見出し画像

ハッピーエンドは眠りについてから~ランタナ心の花~【第18魂】

㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜
  まこちゃんへ
  手紙ありがとう。あの時側に来てくれたんだよね。私と永遠の愛を神様に誓ったのに、神頼みはダメみたいだね。ずっと一緒に居られるのが当たり前だと思ってた。ずっと幸せだと思ってた。たくさんの思い出をつくるはずだった。まこちゃん。何で居なくなったの?寂しいよ。今は私の心の中とアルバムにしかまこちゃんが居ないんだよ。まこちゃんを好きになれて嬉しかった。まだまだ知らない未来が待ってたのに、温もりを感じたい。一緒に居た時も、出逢ってからずっと幸せを感じ続けてたんだ。だから私もまこちゃんが居る所に行こうかな。ダメなんて言わないでね。私もまこちゃんを愛してるから。
ちょっと恐いけど待っててね。
     さやか
㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜㎜
「ウッ…な…んで…ッ」
  誠の顔は紙を丸めたかの様にクシャクシャになって泣いていた。早矢華は一向に動かない。顔も伏せたままだ。呼吸をしっかりしているのは確かだ。ゆっくり体が呼吸のリズムで動いているのが分かる。誠はまだ泣いていた。誠のすすり泣きと早矢華の小さな呼吸の音だけが時間と共に流れた。
┳┫┻╋┠┯┨┷┿┝┰┥┸╂┳┫┻╋┠┯┨┷┿┝┰┥┸╂┸┥┰┝┿┷┨┯╋┻┫┳┗┛┓┏┃━┼┴━┃┏┛┗┣┫┻┠┯┨┷┿┝┰┰┥┰┝┝┿┷┷┷╋╋╋┫┫
  早矢華の隣に誠は移動し懐中時計を見た。十一時五十一分。誠は落ち着きを完全に取り戻している。
  「オレの手紙は逆効果だったのか」
  少しだけ手紙を書いた事を悔やんだ。いや手紙を書いてなくても同じようになってたかもしれない。
「さやちゃん聞こえる?誠だよ。今側に居るよ」
  天塚が言っていた言霊。頑張れば伝わると言ったのに誰にも聞こえない。
「ありえないよな。せめて声が届けばな…さやちゃん!さやちゃん!!さやちゃん!!!
まことだよ大丈夫?」
  早矢華に反応は全くない。時間まで待つしかないのか。ただ待ってるだけでは落ち着かない。とにかく誠はどうすれば良いのか天塚に聞いた。
「もしもし。さやちゃんはどうやって命を絶つんだ」
「ごめんなさい。分かりません」
「そっか。ありがとう」
  心話をきった。
「困ったな、何をどうすれば」
懐中時計を見た。現在、十二時十六分。早矢華の人生の終わりまで後一時間と七分。誠がアパートに来てから早矢華は呼吸しかしてない。とても不安になってきた。目を離さないために目の前に座った。寝ているんじゃないかと思うくらい静かだ。早矢華は長ズボンのジャージに半袖シャツを着ている。ずっと早矢華から目を離さない。四十分後。ようやくぼんやりとだが異変に気付いた。
「ん?あれ?さやちゃんってこんな体の色してたっけ?」
  早矢華の腕の色がややピンク色っぽい。
「もしもし、さやちゃんの体の色がピンク色なんだ。ピンクというかオレンジというか見た事事ない肌の色してる」
  不思議に思い天塚に連絡した。
「ピンク色?オレンジ?鮮紅色·····まさかっもしかしたら一酸化炭素中毒かもしれません」
「いっさんかたんそちゅうどく?」
「ガスの有毒成分による中毒死かと。ガスを吸入する事で酸欠による意識不明、そのまま吸入し続けることで心肺停止で死亡する窒息死では」
  心話をきるなりすぐにカスタネットを叩き時間を止めた。
          【カチンッ】
「うおっ…ッこれはマズい。ウッ…さやちゃん!大丈夫か!」
  もうすでに部屋にガスが充満している。時間を止めたからこそ分かった。すぐにガスの元を閉めた。少しずつ微量のガスが漏れていた。大量に出していたら、とっくに亡くなっていただろう。と言うか薬を見た時や手紙を見つけた時に気付きたかった。誠は急いで、扉、ドア、窓。開く物は全て開いた。時間を止めているおかげでガスに摩擦などでの引火は無かったが、同時に風も無いためガスが部屋から無くならない。部屋にあるカーテンを思いきり引っ張って外した。 八歳の小さな体でカーテンを思いきり波を起こす様に全身全霊で揺らして、風を作ってガスを部屋から無くそうと必死に頑張った。
「さや、ちゃん生きてっ。頑張って生きるん…だ。ハァハァハァ」
  とにかく時間がある限りずっとカーテンで扇いだ。とにかく必死に扇いだ。そしてとうとうカーテンが手からすり抜けた。
「なんでやネン…」
  止められる時間が終わった。カスタネットは一瞬にして砂になり消えた。自然の風が虚しく吹き抜けた。
「クソーーーッ!何でだよ。何でもっと早く気付いてやれなかったんだよ」
  仰ぐ事だけに必死になって早矢華に触れる事もできなかった。
早矢華の元へ駆け寄る。「さやちゃん。さやちゃんっ。起きてよ。ねぇ。…ねぇってばっ。おいっさやかっ!…起きろ!」
  空気がひび割れんばかりに大きな声で叫んだ。早矢華がやっと動いた。
が、横に倒れた。
「……………………………なんでやネン」
(なんでやネン?)
  早矢華の唇が微かに動いたので耳を近づけた。小さな声が聞こえた。
「ま  こ ちゃ ん はつ   お んが ま だ へ んだ よ」
驚いた。声が届いた。
「聞こえるの?うん。ごめんね口癖は死んでも治ってないや。。。さやちゃん大丈夫?今側に居るよ。生きるんだっ」
「…も ぅ ぃ き れな ぃ」
  確かに誠に反応して応えているが、今にも死にそうだ。
「まだ来るんじゃない!死ぬなッッ!…死なないでよ。生きれないなんて言わないでよさやちゃん」
また小さく口が開いた。
「 ま こ ちゃん    す き だ  よ 」
  抱き寄せようとしたがすり抜ける。目の前でその様を見るのに耐えられない。今は声をかける事しかできない。早矢華がどんどん弱っていく、呼吸もままならない。
「生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ~~~~………………なんで、、、」
  十三時二十三分になった。
「ア゛ッッッッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」誠は4️⃣歳になってしまった。突然極寒の雪山に放り投げられたような旋律が誠を襲う。 ……………………………………………………………………………。
「どうして」
  誠は座ったまま放心状態。目の前で起きた事が受け入れられない。天塚が誠の後ろに現れた。
「大丈夫ですか?早矢華様はお亡くなりになりました。生きていれば彼女は、看護師の勉強をし資格を取りたくさんの命を救う手助けのできる女性になる予定でした。悲しいと思いますが仕方ありません。次、後一人頑張れば天国で一緒に居られます」
  誠は震える声でゆっくり話した。
「そんなのダメだ。まださやちゃんを救える方法ないかな。天国で一緒に居いるより、こっちで元気に生きてほしい」
  天塚はしばらくして口を開いた。
「今のあなただからできる事です。生き返らせます。ただしそれを行うとあなたは天国には行けなくなります。地獄にも行きません。行き先はただ、ただ永遠とさ迷うだけの闇の世界です。それでも良ければ説明致します」
「頼む」
  誠は小さな背中で迷わず応えた。
「かしこまりました。地獄に居た時、私があなたの心にランタナと言う花の蕾を植えました。本来の目的は満開になったその花を神様に差し出します。満開のランタナが天国へ行くための通門花なのです。今、満開ではありませんが早矢華様の命を返すための力は十分にあります」
  誠は立ち上がり天塚を見上げた。
「お願いします」
  天塚に頭を下げた後、姿勢を整えゆっくりと目を閉じた。天塚は、人差し指だけ誠の胸(心)にトンと触れた。
目をそっと閉じ、最初の時と同じように何を言っているかわからいが小さな声で呪文のようなものを唱えてた。目をバッと開くと天塚の手には七色に光る綺麗な花が存在していた。その光に気付き誠は目を開いた。
「おお綺麗だな。虹が咲いてるみたいだ。」
誠は感動した。
「満開になるともっと美しく咲き誇ります」
  ちょっと見てみたい。しかしそんな事を言っている場合ではない。

「この花をどうするんだ?」

「早矢華様の胸に押し当ててください。すると花は自然に体に浸透して、生き返ります。
花を心から離したあなたは、後四分しかこの世に居られません。急いで下さい」
  誠は頷いて天塚から心に咲いたランタナを預かった。
「とても優しい暖かさだね」
  手にしただけで心地好い気持ちになる。誠は早矢華の胸にランタナを当てた。
すると花が沈む様にゆっくり体の中へ入っていった。
早矢華の体が七色にうっすら光ったがすぐに光が無くなり、そして呼吸が始まった。
「凄い。ありがとう」
  天塚に礼を言った。
早矢華の目がゆっくり開いた。
「さやちゃん」
  小さな声が早矢華の鼓膜を優しく揺らした。
「…だれ?」
「まことだよ。見た目も声も幼くなったけど。ごめんね。勝手な事ばかりして。さやちゃんにはまだ生きててほしいんだ。また新しい幸せの形を見つけられると思うから」
  誠の体がだんだんと透き通ってきた。
「まこ ちゃん?うん。わかった。
それがまこちゃん の  ねが いなら私頑張って みる」
「ありがとう。愛してる…」
  誠は満面な笑顔のまま消えた。早矢華はゆっくり目を閉じた。
  天塚はあちらの世界へと戻った。
【第19魂】へ↓↓↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?