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瓶の中のノミ

母は私に「勉強しなさい」と言ったことがない。
夏休みやテスト前でも何も言わなかった。ましてや、私がテスト勉強をしている横で、テレビを見てゲラゲラ笑っているぐらいだ。

でも、…いや、だからこそかもしれない。
私は自主的に勉強をする子に育った。勉強が、新しいことを知れるのが楽しかった。
友人に、「勉強しなさいって言われたことないんよね。」と言うと、「それははるちゃんが言われんでもするけやろ?私やったら怠けるもん。」と言われる。確かに。と思うが、答えは分かっている。

両親を喜ばせたいからだ。
ふたりはどんな小さなことでも褒めてくれる。そういえば、両親は褒めて伸ばすスタイルだった。
褒められると嬉しくて、もっともっと頑張ろうと思える。
小学生「計算問題がクラスで1番早く解けたよ!」
中学生「テストで学年1位とったよ!」
高校生「全国模試で3位だったよ!」
小さいことから大きいことへ。どんどん結果がついてきた。

ポイントは、すべてを同じ温度で褒めることだ。
ふたりは欲を持たなかった。プレッシャーもかけなかった。
「今回1位やったから、次も1位目指そう!」とは決して言わなかった。
「そっかぁ、すごいね!ハーゲンダッツ買う?」と言っていた。

両親の育て方に感謝し、尊敬している。
以前、母に秘訣を聞いてみたことがある。
母は言った。「瓶の蓋を閉めたくなかったんよ。」
「瓶の中にノミを入れて、蓋を閉めんければ1メートルぐらい跳ぶけど、蓋を閉めてしまったら諦めて、その後蓋を開けたとしても全然跳べんくなるんよ。」と教えてくれた。
そんな風に考えて育ててくれていたのかと、数十年越しに知った両親の愛情に言葉が出なかった。

蓋のない瓶の中で、私は充実した大学生活を送っている。

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