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ノイス 安藤忠雄氏設計の美術館へ

グリム童話が好きでも、そのお姫様達には特に強い憧れがなかったという偏屈な私。
それでも真っ白なドレスのお陰で、一日だけお姫様に変身させてもらったことがある。
 
その時に会場に選んだのが、安藤忠雄さんが設計された建物だった。
場所を探している時に偶然見つけて、そして一目惚れをしてしまったのだ。
 
私はそれまで、安藤忠雄さんという建築家のお名前しか知らなかったので、この時に初めて、安藤さんの作品を直に見ることになった。
下見に出かけた時に、その美しさに思わず息を呑んだ。

写真で一目惚れをしてしまったその建物は、写真より更に美しい建物だった。
 
安藤さんは私のために作った訳ではないので、全くもって図々しいけれど、安藤さんに大声でありがとうございますと言いたいほど、その美しさに感動したのだ。
 
一番最初に、独学で建築を学ばれたと知った時には、本当に驚いてしまった。
のちに、ご自身の今までの経緯や、これからの将来など、多岐に渡るテーマについてお話される安藤さんの姿をテレビで何度もお見かけした。
少し嗄れた声で、関西弁でズバズバと語られる内容に、私はいつもドキッとさせられる。
 
孤高の人。
 
そんなイメージを持った。
 
孤高でありながらも、決して遠い存在ではなく、むしろ人間味溢れる安藤さんは、実に不思議な魅力を持ったかただと思う。
それぞれが、全く正反対の魅力だと思うからだ。
二つの魅力同士、お互いがお互いを打ち消すことなく、存在している。
このようにどちらもの魅力を持っているかたを、私は他に知らない。
 
安藤さんは長い間、人や街、そして子供達への貢献をされてこられた。
特に、地元である大阪には、世界最長の桜並木を作るプロジェクトを立ち上げたり、また中之島には子供達のための図書館を寄付されたりと、幅広い活動をされている。
お隣の兵庫県でも、阪神淡路大震災の竹灯籠が灯される東遊園地に、こども図書館を作られたそうだ。
子供の頃から本が大好きだった私は、そんな話を耳にする度に、なんて素敵な計画なんだろうとワクワクしてしまう。
設計を通して、街を、そして人の住む場所、そして将来について、広義にまた真摯に取り組まれてきたかたなのだと思う。

 
仕事には厳しく、人には優しい。
それが私の安藤さんへの印象だ。
ドイツには厳格なマイスター制度があるが、安藤さんはそんなマイスターの一人なのだと思う。
 
今の私は、安藤さんの建築を語れるほどの知識を持ち合わせていない。
ただ私は直感で、安藤さんが作られた建物を好きだと感じ、建築家としてだけでなく、安藤さんという一人の人間に対し魅力を感じている。

そんな経緯があり、安藤さんの作品をインターネットで見ては、行ける場所には足を運び、そして遠い場所はいつか訪れてみたいと、夢を膨らませていた。
 
そんな中、デュッセルドルフの隣町、ノイスという街に、安藤さんが設計された美術館があると知った私は、早速美術館に足を運んだ。

 
私が目にしたのは、インターネットの中の写真よりも数倍美しい建物だった。
いつも、想像を超える美しさだ。
 
何度も書くように、私には建築技術のことを語る基礎も知識もないのだけれど、私はすぐにこの建物を好きだと感じた。
安藤さんは、建築家でもあり、また芸術家なのだと思う。
 
 
以下、美術館の記録。
 
Langen Foundation ランゲン美術館
場所 Neuss

この美術館は、何もない広大な敷地の中に、ポツンと存在している。

近くには、Museum Insel Hombroichもあり、共通チケットがある。
Inselは島を表すが、その名の通り、ここには美術館が点在し、また作品名さえも付けられていない作品が、広大な土地に点在している。


この辺りになぜここまで広大な土地があるかというと、昔ここがNATOの基地であったからだという。
今も、敷地内にはロケット発射台跡が残っており、軍事用に使われたと思われる様々な建物が、今は芸術家たちの作業する場所や、展示品を置く場所になっている。
この場所を買い取り、芸術家たちが活動できる場を作ろうという動きがあり、この美術館一帯が整備され、今に至るのだそうだ。
 
ロケット台跡

その付近一帯の美術館の中で、安藤さんの設計された建物は、ひときわ目を引くものだ。
この土地の持つ、暗い過去すら忘れさせるほどだ。
これも、安藤さんの力なのだろうか。

こちらが、その建物。
 
雲一つない空。
水面に建物が反射し、言葉にならないほど美しい。

美術館内部

この通路の部分がとても好き

この美術館は、その名の通り、ランゲン夫人の多大な寄付により完成したという。
水面に浮かぶように見える建物は、他の安藤さんの設計にも多く見られる。
 
訪れた日は、とても良い天気だったので、特にその美しさが際立った気がする。
特徴的な打ちっぱなしのコンクリートと、ガラス。
それはどちらも無機質なはずなのに、なぜかとても居心地良く感じる。
不思議な場所。
それはまさに、孤高でありながら、人間味溢れる、安藤さんそのもののようだと思った。
 
建物を見ているうちに、インタビューの際、相手の目をしっかり見てお話される安藤さんの姿と、鋭い眼光が思い出された。
 
こんな場所が近くにあり、行こうと思えばすぐに行けるなんて、なんて幸せなことだろう。

 平日の静かな美術館。
ガラス越しに日差しが入る場所で、私は自分がお姫様になった一日のことを、懐かしく思い出していた。
 
美術館内は、例えば、幼い頃に祖母に抱きしめられた時のような、そんな温かさだ。
すっぽりと、優しく私を覆ってくれる。
それは、太陽が与えてくれる暖かさとは違う。
 
安藤さんへの憧れと、そして私の数々の思い出が、そうさせているのかもしれない。
 
日本食レストランが立ち並び、リトルトーキョーと呼ばれるインマーマン通りよりも、私にとっては懐かしい日本のように感じられたのだった。
 
私は安藤さんのお陰で、隣町ノイスに、小さな日本の故郷を与えられたような気がしている。

リトルトーキョー、デュッセルドルフの街についてはこちら

私の記事を、けんいち★人民熊猫さんが取り上げて下さいました。
こちらの記事も是非ご覧ください。

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