テル

人から聞いた話、自分が体験した話の怪談備忘録。

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怪談備忘録 第九夜 『見知らぬ浴槽』

これは私が子供の頃に何度も見た夢に纏わる話。 その夢を見始めたのは小学二年生辺りなので七歳の頃か、決まって明晰夢として見るものだった。現在は夢を覚えていることすら稀だが、子供の頃の私はよく明晰夢を見ていた。 夢の中でこれは夢だと気付く、そこから先は思い通りに夢をあやつる事が出来るが、私は大抵辺りを飛び回る事が多かった、何故かいつも低空飛行だったが当時は高い所が苦手だったからだろう。 明晰夢は現実も意識するので長くは続かない、夢と現実のせめぎ合いの中、如何に自分が見たい夢

    • 怪談備忘録 第二十二夜 『夢よりの使者』

      「夢を見るのよ」 「あの、それは怖い夢の話ってことですか?」 「いえ、ああ今はすごく怖いし厭だけど、夢自体が怖いって訳じゃないのよ」 「なるほど、聴かせてください」 「初めて見たのは木村さんの奥さん、よく憶えてる」 「真っ白な空間に木村さんがボーッと立ってて、ただそれだけの夢」 「確かに怖い夢ではないですね」 「そう、最初は特に仲が良かった訳でもないのに、なんで木村さんが出てきたんだろうと思ったのよ」 「はい」 「でもね、その日の朝起きてお昼頃に台所で洗い物を

      • 怪談備忘録 第二十一夜 『金縛りから始まる怪異を信じづらくなった話』

        これは数年前、私が初めて金縛りを体験した話。 それは平日の朝方の事、不意に私は全身が硬直している状態で目が覚めた。 意識ははっきりとしているのに手も足も全く動かす事が出来ない。目蓋ですら少し開くのが精一杯だった。 その状態にしばらく狼狽しながらも「これが金縛りというものか」と、初めての経験に少し嬉しい気持ちも混じりはじめた時だった。 ドンッ!!っとみぞおちの辺りに何かが落ちてきた。一瞬にして恐怖心が好奇心を払い除けた。 なんだ今のは…何が落ちてきた? 落ちてきたも

        • 怪談備忘録 第二十夜 『侵入』

          Kさんが体験した話。 ある夜の事、Kさんは無線機か何かを通したようなノイズ混じりの声によって目を覚ました。 声はマンションの外から聴こえてくるようで、会話の内容まではよく聴き取れないが、 「首吊り自殺」 という言葉が何度か含まれているように思えた。 こんな夜中に近所で自殺があったのかとKさんはメガネをかけると自室を出て、居間へと向かった。 居間と母親の寝室を仕切る引き戸が全開になっており、ベッドに眠る母親の姿が見えた。 そこでKさんはこれが夢である事に気付いた。

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        怪談備忘録 第九夜 『見知らぬ浴槽』

          怪談備忘録 第十九夜 『アンテナと蝙蝠傘』

          これは私が18歳の頃に体験した話。 東京のアパートで一人暮らしを始めた私は、誰に咎められる事もないので、休日は昼過ぎまでダラダラと寝て過ごす事が多かった。 上京した最初の夏の休日、扇風機しかない部屋で寝ていた私は暑さで目が覚めた。 Tシャツにトランクスでタオルケットだけをお腹にかけて寝ていたが、開け放した窓から入ってくる熱気で部屋の温度は外よりも上がっているように思えた。 つけっ放しの扇風機も熱風を送って来るだけで、むしろ不快にすら感じる。 テーブルの上の時計は午後二

          怪談備忘録 第十九夜 『アンテナと蝙蝠傘』

          怪談備忘録 第十八夜 『道との遭遇』

          これは私が子供の頃に体験した話。 当時の私は奈良にできた新興住宅地で暮らしていた。 まだまだ空き地が多く、住人は大阪から家を持つために越してきた家族がほとんどだった。 そこでは子供会なるコミュニティ活動があり、クリスマス会やお誕生日会、夏には空き地を使ったキャンプ、肝試しなどが行われていた。 私が小学五年生になった空き地でのキャンプの事である。 小学三年生までは21時に解散となり自宅に帰らされるが、四年生以上は次の日の朝まで空き地に張られたテントで過ごす事が許されて

          怪談備忘録 第十八夜 『道との遭遇』

          怪談備忘録 第十七夜 『無限の首』

          友人が体験した話。 彼が高校二年生になった頃、親が中古の二階建ての一軒家を安く購入し、賃貸マンションから引越す事になった。 思春期の彼にとってプライベートが確保されない、家族で住むには手狭なマンションからの引越しは、願ってもない事だった。 引っ越し先の家は、リフォームが入ったのか早くに手放されたのか、彼が予想していたものより新しく綺麗なもので、一階にはリビングとキッチン、風呂トイレがあり、彼の部屋は二階にあてがわれた。 親の寝室が一階にあるのも彼には喜ばしい事だった。

          怪談備忘録 第十七夜 『無限の首』

          怪談備忘録 第十六夜 『ブラインドの向こう側』

          これは、2024年2月13日午前2時過ぎに私が体験した話。 私は南側の道路に面したアパートの1階に住んでいるが、数ヶ月前から夜になると、西側の小さな庭を挟んだ隣の家から、お婆さんの声が聴こえてくるようになった。 時間は夜の10時頃から午前2時の辺りだ。 お婆さんと言ってもあくまで声から私が想像しているだけで、面識はなかった。 夜中、配信などのアーカイブを聴きながら庭のある掃き出し窓に頭を向けて布団にくるまっていると、ブツブツとその声が聴こえてくる。 配信の音を下げて

          怪談備忘録 第十六夜 『ブラインドの向こう側』

          怪談備忘録 第十五夜 『契約』

          友人から聞いた、彼が中学生の頃に体験した話。 憂鬱な月曜日の朝だった。 別に虐められている訳でもなく、友人がいない訳でもなかったが、学校が嫌いだった。 ただただ面倒で、月曜の朝は尚更そう感じる。 眠い目をこすりながらダラダラと着替えると、洗面所で顔を洗い歯磨きを済ませ一階へと降りていく。 母親は既に起きていて台所で洗い物をしている、父親はもう出勤して居ない。 テーブルにはトースト二枚とハムエッグとコーヒーが湯気をたてていて、準備の良さが余計に学校へ行く面倒さを際立たせて

          怪談備忘録 第十五夜 『契約』

          怪談備忘録 第十四夜 『パチパチパンチ』

          会社員、原さんの話。 彼は以前2年ほど住んでいたマンションで、土曜の昼間、毎週の様に幽霊を見ていたという。 「霊感も無いし幽霊を信じてる訳でもないけど、幻覚とは思えないし、まぁ…幽霊なんだろうね」 それは決まって土曜日の午後、彼が寝室のベッドで昼寝をしている時に現れた。 金曜の夜は映画やネットゲーム等で朝まで起きていて、土曜の昼間は夕方まで寝ている事が多く、そんな昼寝の最中、むせかえる様な息苦しさに目を覚ますと、居間に真っ黒な影が立ちこちらを見ている。 正確にはこちら

          怪談備忘録 第十四夜 『パチパチパンチ』

          怪談備忘録 第十三夜 『親指』

          会社員、石川さんの話。 彼は現在勤めている会社で元来の人の良さから同僚の手の回らない仕事も進んで手伝う事が多く、周りからも慕われていた。 しかし新しく異動してきた梶田という上司が彼の人の良さに目をつけ、彼をいいように使うようになった。 その上司は横暴な人間で、余計な仕事を増やされ他の社員へのあたりも強く、社内全体の空気が澱んでいくに従って、上司にいいように使われる彼が周りからは媚を売っているように見えたのか、嫌がらせのように同僚達も面倒な仕事を彼に押し付けるようになってい

          怪談備忘録 第十三夜 『親指』

          怪談備忘録 第十二夜 『古い銭湯』

          はじめに、汚物等の汚い描写があるため苦手な方は読まない事をオススメする。 今から30年程昔の話。 当時専門学生だった私は風呂無しのアパートに住んでいて、アパートから1分程の古い銭湯を利用していた。 番台には90近い虚ろな目をしたお婆さんが座り、息子と思われる60代ぐらいの男が作業をしていた。 その銭湯は外観に違わず中身も古いままで、ボタン式の蛇口から出るお湯はゴポゴポと出が悪く、時折赤錆のようなものも混じっている不快なものだった。 赤の他人と風呂に入る事にも慣れていな

          怪談備忘録 第十二夜 『古い銭湯』

          怪談備忘録 第十一夜 『夜明けの一杯』

          これは怪談備忘録 第十夜『鼻歌』と同じアパートでの話。 冬の休日、平日あまり寝ていない事もあって早くに眠ってしまった私は明け方に目が覚めた。時計を見ると午前四時を過ぎたところで、ブラインドの向こうもまだ薄暗い。 喉が渇いたので冷蔵庫から飲み物を持って来ると、一服したらまた二度寝するかとブラインドを上げ窓を開けた。暑がりで寒さが平気な私は、冬でも窓を全開にする。 窓を開けると既に止んでいたが、塀の上に三センチ程の雪が積もっていた。 そして雪とは別に何かが置かれている、網戸越し

          怪談備忘録 第十一夜 『夜明けの一杯』

          怪談備忘録 第十夜 『鼻歌』

          私が昔住んでいたアパートでの話。 そのアパートは三部屋ずつの二階建てで、駅から少し離れた閑静な住宅街にある築年数の古いものだった。 私の部屋は南側の一階角部屋で西側に玄関、東側には小さな庭に出る掃き出し窓があり、南側の腰高窓を開けると一メートル程先に高さ二メートル程のブロック塀があり、その向こうは大型車が通るにはギリギリの狭い通りになっている。 私はその腰高窓の前にソファーを置き、タバコを吸う際はその窓を全開にするのが常だった。 人通りは少ないが、タバコを吸いながら通

          怪談備忘録 第十夜 『鼻歌』

          怪談備忘録 第八夜 『ココ…ノガ…シヌ』

          会社員、田崎さんの話。 田崎さんは学生時代にバイク事故を起こし一ヶ月程入院した事があるが、病院の世話になったのは四十二歳の現在に至るまで、その一度きりだという。 都内の病院で貧乏学生だった彼は差額ベッド代のかからない六人部屋で、入口から左右に分けて三台ずつ配置されたベッドの右手の真ん中で寝ていた。 彼の友人関係は希薄なもので見舞いに来る程の者はいなかった。地方から見舞いに来た両親も次に訪ねてくるのは一週間後だ。 向かいのベッドの気のいいおばさんが見舞いの果物のお裾分けを

          怪談備忘録 第八夜 『ココ…ノガ…シヌ』

          怪談備忘録 第七夜 『茶柱』

          主婦、圭子さんの話。 午後三時、圭子さんはキッチンで五歳になる娘の美智子ちゃんとおはぎを食べていた。 熱い緑茶を湯呑みに注ぐと、真ん中に綺麗に一本茶柱が立った。 「あっ、みーちゃんほら!茶柱が立ったよ!」 その言葉に被せるようにして、眉間に皺を寄せギッと圭子さんを睨みつけたみーちゃんが 「あたしが死んだ時もそんな顔だったねえ」 と低い声で言った。 その声は娘のものではなく、半年程前に脳梗塞で亡くなった姑の声だった。 「生前も姑からは散々嫌味を言われ続けていましたが、

          怪談備忘録 第七夜 『茶柱』