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【短歌小説】死ぬんじゃねぇぞ

 窓に景色が映る頃 貴女の響く足を追う
      死ぬんじゃねぇぞ

たった2ヶ月しか経っていないのに
突然彼女は今、この部屋を出ていく。

彼女はアクション映画が好きな女性だ。
ブルース・リーもランボーも
彼女に教えてもらった。

僕はどちらかと言えば邦画派で、
静かな映画が好きなのだが、
是枝裕和や北野武を一緒に見ていると
いつのまにか彼女は寝てしまうことが多かった。

映画の感想を聞けば、
「それで?って感じ。」
とだけ言って
ビールをかっ喰らう。

そんな風に
まるで情緒がなくて、
派手なもの、分かりやすいもの以外は
受け付けない女性だった。

僕はどちらかと言えば、
というか、
かなり弱い男なので、
彼女といると安心した。

彼女ほどたくましい人種に
僕は出会ったことがなかったし、
そういう弱いものと強いものが
お互いの利害が一致して共生する
生き物同士みたいに守られてる感じがした。
僕が何を与えられていたのかはわからないけれど。

彼女は映画の中の主人公を見て
強ぇ奴はやっぱかっこいいね!
と言っていたが、僕からしたら
彼女は人類史上一番強ぇ奴だった。

彼女になんで僕と付き合ってるのか尋ねたら、
幸せになるために決まってんじゃん
と答えた。

意味がわからなかったけど、
それでいいと思った。
彼女の意味がわかったことなんて
一度もなかったのだから。

そして、あまりにも唐突に
それじゃ と言って、
部屋を出ていった。
生き方そのものが
アクション映画なのかもしれない。
彼女の足音だけが聞こえる。

こんな時、僕は彼女を止めることもせずに
彼女と観た映画のラストシーンを思い出していた。

絶望的な状況の中で、
主人公がバディへ、
再会を願って背中に語りかけるあのシーンを。

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