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ハッピーエンドは眠りについてから~ランタナ心の花~【第17魂】

【霊体救助魂   最後の一人】
  
利根川 喜義の件が済んだ後、ずっと公園に居た。人って何だろう、命って何だろうって芝生に寝転び、ゆったりと動く雲を見ながら考えていた。答えなんて何も出ない。わからない。懐中時計は十時を過ぎていた。
「後一人で天国だし、あいつらに会いに行くか」
  心話を取り出し天塚にお願いをした。
「あっもしもし、知り合いの家に飛ばしてほしいんだけどいいかな」
「可能です」
「平野 智則ってやつなんだけど」
「かしこまりました」
  目を閉じ、開くと一軒家の前に立っていた。
「モモは彼女居ないのに家買っちゃって。一人じゃ寂しくないかね」
『モモ』とは平野 智則の昔からのニックネームだ。さっそく家の中にスーッと入った。リビングから会話が聞こえてきたので覗くとそこに、近藤 友吉もいた。モモは小学五年生の時に越して来た。誠と友吉は幼稚園からの仲だ。
「おっ!友吉もいるじゃん。後で行く手間が省けたな」誠。 モモ。 友吉。
この三人はいつも一緒に居た。飲みに行くにもお互いの家でゲームをしたり、恋の話しをしたり何時でも暇があれば会っていた。誠は二人の会話に耳を傾けた。智則は立ち上がり冷蔵庫からお茶を出して、友吉にあげた。
「おいモモ、コップ三個もいらないだろ」
  テーブルの上にはコップが三つあり全部にお茶を入れてしまった。
「あっ、つい誠の分まで用意しちゃった」
  いつも暇があれば智則の家に集まっていたので癖で用意してしまった。それを見て誠は喜んでいた。
「まぁ元気そうで何よりだ。死ぬまで生きろよ」
          【カチンッ】
「あれ?なんでやネン」
          【カチンッ】
  せっかくなのでお茶を飲んで行こうと時間を止めてみたものの、液体のお茶が個体になってしまっていて飲めなかった。
「じゃ元気でな。手を振りながら壁をすり抜け外へ出た」
「ん?今誠の声が聞こえなかった?元気でなって」
自称だが霊感がある友吉が言った。
「いや聞こえないよ。まぁでも今までここに居たのかもな」
  智則が誠用に出してしまったコップを指差した。コップには誠が口を付けた跡が残っていた。誠はおもむろに顔を上げた。空を見上げて閉じた瞳にはいろんな思い出がこみ上げてくる。河川敷で夢を語り合ったりバカしたり。どんな事があっても励まし合って素敵な日々だった。あの日の様にはもう戻れないけど二人が元気そうで良かった。こみ上げたものを静かに胸にしまい込んだ。

  さようなら。

「う~ん、十時四十八分か。早めに助ける人の所に行っておこうかな。行き当たりばったりだと、大変だしな。時間も後三十分しか止められないし」
  智則の家を出てから腕を前で組みながら歩いていた。
「その前に、もう一度さやちゃんに会っておくかな。もしもし天塚さん最後にもう一度アパートに戻ってさやちゃんに会いたいんだ」
「かしこまりました。ちょうどいいです。
今ここで十三時二十三分に亡くなる方もお教え致します」
「あ、うん。誰?どんな人?」
「宮石 早矢華。あなたの妻です。自分で自分の生命を絶ちます」
  驚いた。
「マジかよ!なんでだよ。もっと、もっと早く教えてくれよっ!!!」
  天塚に怒鳴りつけた。怒りの余り口癖も出なかった。
「早く連れてけ!」
「ごめんなさい。でもまだ助かる時間はあります。目を閉じて下さい」
  アパートの前に移動した誠はすぐに中に入り早矢華を探した。
「どこだ」
  寝室には居ない。風呂場にもトイレにも。キッチンの部屋の隅に、膝を抱えて顔を隠してうずくまっていた。
「まだ大丈夫か?」
  隣に座った。
「なんでやネン。さやちゃんはまだオレの所に来ちゃダメだよ。確かに命を絶てばあっちで一緒に居れる。向こうでずっと隣に居れる。それは正直嬉しい。でもそれは違うよ。オレを亡くした時にさやちゃんは今悲しんでるよね。同じ様にさやちゃんが亡くなれば悲しむ人が必ず居るんだよ。 だから、頑張って一生懸命に生きてほしいんだ。オレの勝手かもしれないけど、それがオレの今の願いなんだ。だから…。聞こえないか…」
  誠は心の底から悔しく思った。どうやって早矢華が命を絶とうとするか考えて解決しなければならない。早矢華がどんな行動をするかわからないから無闇に時間も止められない。残り三十分しかない。誠がまず思い当たるのは、すでに薬を多量に飲んでいないかが気になった。寝室の棚の上に薬箱がある。さっそく寝室に向かい箱を見つけた。
「仕方ないか」
         【カチンッ】
  背伸びをして箱の蓋を開けて中を見た。
頭痛薬、胃薬、風邪薬、全てしっかりある。飲んでいない。
「よし」
          【カチンッ】
  次に思い付いた事は刃物だが、確信は無いので早矢華が動き出してからで良いと思った。命を絶とうなんて考えた事がないので、なかなか思い浮かばない。
「さやちゃんの側で考えよ」
「ん?」
ふとベッドに目やると紙切れが置いてある。
         【カチンッ】
「よっ」
  紙を取って床に置いた。
          【カチンッ】
  顔を近づけて見るとそれは手紙だった。早矢華から誠宛てに。

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