【短編小説】ペラペラのラブレター

 僕は国語が苦手だ。
 小学生のころからそうだった。中学生になっても、それは変わらなかった。
 それなのに、僕が好きになったのは、クラスでもピカイチの読書好きな女の子。だって、本を読んでいる横顔がキレイだった。ページをめくる指先に目をうばわれてた。
 彼女に告白したい。でも、直接伝える勇気がない。
 だから、僕はラブレターを書くことにした。そのために、彼女の好きな小説を読んだ。僕は国語が苦手だから、少しでも彼女が好きな言葉で、ラブレターを書こうと思ったからだった。
 けれども、彼女には気に入ってもらえなかった。

「これは貴方の言葉じゃない。だからペラペラ」

 そう言われた。
 借り物の言葉では、僕の想いが伝わらない。
 だから、もっともっと小説を読んだ。彼女が認めてくれるラブレターが書けるように。僕の中に溜まっていく言葉達が、いつか僕のものになるように。

 いつの間にか、僕は読書が好きになっていた。最初は彼女の読んだ本を探していたけれど、そのうちに、彼女がまだ読んだことのない本を探し始めた。
 国語は相変わらず得意ではなかったけれど、彼女と小説の話をすることが増えて、嬉しかった。

 高校に入る頃には、自分で物語を書き始めた。拙いけれど、彼女へ送るラブレターの練習みたいなもの。そう思うと、自然と筆が進んだ。
 だから、彼女にも読んでもらった。さすがにラブレターの練習とは、恥ずかしくて言えないけれど。
 彼女は、コンクールに出してみないかと言った。言われるがままに、小さなコンクールに出してみた。
 最優秀ではなかったけれど、特別賞を受賞した。
 僕はまた小説を書いた。
 言うまでもなく、彼女のために。

 そのうち、出版社にも自分で書いた小説を持ち込むようになった。自分の中に浮かんだ情景や世界を、言葉で形にするのが楽しくなった。
 小さな雑誌の片隅での連載が決まった時、彼女はとても喜んでくれた。
 僕は、小説を書き続けた。様々なジャンルの物語を紡いだ。どれもこれもが、彼女へのラブレター。

 僕は、ついに本を出版するまでになった。作家と名乗って差し支えないだろう。

「たまには、ミステリーを書いてよ」

 夕飯の食材が入った手提げ袋を片手に、隣で彼女が笑った。
 次は何枚綴りのラブレターになるだろう。

END.

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