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マイ・ミューズ

既読がつかないままのLINE。
もう何年も前から音信普通、顔を合わしてもいないし声も聞いていない。
生まれも性格も趣味も全く違う、とうの昔に縁が切れてしまった彼女と私の唯一の共通点は文章を書くのが好きだということ。
まだ彼女と接点があった頃に教えてもらった彼女のアカウントをたまに覗きにいく。
ストーカのようだけれど気になってしまうので仕方ない。
創作欲が湧いてきたタイミングで何故か更新される彼女の投稿。こういうのを偶然というのか、同じ波動を感じていると思っていいのか。
単なる偶然の出来事に運命、という名前をつけてしまう夢見がちで短絡的な自分にいい加減呆れ果てる。
それでも彼女の文章を読んで自分も同じように文章を書き続けることで彼女の魂と繋がっていられるような気がしてならない。
それにどうしてここまで記憶の中の彼女に捉われてしまうのか自分でも分からない。
だが、そんな彼女への強い執着が徐々に静かで穏やかなものに変わっていくのを感じていた。
目を瞑り彼女の輪郭を鮮明に思い出す。
目の前の真実の全てを映し出してしまうような大きな瞳も、雪の結晶をかためてつくったようなおうとつのない滑らかな純白の肌もその全てが輝きを帯びて私の脳裏に深く刻み込まれていた。
私に美しい言葉や音楽を教えてくれたひと。
私の身体に芸術という種を蒔いてくれたひと。
私のこころの1番やわらかい部分に触れて消えない傷をつけて去っていったひと。
どれだけ時が流れてもいつでも記憶の片隅に残り続ける女の子。
彼女との時間はまるで琥珀糖のように色とりどりの光に溢れる儚く美しい結晶だった。
そう。もう二度と会わないだろう、記憶の中だけで微笑む少女は時を経て私のミューズ、女神になっていたのだ。

「マイ・ミューズ」

彼女に新しくつけた名前を空につぶやくとそれに答えるように彼女が返事をしてくれたような気がして思わず泣きたくなった。


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