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怪談備忘録 第二十二夜 『夢よりの使者』

「夢を見るのよ」

「あの、それは怖い夢の話ってことですか?」

「いえ、ああ今はすごく怖いし厭だけど、夢自体が怖いって訳じゃないのよ」

「なるほど、聴かせてください」

「初めて見たのは木村さんの奥さん、よく憶えてる」
「真っ白な空間に木村さんがボーッと立ってて、ただそれだけの夢」

「確かに怖い夢ではないですね」

「そう、最初は特に仲が良かった訳でもないのに、なんで木村さんが出てきたんだろうと思ったのよ」

「はい」

「でもね、その日の朝起きてお昼頃に台所で洗い物をしていたら、急に気分が悪くなってきて椅子に座ったの」
「そしたらね、私の体から黒い煙みたいなのがブワッて出てきて、それがだんだん固まって真っ黒な人の形になったのよ」

「それはびっくりしますね、モヤモヤした煙の塊みたいな感じですか?」

「いいえ、はっきりした人のシルエットなの、それで真っ黒でも木村さんの奥さんだってわかった」

「ほう」

「真っ黒だけど目と口はあるの、声は聴こえないけど何か喋ってるのよ、歯が見えるからわかるの」

「目は白目が見えるって事ですか?」

「そうそう黒目もあって私を見て何か言ってるのがわかる」

「口の動きで何となく何を言ってるとか想像できませんでした?怒ってるとか感情はわかりました?」

「何言ってるかはわからないけど、何となくニヤニヤしていて意地悪な事言ってるような気はする」
「それでね、しばらく何か話したら台所の壁を抜けて外へ出て行ってしまったの」

「ほう」

「それから一週間後くらいかな、木村さんの奥さんが亡くなった事を知ったの、それで亡くなった日を聴いたら、それが私が夢を見て黒い木村さんが出てきた日だったのよ」

「なるほど、予知夢というか虫の知らせ的な感じですかね」

「最初は私もそう思ったんだけどね…」

「というと?夢はそれからも見たんですか?」

「そうなの、年に数回は見てる」

「もし良ければお幾つからどれくらいのペースで見ているか教えてもらえます?」

「え?歳ばれちゃうじゃない…まあいいか、40歳になった時からだから5年になるかな、年に2、3回は見てる」

「パターンは同じなんですか?夢を見て黒い影が現れてその人が亡くなるという…」

「そう、でも亡くなってるかはわからないのよ、だって最初の木村さん以降、夢に出てくる人全く私の知らない人なんだもの」

「ああ、知ってる方が出てきて亡くなるのも厭ですが、知らない人ってのも厭ですね」

「でしょ、おじさんとか女性とか子供が出てきた事もあるのよ、みんなニヤけた感じで私に何か言って外へ出て行くの」

「後を追った事はないんですか?」

「あるわけないでしょそんな事、今は夢を見た日はパートも休むし黒い煙が出てきたらアレがいなくなるまで目を瞑ってる」

「確かに怖いですもんね、すみません」

「これって予知夢的な事と思いたいけど、私の夢から出てくるあの黒い何かが、私の知らない場所で知らない誰かを殺してるって可能性もあるでしょ?そう考えると凄く怖いし厭で仕方がないのよね」

「木村さんの死因はわかりますか?お幾つぐらいだったんでしょう」

「多分私より少し若いぐらいかな、突然の事で心不全って聴いたけど…」

「そうなんですね、でもあまり深刻に考えない方がいいですよ、最初に体験した木村さんの夢の衝撃が強くて、そんな夢と幻覚を見るようになったのかも知れませんし…」

「幻覚だって言うならそれに越した事はないんだけど、ただね不思議というか何というか…」

「何ですか?」

「私こんな体験が続いたら精神的に鬱になったりするんじゃないかって思うんだけど、あの夢とアレを見るようになってから精神的にも体力的にもむしろ元気で…若返ってきてる気さえするのよね、それがちょっと不思議かな…」

「確かに今聴いた年齢よりずっと若く見えますね」

「そうですよね、ありがとう」……

……そんなお話。

■メモ■
いつか対話体からちゃんと書き直そうと思う。

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