜の夜、伊藤沙莉さん主演の『ももさんと7人のパパゲーノ』を観た。Twitterでドラマを知って、何となく、本当に何となく観てみた。私は普段あまりテレビを観ないけれど、それでも伊藤沙莉さんが出ているドラマには信頼感がある。ハズレ率低そうじゃん。

ももさんには、これまで誰にも言わなかった言葉がある。「死にたい」。ある夏、ひょんなことから旅に出たももさん。それぞれに生きづらさと折り合う7人と出会いー。「死にたい」 自分を肯定していく、1週間の物語。


私はあまり「死にたい」感情に馴染みがない。馴染みというと変かな。その感情に辿りついた経験が、軽いものも含めてほとんどない。結構なところまで情緒が沈み込むことはあるけど。「死にたいなんて思っちゃいけない」という感覚がどこかにあるのかもしれない。……いや、たぶんそこそこポジティブで能天気なだけだな。

ももと出会う人々を見て、こういう考え方があるのか、そういう人がいるんだなぁと新しい感情に出会いながら、所々で共感していた。特に、「好きな人とどうにかなりたいとは思っていない。あの人がいるから、ちょっとおしゃれしようかな、とか、それくらい。それくらいが私には楽しい」と言った高校生の女の子に、思わず「わっかる……!!!」と声が出た。それなんよね。

一番印象に残っているのが、終盤、ももが一緒に旅をしていた雄太と同じテントで寝る場面だ。雄太が最近別れた恋人の話をしていた。自分の性別がわからない雄太。時間や気分によって、男だったり女だったりするらしい。話を終えた雄太がももに話題を振った。「ももは? そもそも恋愛する人?」と。


さめざめと泣く、という表現がある。そのときの私はまさに、さめざめと泣いた。泣きそう、とも思わず、大きく感情が昂ったわけでもなく、気付いたら涙が流れていた。泣きながら、は? なんで? と思った。理由もわからなければ、何かを自覚したわけでもない。乾いたところに水分を届けるかのように、ただただ涙が目から胸まで落ちていった。

ただひとつわかったのは、疲れていたんだなぁ、ということだ。
帰省したら友達に彼氏ができていた。ずっとオタクして生きていきたいよね、と笑っていた親友が、不毛だからオタクを辞めたいと言った。2年前に初めて彼氏ができた友人は、その彼と別れて以降、アプリで多くの人と遊んでいた(一応書くけど、アプリ経由で遊ぶのが悪だとは思っていない)。はるも一回アプリやってみなよ、と言われた。

遠い存在の誰かを好きでいる楽しさを知っているはずの親友が言い放った“不毛”に静かにショックを受けながらも、「たしかに、やばいよなぁ」と思った私がいた。結婚したいとも今すぐ恋人が欲しいとも思っていないのに、なぜだか焦りに支配される。アプリを入れるためにもう一押ししてほしいと思った。友達に言われたからさ〜って、仕方なく入れた装いをできるから。そうして思惑通りになり、仕方ない顔をしてアプリを入れた。自分のプロフィールを整えたり、次々と現れる男性陣のプロフィールを読んでスワイプしたり、いくつかお気に入りに保存したりした。

でも、2日後にはアンインストールした。疲れた。まだ何もしていないのに、誰とも会話すらしていないのに、どっと、疲れた。正確には、疲れたのだと、ドラマの台詞を聞いて初めて実感した。

「恋愛する人?」という言葉が深く心に入り込んできた事実だけがある。やばいよなぁとは思ったままだし、謎の焦りは晴れちゃいないし、これからどうするんだろうとも思う。ただ、とにかく今は、恋愛に関することを考えるのはやめよう。たぶん今の自分にとっていいことない。そんな結論がついた。不安要素を先延ばしにしているだけだけど、「恋愛する人? しない人?」と聞いてくれる人がこの世のどこかに一人でもいるのであれば、今無理に考えなくてもいいかもしれない。

『ももさんと7人のパパゲーノ』、観てよかった。録画を消してしまわないように番組に鍵をつけた。そうしてこんな夜を灯す、白色ではない優しい光が欲しくて、間接照明を買った。


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その照明は今、求めていた通りの暖かい色で、私の部屋を染めてくれている。スピーカーからは少しお久しぶりの藤井風を流している。声が優しくてのどかで、暗めのオレンジ色をしたこの部屋に合う。窓の外では微かに雨の音が鳴る。やっぱり、土曜の夜が好きだ。

恋愛だけじゃなくて、最近は転職についても少しずつ動き出していて、心がかなり忙しない。心を亡くすと書いて忙しない。そんなときは、土曜の夜のために1週間をやり過ごしてもいいかな。頑張らないといけないときには頑張るからさ。ハーゲンダッツでも食べて、眠れるタイミングで、寝ようね。


with きつねくん


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