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旅の思い出-リタイア戦士のスキー旅行/オーストリア

私が当時ドイツで働いていた時、また2つ離れている妹がマルタ共和国に留学していた時、父がオーストリアのバードガスタイン(Badgastein)という町にスキーに来ると聞いた。

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父は近年は毎年のように、海外にスキー遠征に行っていたし、昔はスポーツマンだったと聞いていたから、すごい人たちと旅行しているんだと思っていた。同じヨーロッパだし、ちょっと行ってこよう、というノリで行ったら、電車で片道6時間。妹は飛行機と電車を乗り継いで6時間。ヨーロッパ域内とは言えど広いい。けれど、日本以外で家族のReunion(再結成)がオーストリアの山の中で始まるのだ。

父はA型だけど文字だけがA型(字が整っている)、あとはO型のようなおおらかおおざっぱ人間(ちなみに私と母と妹は全員O型)。集合場所は宿泊先のレンタルアパートメントの住所が伝えられ、午後に集合、そして携帯電話の連絡先はなかった。こうやって、昔の人は会えることを楽しみに気長に待ったのかもしれないが、現代人の私たちは少し不安を隠せなかった。父は英語が喋れないし、一緒に来るスキー仲間(平均年齢65歳)に連れられてくるという。後で判明したことだが、一人の人を除いて皆英語が喋れなかった。

案の定、指定の場所に到着しても誰もいない。その町は、本当に小さな町で、冬にヨーロッパのスキー客で賑わいを見せる町で、アジア人がいたら目立つので、妹と歩いて探しまわった。しばらくすると、日本人のおじさん(ほぼおじいさん)集団が露頭に迷ってぼーっとしているではないか。私たちが案内し、無事に鍵を受け取りアパートメントに入った。この人たちは私たちがいなかったらどうなっていたんだろうか。。こうして家族の再結成は異国日で実現。

も、束の間、おじさんたちはバッグの中から、日本から持ち込んだつまみや酒を出し、早速つくなり宴会スタート。あれ、さっきまで死にそうな顔してたけど。

そんなおじさんたちの旅程は2週間。皆リタイアしているのでは時間だけはある。スキーが目的だと聞いていたが、現実は次の通り。彼らは朝6に時は起き、迎え酒(当然前日の夜も飲みまくっている)。“シェフ”と呼ばれるおじさんが、毎食日本食を振る舞う。朝からうどん。昼は納豆かけごはん。午前中10から12時にスキーして、午後は現地のスーパーでつまみを買い、地元の温泉に行き、宿に戻り、酒を飲む。だいたいこの繰り返し。

なんと豊かなスキー旅行なんだ。日本の温泉があるスキー場の近くの居酒屋がそのままオーストリアに引っ越してきた感じだ。毎日アルプスの絶景を眺め、好きなこと好きな仲間と過ごす。

日本でできることをわざわざ海外でしなくても、と思うが、それは彼らがやっと手にすることのできた、かけがえのない時間なのだ。彼らは、普通のおじさんにしか見えないが、日本の高度経済成長期やバブル期を支えてきた戦士だったのだ。

侍

思えば子供の頃、父は土日も出勤か家でも働いていた。それぞれの家族や、会社や事業を支えるために必死に働いてきたのだ。35-40年という長い年月を。今の日本を作ってきた戦士たち。それを考えたら、もう昼から酒を飲んでいようが、日本をそっくり海外に持ってこようが、文句は言えない。彼らが元気でいる間は、ずっと続けて欲しい。

そう願いながら、リタイヤ戦士たちと杯を交わし、時を過ごした。


今シーズンは、リタイヤ戦士たちは海外遠征には行けないが、それぞれ新しいことを見つけて、気ままに過ごしているに違いない。私の父は、ほぼ毎日ジムで体づくり、ジムに行かない日は何キロも歩いて公園や河原に生えている草花の研究に精を出している(ちなみに父の職業とは全く関係がない)。

仕事を一生懸命やってきた戦士だからこそ、こうして趣味にも一生懸命取り組めるのだと思う。人生の先輩から学ぶことは、やはり多い。

おとうさん、ずっと、ありがとう。またスキー遠征行けるといいね。



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