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ハルツ地方①魔女の集まるブロッケン山
ハルツ地方は、日本人観光客にはあまり馴染みがないかもしれない。
しかし、私の大好きな木組の街が多く点在し、美しい街並みを堪能できる。
ハルツ地方とは、ニーダーザクセン、ザクセン・アンハルト、チューリンゲンにかけてのドイツ中北部地方を指す。
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最初の街は、ヴェルニゲローデ Wernigerode。
ザクセン・アンハルト州内にある街だ。
ハルツ地方はハルツ山地とも呼ばれ、地図を見ても分かる通り、山や自然の多い場所である。
そして、北ドイツで一番高い山、ブロッケン山がある。
ドイツの最高峰は、南ドイツにあるZugspitzeで、その高さは2962m。
それと比較すると、このブロッケン山は1142mなので、それほど高くはない。
ヴェルニゲローデから頂上まで蒸気機関車が出ている事から、この街に観光客が集まる。
ブロッケン山は、ブロッケン現象の名前の由来にもなっており、この場所で頻繁に観測された事から名付けられたそうだ。
1年のうち、300日は霧に覆われるというこの山。
(ブロッケン現象:太陽光が背後から差し込み、周りに色のついた光の輪が現れる現象のこと)
そして、この山はゲーテのファウストの中で書かれた通り、魔女が宴会をする山としても知られている。
それが、ヴァルプルギスの夜Walpurgisnacht。
4月30日の夜、ほうきに乗った魔女達がこの山に集まり、かがり火を燃やす。
ゾクゾクするほど面白い。
現在もこの言い伝えの通り、4月30日にはこのハルツ地方の多くの街では魔女の仮装をし、お祭りが開かれるそうだ。
蒸気機関車に乗り、ブロッケン山へ向かう。
山に登る前日、蒸気機関車に石炭を積む作業を見ることができた。
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街からは約2時間の乗車時間で頂上まで行けるが、途中のSchierke駅から頂上までは、登山をすることにした。
Schierke駅まで、蒸気機関車に乗車。
初めての蒸気機関車に、ワクワクする。
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いよいよ、登山スタート。
この地点は、すでに標高500mほど。
ここから距離約8km、500mの標高差を2時間半でゆっくり登る。
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街を抜け、自然保護区域に入る。
この山で、このような青空に恵まれるとは、なんと幸運なことだろう!
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頂上に見えるタワーがゴール。
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登山ルートは、大きなゴツゴツした岩や石が多いが、急斜面はない。
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途中、真っ白な枯れ木の一帯に足を踏み入れた。
まるで墨絵のような風景に、ハッとする。
2018年の猛暑、嵐と山火事、気候変動と乾燥、そしてキクイムシの害も加わり、2020年までにハルツ地方一帯の木々の約80%が壊滅してしまった。
2018年、あの夏は非常に暑かった事を思い出す。
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360度この景色が広がっており、まるで異次元の世界に来てしまったかのよう。
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昨年、1592ヘクタール分が植林されたそうだが、伐採面積は2245ヘクタールも増加し、これはサッカー場約3900個分の面積に相当するそうだ。
この地域を救うためには、およそ1億本の木を植える必要があるという。
州が計算した結果、ハルツ地方ををかつてのようなおとぎ話の森に戻すには、15年かかるそうだ。
魔女の魔法で、一瞬に元に戻るわけではない。
今後の計画では混交林にするそうで、オーク、ウインターライム、スイートチェスト、ブラックローカストなど、乾燥期や気候変動に耐えられる樹木を植えていくそうだが、この計画には年間約1100万ユーロが必要だという。
環境王国と呼ばれるドイツでさえも、このような被害が発生している。
気候変動は地球レベルの問題で、そしてその原因の一旦はもちろん人間にあるのだろう。
ハルツの森よ、生き返れ!と強く願った。
途中には小川も流れており、さらさらと流れる水音が耳に心地良い。
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蒸気機関車は1時間に1本しか走っていないのだが、ちょうどハイキングコースと線路が交わる場所で、蒸気機関車がやってきた。
シュッシュー!ポッポー!と軽快に汽笛を鳴らし、ガタンガタンと豪快な音を立てて青空の中走る機関車に、登山客の皆んなが興奮する。
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ようやく頂上に近づき、登山道からアスファルトの道に合流。
遠くにタワーが見えてきた。
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気候観測所も見えて、頂上まであと少し。
お天気に恵まれていたので、登山途中からウインドブレイカーを脱いでいたが、ここまで来ると急に風が冷たくなり、慌てて羽織り直す。
手袋も再度しなければならないほど、風が強くて一気に冷えた。
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ブロッケン山頂上駅に到着。
ここから頂上は、残りわずか。
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ようやく頂上の1142メートル地点へ!
この青空、何とも言えない満足感に包まれる。
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頂上には、ゲーテやハイネの碑が建てられている。
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頂上には、インフォメーションセンター兼博物館、そしてホテルがある。
博物館には、魔女のお話や、この場所に縁のある文豪達の名前が列挙されていた。
昔々、自然や薬草の力に頼り病気を治癒していた時代。
その知識をよく知る女性達は、中世からは魔女と呼ばれ、悪魔の手先として恐れられるようになった。
1年のうち、ほとんどが霧に包まれ、人々を寄せつけない故、人々は想像を掻き立て、いつしか魔女が集まる山と呼ばれるようになったそうだ。
中世には魔女裁判が行われ、この地域に住む女性26人と男性2人が犠牲となり、火炙りの刑など残酷な罰を受けたようだ。
今はヴァルプルギスの夜には、魔女の仮装をした人々がこの山に集まり、かがり火を燃やすお祭りとなる。
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また、この場所は軍事用に使用されていた歴史があり、一般人は立ち入ることができない期間があったそうだ。
壁があった時期もあり、その一部が展示されている。
再度、市民の手に戻った事を記念する石碑も、ハイキング途中で見かけた。
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3階部分のテラスから、屋外に出る。
蒸気機関車が、煙を上げて走る様子が遠くに見える。
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360度の眺望は、素晴らしい。
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下山は、Wernigerodeまで蒸気機関車に乗車。
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途中の駅で乗り換えをしたが、給水作業や、連結作業を間近で見ることができた。
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なぜ山に登るのか。
そこに山があるから。
そう答えたのは、登山家ジョージ・マロリー。
では私は、なぜ山に登るのだろう。
大きな石を踏みながら、私はそんな事を考えていた。
森のハイキングも良いけれど、こんなゴツゴツの岩場もワクワクする。
ハイキングや登山は楽しいが、全く違う一面もある。
次にどの石に足を運べば良いのか、常に考えながら歩く。
何千歩も、何万歩も、その繰り返しをする。
ただただ、足を運ぶ事だけに集中する。
そして時々足を止め、目の前の道を見上げ、どのルートが良いのかを考える。
人生と似ているかもしれない。
毎日同じ仕事や生活をしているけれど、時々、これで本当に良いのだろうかと考える行為に、どこか似ているように感じるのだ。
そのうちに頭の中が無になり、何も考えずに歩いている。
自分の息遣いと、いつもより少しだけ激しく打つ心臓の鼓動に集中する。
あぁ、私はきっと頭を空にしたかったのだ。
なぜ山に登るのか。
私の答え。
空っぽになりたいから。
真っ白に枯れた木が並ぶハルツの山も、同じく空っぽに見える。
しかし、そこに小さな木々が植林され、命が育まれてゆく。
私も、空っぽになった身体に、清く強いエネルギーを蓄える。
私が次にこの地を踏むのは、いつだろう。
おとぎ話の森が生き返る、15年後だろうか。
深い緑に覆われたハルツのブロッケン山を、私はまたこの足で、力強く登るのだ。
もしかしたら、魔女にも会えるかもしれない。
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