隙間がないように見せてるだけ
アルコールが自制心を乗っ取ってきたあたりで、誰かがこう言う。
彼女(彼氏)できた?
テンプレかのように毎回聞く言葉だけど、もしかしたら向暑はるの知らない飲み会のマニュアルがあるのかもしれない。
第一条「ほろ酔いのタイミングで恋愛の話を切り出すべし」
みたいな。
案の定盛り上がってしまうのだから、研修で渡されるマニュアルよりかは役に立っている。
そんなテンプレをちょうどいいタイミングで、既に”できあがっていた”大学からの友人が口に出した。
半年前から彼女のできた友人だから、当て付けか何かだと思っていた。
おれはいるよ。ぐへへ。
潔くて逆に好きだ。
おまえはかっこいいんだから。
その後に続く言葉が、彼女ができるよという慰めの言葉なのも知っている。
多分これもマニュアルに書いてある。
でも最近は、彼のようなどこか物足りない人の方が恋愛に向いていると感じる。
洗濯も掃除も料理も全然しない彼だけど、そんな隙間の多い人だからこそ一緒にいると楽なのかもしれない。
帰るのがめんどくさくなった、と言うので飲み会の後は向暑はるの家に泊まることになった。
家に着くや否や服を脱ぎ捨てるので、どうやら自分の家と勘違いしてるらしい。
いつの間にか冷蔵庫を勝手に模索していた。
ういんなーのふくろあいてるーざつかよー。
あんたに言われたくないわと思ったけど、ここで向暑はるにも隙間があることに気づく。
向暑はるは、表面上さえ整っていれば満足してしまう性格のため、見えないところで雑なところが結構多い。
掃除はするけど隙間の埃は気にならないし、
洗濯はするけど、シワは全然伸ばさないし、
料理はするけど、鮮度とかあんまり気にならない。
自分にもちょっとした隙間があることに内心ホッとした。
お風呂を上がったら、彼は向暑はるのベッドで勝手に寝ていた。
なんだか蜂の巣みたいに隙間が空いているように見えてきた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?