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パリの哲学カフェ

2011年11月に、パリで2箇所、哲学カフェを訪れた。理由は、当時勤務していた東京大学大学院情報学環福武ホールで、「UTalk」というカフェイベントを2008年3月から立ち上げから手掛けていたのだが、そのモデルとしたものの一つが市井の哲学カフェだったからである。

もともと哲学カフェとは、哲学者マルク・ソーテが1992年に設立したもので、コーヒーを嗜みながら議論をする場として市民に愛されたとされる。フランス革命も「カフェ」が民主的討論の舞台となり、そこから広がっていったものだそうだ。カフェの可能性に関しては、飯田美樹氏の『カフェから時代は創られる』に譲るとして、ここでは、学習環境デザインとしてのカフェイベントを捉えてみたい。

1軒目に訪れたのは、ヴァスチーユ広場にあるCafé des Phares(カフェ・デ・ファール)で、そこでは、毎週日曜日確か10時から開催されており、予約なしで入れる。これは大きなポイントだ。他記事でも繰り返すことになると思うが、ヨーロッパの文化的イベントは、予約制ではなく定時にそこに集まるパタンが非常に多かった。これがコロナの影響でどう変わったのかは非常に興味深いが、参加のハードルを下げているような気がした。ちなみに東大のUTalkは、私が退職した後、zoomを取り入れつつもコロナ禍で続いているそうだ。

話を戻すと、カフェ・デ・ファールの哲学カフェでは、参加者はお茶代のみで参加ができる。もちろん参加せず単なるカフェ利用をするのもOK、つまり傍観者的な周辺参加が可能ということになる。討議の議題は参加者から提案され、それを司会進行役が拾い(彼はマイクを使っていた)、お題を決める。その日は「屈辱」がテーマだったような気がする。細かいところはフランス語のできる友人に訳してもらっていたので定かではないが、議論の回し方はよく観察することができた。たっぷり1時間半は行っただろうか。最後に、後ろでメモを取っていた白髪の老人が立ち上がり、本日の議論を詩にしてラップアップしていた。なんともお洒落なリフレクションである。

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よく参加するという大学生にも話を聴いてみた。予約制ではないことについて訪ねたところ、入りきれなければ諦めるし、熱心に参加したければ早く行ってコーヒーを飲んで待つとのこと。なんとも合理的である。日本の各イベントは、こういったふわっとした参加を許さないところがある。市井に、通りすがりでも参加できる学びの場があることの意味を強く感じた。

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2軒目に訪れたのは、映画を鑑賞したあとに哲学対話を行うというciné-philoというもので、l'Entrepôt(アントレポ)という気持ちの良いレストランを併設した映画館で行われた。その日は移民問題を扱った難しい映画で、議論についていくことはできなかったが、主催者に話を聴くことができた。

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主催者のDaniel Ramirez氏は、もうこの活動を続けて長いそうだ。そして、今でも私はメーリングリストに入っているのだが、コロナ禍でもこの活動は継続されているようである。こちらも参加は、映画を観終えたあとに決めれば良い。映画を観終えてもやもや帰るよりはうってつけのイベントだろう。

このように参入障壁の低いノンフォーマルな学習環境が沢山あるエリアというのは豊かだなあと思う。


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