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自信を持って好きだと言いたい!

「あなたの趣味はなんですか?」

初対面の人にそう聞かれたら、私は自信を持って、

「ピアノです!」

と答えることができる。

だが、その答えを返すことができるようになったのは、つい最近のこと。

小学生の頃までは、この質問をされた時に上手く答えられていなかった。

ピアノが嫌いだったわけではない。むしろ好きだった。ただ、自分より上手い人はたくさんいるし、クラスにピアノを弾ける人は6、7人かいた。だから、「ピアノを弾ける」というだけで趣味としていいのか、もっと上手くないと趣味とはいえないのではないか、と小学生なりに悩んでいた。

そんな私に転機が訪れたのは中学生の頃。


私の中学では合唱コンクール(以下、「合唱コン」と略す)が毎年行われており、とても盛り上がる学校行事の一つ。伴奏者も指揮者も司会進行も、練習メニューも先生の助言はあるものの、基本的には全て生徒たちで行う。審査員の点数の合計によって各学年、金賞、銀賞、銅賞が決められる。そして、上手かった伴奏者と指揮者には伴奏者賞と指揮者賞が与えられる。

合唱コンが近づくと、朝練習や放課後練習をしたり、音楽の授業が増えたり、というように学校として、かなり力を入れている行事だ。つまり、合唱コンガチ勢の中学だった。

中学1年生の時は、クラスに伴奏をやりたい子がいたので、立候補しなかった。


中学2年生の6月頃、担任の先生に

「伴奏やりたい人がいないから、よかったらやらない?」

と言われた。(ちなみに先生はクラスの何人かに声をかけていた。)私は、

「少し考えさせてください。」

とだけ伝えた。家に帰ってから、とても悩んだ。


一応、クラスに自分以外にもピアノを弾ける人はいた。

もし、その子が弾きたいと言ってオーディション(私の中学では、伴奏者候補が複数人いた場合、音楽の先生の前で弾いて決めてもらうというオーディション制度のようなものがあった)になってしまったら、落とされるかもしれないという不安や、自分にクラスをまとめるような演奏ができるのかという不安、本番までに曲を仕上げられるのかという不安。

たくさんの不安が私を襲った。


考えた末に、私は伴奏をやることにした。自分のピアノがどこまで通用するかの1つの挑戦。

先生に声をかけていただいてから数日後、

「私、ピアノやります。」

と伝えた。

「おっ!やってくれるのか!ありがとう!そう言ってくれたのはお前だけだよ。何人かに声をかけたけど。」

この言葉を聞いて、私は「頑張ろう」と思った。ライバルがいないなら、少し気が楽だ。(オーディションで落とされる心配がないからね。)

伴奏をすると決めてから、事情をピアノの先生に話し、レッスンでやる曲を合唱曲にしてもらうことにした。それから毎日、少しずつ練習した。

日に日に上達していくのがとても嬉しかった。夏休みに入り、練習時間も増えていった。今までにないくらい、ピアノの練習を頑張った。大変だったが、辛くはなかった。最初は「とりあえずやるか。」というくらいのノリだったが、途中からとても楽しかった。今までにないくらい、ピアノが楽しかった。

夏休みが明け、合唱曲も完成に近づいていたある日、音楽の先生にこんなことを言われた。

「羽莉音さんとKさん(仮名)、あなたたちのクラス、伴奏どっちがやる?オーディションでいい?」


(アレ、オモッテタノトチガウ…)
(担任のせんせーい!!全然一人じゃないじゃないですか!!)


そう。伴奏をやりたいのは自分だけではなかったのだ。今までの私だったら、Kさんに譲っていたと思う。だが、せっかくたくさん練習をして好きになってきたピアノの練習時間をなかったことにはしたくはなかった。私はオーディションを受けることにした。

オーディション当日、私もKさんも、足はガクガクしていたし、声も震えていた。まず、Kさんが弾いた。とても上手かった。次に私が弾いた。足がガクガクしていて、ペダルを上手く踏めなかった。何ヶ所かミスもした。二人が弾き終わった後、先生は言った。

「今回は、羽莉音さんにお願いしようかと思います。」

「えっ本当ですか!?」

「二人とも上手でしたが、この曲に合った弾き方だったのは、羽莉音さんだったので。」

私は心の底から嬉しかった。Kさんは泣いていた。私とKさんで歩いて教室に戻っている途中、こんなことを言われた。

「私の分まで頑張ってね。クラスを金賞に導いてね。」

これを言われて、私まで泣きそうになった。

「うん。」

私たちは約束した。

それから合唱コン当日まで、毎日毎日、空いている時間は全てピアノの練習に費やした。家では、みんなが入りやすいように間の取り方を考えたり、曲に抑揚をつける練習をしたりした。学校では、放課後に残って指揮者の子と相談してタイミングを合わせたり、練習時間にクラスの子に「ここをもっとこうしてほしい。」と伝えたりした。

私は人前に立って何かしたり、自分の意見を言ったりすることが好きなわけではない。しかし、この合唱コンで中心メンバーの一人としてみんなを引っ張っていくのは楽しかった。

合唱コン当日、私はとても緊張していた。もちろんクラスのみんなも緊張していた。自分達の番がやってきた。私はピアノの前に座った。

指揮者の合図とともに、弾き始めた。

弾いている時の手や足は、オーディションの時のように震えていた。

そんなこんなで自分達の合唱を終えた。少しピアノでミスをしたものの、全体としては大成功だった。みんな、全力を出し切った。自分で聞き返しても、過去一全員の歌声と指揮、伴奏が揃っていたと思う。

全てのクラスの合唱が終わり、いよいよ結果発表。合唱を披露した順に、発表される。いよいよ私たちの番。



「ゴールド金賞!」




「やったあああああ!!」

教室中にこの言葉が響き渡った。伴奏者賞は貰えなかったが、とても達成感があった。

本当に嬉しかった。私は指揮者の子と抱き合って喜んだ。少し涙も出た。
その後、Kさんのところへ行った。そしたら、Kさんはこう言ってくれた。

「オーディションの相手が羽莉音でよかったよ。ありがとう。」

私も言った。

「ありがとう。」

この合唱コンの伴奏者を経験してから、私はピアノの本当の面白さと奥深さに気づいた。
例えば、ピアノの演奏に入る直前の間。頭の中で「1、2、3、」と数えて演奏に入る。優しい曲だったら優しく、力強い曲だったら力強く。曲中の音楽記号。同じ音楽記号だとしても、曲によって弾き方を変えて音色を変える

そして、私は大きく成長した。指揮者との打ち合わせを通して自分の意見を濁さずに言えるようになった。そして、もう一つ。「好き」が「趣味」に変わった。

合唱コンで伴奏をやると決める前まで、私にとってピアノは「好き」なだけだった。自分のピアノの演奏に自信はなかった。しかし、練習をして、上手くなっていく自分。弾く時の緊張感。Kさんとの約束。それらの全てが、私を「ピアノ好き」にさせてくれ、自信を与えてくれた。

得意じゃなくても、「趣味」と言っていいんだ。好きって言っていいんだ。

「自分が趣味だと思ったら、それは趣味になる。」

このことに気づいた私は、どんどん趣味を増やしていった。自己紹介記事にいくつか趣味を載せたが、他にもたくさんある。百人一首、天体観測、編み物…

趣味の基準が自分の中でできたとき、少し生きやすくなった気がした。

最後に、ここまで読んでくれたあなたへ質問。

「あなたの趣味はなんですか?」



合唱コンで伴奏した曲。
良い歌詞だなと思ったら、ぜひ聴いてみてほしい。

題名「時を越えて」
作詞作曲:栂野知子

君の夢が一つ
叶おうとしているね
熱い思い重ねて
たどり着いた場所
ここまでの道のりが
長く厳しかったこと
たくましくなった君の背中が
教えてくれる

この日の喜びと
この日の悔しさを
忘れないように
深く胸に刻み込もう
精一杯の声を出した
この瞬間がいつかきっと
君が生きていく力に
変わる時が来るから

君の夢が一つ
生まれようとしているね
何度も迷いながら
たどり着いた道
あの日がゴールじゃなくて
スタートだったんだと
真っ直ぐに輝く君の瞳が
気づかせてくれた

あの日の喜びと
あの日の悔しさを
つまずいた時は
そっと思い出してみよう
精一杯の力出した
あの瞬間がいつかきっと
君が生きていく誇りに
変わる時が来るから

精一杯の汗と涙
流した数だけきっと
君が生きていく強さに
変わる時が来るから

時を越えて羽ばたいて


※追記 サムネのイラストについて
 今回のサムネは、指切りのイラスト部分のみ、フリーイラストを使用しております。

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